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Posted by ミリタリーブログ at

2015年10月24日

戦術的選択(2)


 仮に国内にISなどの海外のテログループが銃器と共に流れ込み、車両で移動や警ら中の警察官に銃撃を加えて来た場合、果たして何%の警察官が正しく対応出来るのでしょうか?確実に撃ち返さなければ殺される状況下で窓ガラス越しに撃つことが可能でしょうか?最悪の場合、テロリストを即時に制圧して民間人への被害を最小限に食い止めるよりも、税金で購入した警察車両のガラスを壊さないことを優先して射撃を躊躇うかもしれません。

 銃器対策隊員や自衛官が片腕を損傷した状態でも応戦する必要がある場合、残されたもう一方の腕だけで拳銃をリロードする訓練は普段から行っているのでしょうか?その際、初弾を薬室に放り込むにはスライドを引く必要がありますが、壊してしまうことを恐れてリアサイトを装備品などに引っかけてスライドを引くことを躊躇したり禁止してはいないでしょうか?応戦して生き残るのは周りの人員の生命を守るために必要ですが、それよりも税金で購入した拳銃のリアサイトを壊さないことを重要視してはいないでしょうか?

 残念ながら「壊れるかも知れないからさせない」は訓練を施す側の説明力としては弱いです。その理論を基に腫物を触るように取り扱うことしか出来なくなるからです。逆に訓練を施す側としては「ここまでやったら壊れる」と説明出来る方が、与えられた武器・装備品の限界をより具体的に理解させることが可能となり、それを基により実戦的な操法を演練することが出来るようになります。頑丈と言われるカラシニコフ小銃ですが、自分はこれまでに2丁壊した経験があり、具体的なカラシニコフ小銃の「限界」を知ることが出来ました。その限界を知ることで何を具体的に得たのか?それは、そこまで壊れた状態をどうすれば射撃可能な状態に戻すことが出来るのかを知ったことです。

 銃撃戦に生き残るには勝つ(最低でも負けない)必要があります。それが唯一の目的です。その目的の達成の為に多少物を破壊したりすることを躊躇っていると、思考や行動の範囲に制限がかけられてしまい本来の目的が達成できない危険性があります。戦闘中には様々な状況を瞬時に判断して行動する必要がありますが、考え得る選択肢の中には「法的に正しいもの」や「部隊や組織の行動手順として正しいもの」や「全てを無視してでも戦術的に正しいもの」などが存在します。しかしながら、普段から「あれはダメ、これもダメ」と言われ続けていると、脳裏に刷り込まれてしまっていることで「戦術的に正しい」選択肢を排除してしまう危険性が生じます。

(3)に続く
  

Posted by Shadow Warriors Training at 17:40小ネタ

2015年10月18日

戦術的選択(1)


 「税金で買った物を壊すな!」だけでなく、「お前らの代わりはなんぼでもおるんや!」と教育期間中だけでなく第1線勤務となってもひたすら言われ続けました。確かに予算請求や調達は簡単なものではありません。官公庁の物品は、壊れたからといってどこぞのサイトから翌日配達で注文出来るようなシステムではありません。よって、官品を粗末に扱って壊されることを避けるために「物品愛護の精神」の大義名分の下、警察や自衛隊などでは先程のようなセリフが日常的に繰り返されています。

 官品の調達業務は、予算内に収まるか否かだけで購入の許可は下りません。それらを税金を投じて調達するにあたる理由が必要であり、その理由や必要性が認められなければ例え予算が余っていたとしても購入することは出来ません。説明を繰り返して必要性を説き続け、何重にも及ぶ「審査」課程を経てようやく承認され、納入業者と契約を結んで晴れて調達が実現した時には達成感よりも「二度とゴメンだ」との気持ちが本音です。私も装備品の調達業務を経験していますが、購入したい装備品が特殊であればあるほど一連のプロセスは複雑かつ長期化します。

 しかし戦術的な局面から見た場合はどうなのか?果たして日常的に言い続けられている物品愛護の精神は、差し迫った脅威に対処する上で役に立つのか?と言った議論は残念ながら成されておらず、強いて言えば避けて通られてきた感があります。そこで今回は急迫不正の侵害や脅威に対処する上で、命を優先するのか物品愛護を貫くのか、と言った戦術的選択について意見を述べたいと思います。

 タクティカル・トレーニングでは弾倉交換時に空弾倉は地面に落とします。手で受け止めることもしなければ、落ちた空弾倉を拾うこともしません。それよりも0.1秒でも早く新し弾倉と交換し、スライドを引いて初弾を薬室に放り込んで、眼前に差し迫った脅威を無力化させることを目指します。念のために付け加えますが、脅威の無力化は最優先事項ではありません。戦闘時における脅威の無力化は「唯一」の戦術的目標です。その他の行為はオプションであり、余裕があれば行うことも可能と言えるものです。

 その1つの例が空弾倉の回収です。戦闘の動きの中で地面に落とした空弾倉を蹴飛ばしたり踏みつけたりすることはあります。しかし戦闘の最中で弾の入っていない弾倉を拾うことの戦術的な意味はなんでしょうか?はっきり言って皆無です。動きを停めて身を屈めて空弾倉を掴む行為が、銃撃戦の最中で安全でないことは一目瞭然です。撃って下さいと言わんばかりの行為です。しかしながら、物品愛護を日ごろから繰り返し言い続けられ、普段の訓練でも空弾倉を回収する行為を行っていると、実戦でも同じ行動を取ってしまいます。

 人間とはパターンで行動する生き物です。日ごろ訓練していない行為は実戦で出来るものではありません。逆に、日ごろ訓練している行為は実戦で無意識的に行ってしまうものです。このことを理解した上で訓練しなければ、銃撃戦の最中に不用意かつ不必要な行動をとって、命を危険に晒すことに繋がってしまいます。

(2)へ続く
  

Posted by Shadow Warriors Training at 19:56小ネタ

2015年10月11日

ポリス・スナイパー(3)


 また往々にして射撃場で撃つ際の伏射ちの姿勢は実際の状況では取り難いものです。そのため、バイポッド等が使えない状況に備えて様々な姿勢や遮蔽物の陰からの射撃姿勢をひたすら訓練することがより望ましいです。その1つの例が上の写真です。射手の前に立つなんて通常の警察の訓練ではあり得ないでしょうが、銃口より前に立っている訳ではありませんので弾に当たる危険性はありません。自衛官の方ならこの様な立ち位置には何も抵抗ないはずです。もしこの位置が危険だと言われるのであれば、薬莢回収係は危険手当を支払われるべきでは?

 そして最後にローライト射撃のドリルとなります。詳しくは書けませんが、こちらからライトを照射しなくとも標的を確認することは可能です。そしてローライト射撃は特別なドリルを作成する必要はありません(勿論、ローライトの概念や注意点といったことに関する訓練は別に必要です)。上記の様な現実世界の状況を模した様々なドリルを、ローライトやノーライトといった環境下で実施するだけです。

 スナイパーと聞くと、長距離射撃や擬装、ストーキングやトラッキングといった特殊な技術の習得が必要かと思われがちですが、実際は警察系のスナイパーはそこまで要求されていません。実際の現場で必要性の低い技術の習得を目指してやみくもに訓練プログラムの内容を増やす必要はありません。現状を分析し、そこから得られたデータに基づいて必要性の高い分野の訓練に先ずは集中すべきです。一通り基本的な訓練を終えたならば上のレベルの訓練プログラムへと進むべきですが、前述のストーキングなどではありません。次は突入部隊との連携訓練となります。突入部隊の要請に基づいて素早く脅威を排除したり、突入部隊から見えない位置にいる脅威の情報を素早く的確に伝えたりと、チーム戦術で最も重要なコミュニケーション訓練へと進みます。

 実際問題として、狙撃技術は高くてもコミュニケーション技術が低い人もいますが、それではチームとして機能しません。標的を指定されて射撃のタイミングを指示されるだけの極々簡単な仕事でよければ別ですが、ハイレベルなチームの一員としてスナイパーは務まりません。チーム戦術に必要な3要素はShoot・Move・Communicate(射撃・移動・連携)ですが、前の2つはちょっと訓練すれば誰でも上達します。最も難しく上達するにはそれなりの訓練を受ける必要があるのが最後のコミュニケーションです。

終わり
  

Posted by Shadow Warriors Training at 14:31小ネタ

2015年10月04日

ポリス・スナイパー(2)


 これらデータは自分の部隊がこれまで経験した事案から得ることは勿論、他の機関や部隊が経験した事案からも得ることが望ましいです。特に我が国には専門の第3者組織がありませんので、この様なデータの蓄積と共有には部隊や省庁の垣根を跨いだ日ごろからの現場レベルでの横の繋がりが必要です(因みにSWTのプロ用コースで合同トレーニングを実施している目的の1つは、この横の繋がりのきっかけを作るためです)。ただし、警察系の事案と軍隊系の事案とでは様相が異なりますので、参考程度に蓄積するに留め、そのまま取り入れることは避けるべきです。

 例えば前回の様なデータが得られたとした場合、データを基にした訓練プログラムを作成するとなれば、当然800m先の標的を撃つ訓練よりも100m以内の標的の特定された極小さな部位に確実に命中させるドリルが考えられます。次に必要なものは様々な角度から特にガラスを撃ち抜いて標的に命中させるドリルとなります。一般的なガラスに始まり、強化ガラス、アクリル板、自動車のフロントガラスなど、部隊の作戦地域(Area of Operations)に存在し得る全てが「実験/検証」対象となります。

 逆に、射距離や弾薬の違いに応じてどの様な物体が弾丸を貫通させないのかも知る必要があります。その目的は弾丸が人体を貫通した後に後方の人質などに被害を与えないためです。貫通した弾丸がさらに別の人体や物体に被害を及ぼすことをOver Penetrationと言います。また標的を貫通した後の弾道のことをTerminal Ballisticと呼びますが、自らが使用する銃器のTerminal Ballisticとそれから発生し得るOver Penetrationを知らなければ実際の現場で無用な被害を自らの手で発生させてしまうことになるからです。

 銃器安全4則の1つに「標的の前後及び周囲を確認すること」とありますが、これを怠るとOver Penetrationによる被害が発生します。射場での訓練では大抵の場合、標的だけがダウンレンジに置いてあるのが普通です。しかし現実世界ではそうはいきません。そこで少しでも現実的な状況を再現するために、複数の標的をランダムに配置します。撃つべき標的と撃ってはならないものを明確に区別すると共に、単に標的を撃つだけではその後方にある撃ってはならない標的に当たるように配置させるのがコツです。これにより射座から単純にダウンレンジに向けて弾を撃つのではなく、標的とその周囲を入念に観察して余計な被害を発生させないために最善の角度から撃てる位置(FFP)を自ら探すドリルが完成します。

(3)に続く
  

Posted by Shadow Warriors Training at 14:10小ネタ