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Posted by ミリタリーブログ at

2017年04月30日

MACTACについて(1)


 MACTACという略語を聞いたことはあるでしょうか?MACTACとはMulti-Assault Counter-Terrorism Action Capabilitiesの略で、和訳するならば多重対テロ攻撃能力となるでしょうか、近年アメリカの警察機構にて重要視されている対処訓練の1つです。

 2008年11月26日夜から11月29日朝にかけて、インドのムンバイで外国人向けのホテルや鉄道駅など複数の場所が、イスラム過激派と見られる勢力に銃撃、爆破され多数の人質が取られ、殺害されたテロ事件がありました。死者171名、負傷者294名の犠牲が出ました。2015年11月13日に起こったパリ市内でのテロ事件では、スタジアムでの爆発を皮切りにバタクラン劇場や周辺での銃撃等により、死者130名、350名以上の犠牲が出ました。

 これまで場所的・時間的に単発攻撃であったテロに対し、これら両事件のようにテロ犯が複数のチームに分かれて同時多発的に攻撃を仕掛けてくるのが一種のトレンドとなってきています。対する警察組織はこれまでは単発攻撃に対して周辺地域を封鎖し、SWAT等を投入して対応することが一般的でしたが、この様な同時多発的攻撃に対処するための新しい戦術やコンセプト、また訓練がMACTACと呼ばれ欧米では警察部隊に課せられた新たな課題となっています。

 研究者達によって、兵法(Warfare)は世代分けされてきました。簡単に説明すれば、第1世代は中世から近代までの隊列を組んだ集団戦法による軍隊同士がぶつかり合う兵法(関ヶ原の戦い、アメリカ独立戦争など)、第2世代は近代における正面同士がぶつかり合う集団戦法であるものの銃火器や通信機器等を用いた兵法(アメリカ南北戦争、第1次大戦など)、第3世代は現代におけるテクノロジーの進化による速度や機動力を活かして敵後方からの攻撃も可能となった兵法(第2次大戦、イラク戦争など)、そして第4世代は国とは異なる組織による非中央化した組織構成をもって成される兵法(テロ、ゲリラ事案など)があります。更にテロやゲリラ組織にも属さない個人レベルでのアクティブ・シューター事案は、第4/5世代として第4世代と似通った性質を有するものの第5世代としてカテゴリー化されるべきかも知れない性質をも有していましたが、もしかするとMACTACは第5世代として将来カテゴリー化されるかも知れません。

(2)へ続く
  

Posted by Shadow Warriors Training at 23:37小ネタ

2017年04月23日

OPSECの弊害(3)


 従って、新しい技術や戦術を学びたい高い意識があっても、なかなか情報交換をする機会が与えられなかったり、ようやく情報が提供されたところでそもそも開示された段階で一定の制限が掛けられていたことから、真新しい情報が少なかったり肝心の部分が抜けていたりすることがある様です。

 それでも自分や仲間たち、強いては市民や国民を護るために彼らはどうしているのかと言うと、1つの例としては、情報交換や訓練の提供を行う非営利組織のメンバーに登録することです。この動きはアメリカでは特に盛んであり、警察署長クラスの学会とも呼べるIACP(International Association of Cheifs of Police)や、SWAT隊員等を対象としたNTOA(National Tactical Officers Association)、警察や憲兵隊の教官等が会員となるILEETA(International Law Enforcement Educators and Trainers Association)など多数存在します。そこでは組織の垣根を越えて、同じ高い意識を有する多くの仲間と知り合うことができるだけでなく、それら団体が提供する情報や訓練を受けることも出来ます。勿論、それら団体は「業界」のトップを目指すべく現職や退職した専門家が役員となって日夜研究を重ねているだけでなく、今ではそれら団体が提唱するスタンダードがその「業界」のスタンダードとして認識される程に成長しています。

 そしてもう1つの例が、民間のスクールで訓練を受けることです。世の中には思い付きで始めたとしか思えないほど程度の低いスクールも幾つか存在しますが、大抵の場合はそれまでの宮仕えの経験で感じた「必要とするトレーニングが受けられない」といった葛藤をバネに、「必要とする人に必要なことを提供する」ことを理念として設立されています。特に特殊部隊出身者から直接学べる機会は現職であってもそうそう有るものではなく、彼らの実戦経験に基づいた理論や戦術は、それこそ一般隊員や警察官が求めていたものです。それらスクールでは、同じ志を有する仲間と新たなネットワークを築き、互いの組織を離れて一緒に訓練出来る環境が与えられます。

 では、それら団体やスクールで学んだ内容が他に漏れる危険性はないのでしょうか?勿論、参加者の身分を審査することで、情報を提供して良い人物か否かは最初の段階で成されています。そして、訓練参加にあたては誓約書などで第3者への情報開示についての制限や免責について確認を取っています。これはSWTでも行っています。しかし、残念ながらリークする危険性は皆無ではありません。ですが、それは最初からある程度腹をくくっています。それをビビッていては商売になりませんし、それを気にして情報の開示を躊躇うようではOPSECが足枷となっていた宮仕え時代と変わりません。むしろ、例え官庁からクレームが上がったとしても、「おたくの組織でこのレベルの内容を教えてへんさかいに、皆うちを頼って来るんでっせ。それが面白うないんやったら、あんたらが自分らで教えたらどうでっか?」と逆に発破をかける位の心意気で皆運営を続けています。

 結局のところOPSECは必要です。守るものは守らなければなりません。しかしながら、それが自らの組織の発展や向上への障害となっている事実を知らなかったり見逃していては、元も子もない話です。OPSECを厳しくして必要とされる情報や戦術の共有を拒むのか、漏れる覚悟で必要とされるものを提供し全体の戦力強化に繋げるのか、今も昔も西も東も変わらず天秤は常に揺れ動いたままです。揺れ動いたまま苦労するのは天秤を握った上層部ではなく、揺れる天秤に振り回される現場なのですが・・・
-終わり-
  

Posted by Shadow Warriors Training at 19:27小ネタ

2017年04月16日

OPSECの弊害?(2)


 戦略に昔も今も大差が無くとも、戦術の変化(または進化)は日進月歩です。そこには武器の性能の向上や装具の変化に併せた「能動的」な側面もありますが、敵の戦術の変化、特に近年における正規軍でない武装勢力による非正規戦術に対応するためと言った「受動的」な理由もあります。

 我の生存率を上げるには、絶えず変化する敵の戦術を分析し対応策を訓練することが重要ですが、その分析には、起こった戦闘を遠く離れた場所から研究する組織よりも、実際に敵とやり合って教訓を得た組織の方がより詳しくデータやサンプルを有しています。同盟国であればその内容は共有されるものと思われがちですが、実際のところは情報開示には制限がかけられ、同盟国であっても直ぐに100%の内容が伝えられるとは限りません。その理由の1つが、共有する過程で起こり得る漏洩への危機感です。

 軍や警察組織はそれぞれ情報の機密レベルについての規定を有しているのはご存知の通りですが、1つの組織から他の組織に情報がもたらされた場合、その行先でその情報がどこまでのレベルまで浸透し、どの程度まで使われるのかを完全にコントロールすることは難しいことです。組織間のカウンターパート同士でシェアされた段階では、開示レベルや機密レベルについての相互理解があります。しかし、一旦それが別部門や別組織に提供され始めると、当初の機密保持レベルが維持される保証が次第に弱くなります。多くの人間が触れるほど、情報は漏洩のリスクが高まるからです。

 よって、同盟国の兵士や警察官の生存率を高めるために提供したいはずの情報ですが、ふとした緩みからリークする事で敵性勢力がこちらの対応策の斜め上を行く新たな戦術を生み出し、結果として自らを危険に晒すといったリスクが絶えずつきまといます。前回述べた手の内(特に未熟さ)をさらけ出すことへの抵抗と併せて、情報提供先での漏洩のリスクがあることから、OPSECを理由として同盟国のカウンターパートであっても隊員レベルで頻繁に合同訓練や情報交換をすることに制限が掛かっているとのことです。
(3)に続く
  

Posted by Shadow Warriors Training at 21:59小ネタ

2017年04月03日

OPSECの弊害?(1)


 近年、過去の訓練で知り合ったり、新しい訓練で知り合ったヨーロッパの軍人や警察官と交流したり訓練する機会が増えてきました。彼らと技術や戦術の交換をするのですが、そこにはお互いに何か新しい考え方や技術を知りたいといった好奇心や向上心があるのですが、彼らと話をするとどこの国の組織も同じ問題を抱えていることがよく分かります。

 その問題とはOPSEC(作戦保全)です。勿論、敵国や敵性勢力にこちらの戦術などの手の内を見せることはこちらの戦略的・戦術的優位性を損なうことに繋がりますので、情報の保全は必要です。しかしながらこの作戦保全そのものが足かせとなって、彼らも国内の他部隊や同盟国のカウンターパートとの合同訓練が出来ずに悩んでいることを知らされました。欧州軍やNATOと言った、日米同盟とは異なり多国籍な関係を有するヨーロッパでは頻繁に交流がなされているものと思っていましたが、それはあくまでも一部の部隊(SAS、GSG9、GIGNなど)に限っての話の様です。

 ドイツ国内にNATOの特殊部隊訓練校があり(因みにMIO/VBSS専用の訓練所はギリシャにあります)、そこでは他国の隊員と共に訓練を受けます。しかし、原隊に戻ってからは「公式」な形で交流を続けることが色々な制約があるそうです。その最も大きな制約が作戦保全であり、上官にカウンターパートとの合同訓練を進言しても、「作戦保全」を理由に却下されることが少なくないとのことです。

 ですが、本当に知られたくない事があればそこだけ開示しなければ良いだけで、実際には部隊の訓練の練度を見られたくないと言った理由が疑われています。合同訓練をすると勿論相手の良いところだけでなく悪いところも見える訳ですが、それを恥ずかしがって上層部が許可しないのでは?と言うのが彼らが口を揃えて述べています。
(2)に続く
  

Posted by Shadow Warriors Training at 00:24小ネタ