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Posted by ミリタリーブログ at

2014年02月28日

SAW(分隊支援火器)


 ベルト給弾式のマシンガンは火力優勢を保つための兵器として極めて有効です。Squad Automatic Weaponは分隊支援火器と訳されますが、米陸軍・海兵隊の編成では1個分隊に2丁配備されます。これまで受けてきた訓練でM249(Minimiと呼ばれるやつです)、RPKそしてPKMを使用しましたが、特に一撃で敵部隊の掃討を狙う伏撃(アンブッシュ)時には非常に有用でした。逆に対伏撃(カウンター・アンブッシュ)時にも小銃班の機動を援護する際に大変効果的でした。しかし問題はその連射性能にあります。

 射撃をしていると「し続けてしまう」といった問題が生じがちです。いくら100発・200発のベルトリンクを装填して扇状の射界に弾をばら撒くことが出来ても、一度に狙えるのは1点だけです。無駄にばら撒くことが出来る程の弾を携行することは不可能ですので、散発的に狙った標的に対して射撃します。しかし、その間は他の敵からは逆に狙われることになりますので、頃合いを見計らって移動する必要があります。ただ単に動くと狙い撃ちされますので、移動する際には味方の援護が必要です。それを得るためには味方と効果的に連携する必要があります。これらが銃撃戦時にすべきことの3つ(Shoot, Move, Communicate/撃つ・動く・連携する)となります。

 SAWはその連射性能の高さから「支援火器」として小銃班の移動を援護する訳ですが、反対に機関銃手の移動時には小銃班の援護が必要です。しかしここで連携を疎かにしていると、気付いた頃には小銃班がはるか遠くに…なんてことも起こりがちです。クソ重たい機関銃を持って小銃手と同じスピードで走れる訳がありませんので、追いつくのは大変です。ですから、なおさら撃つことだけに集中し過ぎることは危険なのです。

 ちなみにM249の「弾倉」には樹脂製のハードケースとナイロン製のソフトケースがありますが、米軍ではソフトケースタイプの物を通称ナット・サック(Nut Sack/玉袋)と言います。  

Posted by Shadow Warriors Training at 23:58小ネタ

2014年02月25日

国ごとの戦術スタイル


 米国で訓練を受けていることから主として米軍特殊部隊(陸・海・海兵)の連中と訓練を受けてきましたが、豪陸軍特殊部隊員(SASR)からも多くを学びました。アメリカよりも部隊の規模は小さいにも関わらずアメリカの1つの部隊よりも多くの任務をこなしているだけあって、米軍特殊部隊員よりも非常に知識・経験が豊富でした。残念ながら今はアフリカ某国で警備部隊の教官を務めていることから一緒に訓練する機会がなくなりましたが、ヨーロッパ寄りの戦術・思想を教えてもらいました。写真は豪海軍の迷彩服を着たSASRの隊員です。

 現在大きく分けて、アメリカ式・ヨーロッパ式・イスラエル式が戦術(特にCQB)のタイプとして存在します。ロシアはヨーロッパ式とイスラエル式の中間的な存在です。どちらも一長一短で、これが完璧と言えるものはありません。彼らのスタイルは彼らの戦いの経験から築き上げられたものですので、どれも理にはかなっています。一番クレージーだと思ったのはスペツナズのやり方でしたが、日本国内では一部のイスラエル式が有効ではないかと思います(詳しくはSWTのトレーニングを受けて下さい)。

 武道の流派のようなものですから、万能も最強もありません。万能かつ最強を求めるのであれば、全てをミックスした総合格闘技(MMA)の様なスタイルを確立する必要があります。しかし全てに均等するのは難しいもので、やはり最も多く経験したスタイルに一番ウェイトを置かれるのがどのスクールでも常識となっています。SWTでは8割アメリカ・1割ヨーロッパ・1割イスラエルとなっていますが、これはやはり私が米軍特殊部隊の連中から一番多く学んだことが影響しています。

 ただ、どのスタイルにも言えることですが、現場レベルでは実戦の最中は手続きや手順や法規や規程などは深く考えません。考えることはたった2つだけです。1つ目は自身(と部隊)の生存に関わること、2つ目はそれ以外の全てです。

 公務員は様々な規則・規程などでがんじがらめになっていますが、これらを意識するあまりに平時の思考回路が有事の際に邪魔にならないことを願います。撃ち合いになった場合は、先ずは自身(と部隊)の生存のみを考えて行動して下さい。後のことは生き残ってから考えればいいだけの話です。このマインドセットが国内の公務員にも広く浸透することを願います。  

Posted by Shadow Warriors Training at 19:40小ネタ

2014年02月11日

IRON FIST 2014(2)


 Immediate Action Drillの一場面です。IADとは、咄嗟の判断で対応するための訓練を言います。車列が襲撃された場合、近距離の敵から攻撃を受けた場合、敵狙撃手の攻撃を受けた場合、などなど多岐に渡る状況を個別に反復演練します。

 これらの「対応」訓練は一度成功したらOKとはいきません。何故なら「一度の成功」はただのまぐれであり、プロに必要なのは「一度も失敗がない」ことであるからです。以前のコラムでも、「素人は成功するまで訓練するが、プロは失敗しなくなるまで訓練する」と書きましたが、これが生死を分ける戦いへの準備として必要な心構えなのです。また、別の言い方では「Train hard, fight easy.(厳しい訓練をして、楽に戦う)」というのもあります。

 少し古い映画ですが、300(スリーハンドレッド)という作品をご覧になったでしょうか?あの作品で描かれたように、スパルタの戦士は普段から厳しい訓練を積んでいました。「スパルタ人は実戦が好きだった」との言われ方がありますが、これは戦闘が好きだったとの意味ではありません。彼らが実戦を好んだのは、彼らにとっては死者が出るほど熾烈を極めた普段の訓練よりも、実戦の方が明らかに楽に感じられたからです。

 素早い状況判断、的確な指示、条件反射的な対応、そして「運」。極限の状況で部隊の生存を左右するには、これらが重要な要因となります。「運」はどうしようもありません。しかし、残りはIADを繰り返すことで身体に染みつきます。

 まあやり過ぎると、予備自訓練で身体が勝手に反応して基幹隊員から訝しげな目で見られた上に周りの予備自が引く、なんてこともありますが...  

Posted by Shadow Warriors Training at 19:30小ネタ

2014年02月10日

IRON FIST 2014(1)


 さて今年もこの時期がやって参りました。陸上自衛隊と米海兵隊とのキャンプ・ペンデルトンでの合同訓練「IRON FIST」です。

 始まった頃は手順的なものばかりでしたが、回を追うごとに実務的な内容になってきております。欲を言えば、西普連や空挺団だけでなく是非とも全国の普通科連隊からも順番で人を出して欲しいと思います。

 写真は狙撃訓練の一場面です。Unknown Distanceと言って、標的までの距離が分からない状況での狙撃ドリルです。軍隊や警察の検定射撃では決まった距離に置かれた標的を狙って撃つので、サイトやスコープを距離に応じて合わせるだけでゼローイングが出来ます。しかし、Unknown Distanceではちょっとした数学を利用して標的までの距離を測り、その測定で出た射距離に応じてゼローイングを行います。一見難しいようですが、公式を覚えれば簡単です。計算機があれば算出は早いですが、紙とペンで計算する練習も欠かせません。なぜなら、計算機が壊れたや電池が切れたから射距離が計算出来ないでは話にならないからです。

 その測定の際に最も重要なことは、対象物の大きさがどの位なのかを「判定」出来る能力にあります。例えば人間の身長や車のタイヤの直径など、身近な物の大きさを普段から注意深く観察して覚えておく必要があります。測定の際には、それら対象物の大きさがスコープなどのレティクルに刻まれたメモリ幾つ分かを読み取って、公式に当てはめます。公式はミルとMOAで異なりますし、メートルとヤードでも異なりますが、大きくは異なりません。

 ただ、私が受けた狙撃訓練では、私とバディーで異なる基準のスコープを使用していたので、お互いに導き出した射距離を再度バディーのためにMOAからミルやその逆に変換する必要がありました。これは非常に不利でした、特に敵性勢力の攻撃下にある想定では。ストレス下では、戦闘の基本である射撃とコミュニケーションと運動だけで精一杯であるにも関わらず、計算(暗算)が加わるとはっきり言ってカオスです。軍や警察では同じ基準のものが使われますからその様な心配はあまりないでしょうが、コントラクターとしての訓練ではありがちな状況でしたから、逆に良い経験にはなりましたが。  

Posted by Shadow Warriors Training at 20:50小ネタ

2014年02月08日

準備と覚悟は?-後編


 FBIの統計で最も興味深いのが、現着した警察官が増援を待たずに単独で突入することで解決したケースが13件あるのですが僅か平均2分で解決(射殺・投降・自殺を含む)したことです。アクティブ・シューターは時間の経過と共に被害者の数は増えます。アメリカの警察では従来は安全を考慮して2人組や4人組で突入することを義務付けていましたが、「素早い突入=少ない犠牲者」となることが判明して以来、今では多くの警察署が単独で突入することをケース・バイ・ケースですが認めています。また、これら単独突入した警察官全員が戦術やテクニックに長けていたかどうかは解りませんが、一つだけ確実に言えることは彼ら全員が武器使用判断基準を良く理解すると共に、引き金を引く覚悟を決めていたことです。

 アメリカの警察官は撃ち放題、とは映画だけの話です。弾が当たろうが外れようが、自ら発射した弾の1発1発に法的責任が問われます。多くのアメリカの警察官が自己防衛以外のケースで発砲を躊躇するのにはこの法的責任が非常に大きなウエイトを占めています。しかし、上記の単独突入した警察官たちは、犠牲者を1人でも少なくするために引き金を引くことを覚悟していたのです。このような覚悟は現場で突然決めることは出来ません。普段からそのようなマインドセットを訓練されていなければ、十中八九、現場で躊躇していたはずです。

 更にもう一つ興味深いデータですが、全体では15%のケースで警察官が撃たれていると前編では説明しましたが、単独突入した案件に限って言えば23%のケースで警察官が撃たれています。それでもなお、「素早い突入=少ない犠牲者」がベター(ベストではない)な判断であると、警察幹部も腹をくくっているのです。

 しかしながら、日本であれアメリカであれ、現場の安全が確保されない限り救急隊は規制線の中には入って来ません。そこでアメリカではSWAT隊員の中にメディックがいたり、パトロールの警察官でも医療キット(米兵のTCCC/CLSキットと同等のもの)を携帯しているケースが増えています。加えて、政府機関が中心となりレスキュー・タスクフォースのコンセプトが立ち上げられました。全米で広く実現されるまでにはまだまだ時間がかかるでしょうが、このコンセプトでは防弾装備に身を包んだ救急隊が武装した警察官の護衛の下で、未だ安全が確保されていない現場の奥深くまで立ち入り、取り残された要救護者の手当てや搬送を行います。

 この様な「覚悟」は非常に大きなリスクを背負っていることから諸刃の剣ですが、我が国でも検討するに十分値するはずです。現場の安全確保や受傷事故防止など、組織や幹部連中は基本原則の原理主義者か!と思えることが多々あります(ありました)。「警察官がやられては助けられる人も助けられない」との考えは解りますが、マスコミを始め世間は「警察官の初動が遅い=事件が長引いて犠牲者が増えた」と認識しますし、立て籠もり事件とは異なりアクティブ・シューター事件では時間の経過と共に犠牲者の数は増え続けます。

 このブログを読まれている現職警察官の皆様は、おそらくテクニックや戦術に若干の不安を持たれているものの、「覚悟」は少なからずとも決めておられるでしょう。プロ用コースの受講者にいつも言うことなのですが、現場の人間がタクティカル・トレーニングを必要としているのは勿論分かりますが、本当は彼ら現場の人間を訓練する連中、組織の方針を決める連中、実務に使う装備を開発する連中にタクティカル・トレーニングを受けて欲しいのです。実戦がどんなものか分からない者に装備を開発したり、方針を決めたり、訓練を施したりすることは期待出来ません。実践と基本原則は違うからです。

終わり
  

Posted by Shadow Warriors Training at 22:31小ネタ