2017年09月18日
巷でよく見る間違い(2)

次に挙げたいのが、バリケードを活用した射撃の際の銃口の突き出しです。一時期流行った色々な角度や大きさの隙間が設けられたバリケードを用いたトレーニングにおいて、各種メディアで銃口を隙間から突き出して撃っている姿が広く出回ったことで、あたかもその様な撃ち方が正解の様に誤解されていますが、戦術的に言って完全な間違いです。
そもそもバリケードを活用するのは自身の防護のためであり、それは敵の弾から身を守るだけでなく、居場所を隠すことにあります。よって、銃口を突き出していては、折角拳銃弾や小銃弾から身を守れていても敵にこちらの隠れ場所を露呈していますので、対戦車ロケットなどより強力な火力によって壁ごと吹き飛ばされるのがオチです。従って、バリケード・ドリルでは、銃口を突き出さないように身体と銃を隙間の角度や形状に応じて変化させる射撃術を訓練する必要があります。そこでの大きな着眼点は2つ。1つは銃口の突き出しを避けること。もう1つはボアハイト(サイトパララックス)への対応です。
バリケードを活用した射撃は、固定物を利用した依託射撃とは異なることを理解して下さい。そして依託射撃を実施する際には、正しい方法で銃を固定物に依託する方法を身に付ける必要があります。
上の写真はドアフレームに銃を固定させて射撃精度を高めようとしている現役のとある保安官事務所のSWAT隊員ですが、全くどの様な教育訓練を受けていたのか疑問です。彼だけが間違っているならまだしも、この様な訓練時の写真を公開しては部隊全体の練度が疑われても仕方がありません。実際にこの後射撃することがあれば彼は痛い教訓を得ることが出来たのでしょうが、その際に熱くなった銃身に驚いて左手を引っ込めると同時に、「FUUUUUCK!」と喚き散らしながら安全装置が解除されたままのM4の銃口を周りに振り回したら最悪です。

依託射撃をする際は、上の写真のように被筒部を保持するのが常識なのですが、前出のSWAT隊員は果たしてまともな訓練を受けてきていたのか疑問です。なお、依託射撃をする際には銃口から固定物への距離に注意する必要があります。勿論、依託射撃だけでなく、バリケード越しでの射撃でも同様です。拳銃であればそれ程問題はありませんが、小銃の場合は着弾への影響が生じることになりますので。その理由をご存知の方は良しとして、詳しくはFighting Rifle コースでお伝えします。
(3)へ続く
2017年09月10日
巷でよく見る間違い(1)
最近ではアドバイザーが就くことで細部までリアリティーにこだわった映画やテレビシリーズを見ることが出来ますが、まだまだ全てとは言えません。また、海外のトレーニング・スクールでも全てのディテールまでこだわって指導している訳ではないことから、ネットの映像や画像では間違ったことが直されないまま世に出回っています。そこで前回装備品の着装方法について言及した続きとして、何点か紹介したいと思います。

まずはスリングについて。長物を拳銃と併せて使用する場合は、スリングの向きに注意する必要があります。特に1点式スリングの場合は、右利きの射手は右肩から左脇にかけてスリングの輪となる部分が通るようにしなければなりません。そうすることで手を離した際に、長物が自然と身体の左側に、つまり腰の拳銃とは逆方向に流れることになります。これを逆側にしてしまうと、吊り下げた長物が拳銃のあたりにぶら下がってしまい、トランジッションの妨げとなってしまいます。
なお、2点式の場合は、スリングを肩にかけるのではなく首にかけるのが最も使い勝手が良い方法になります。私は2点式を好みますが、その理由は、背嚢を背負っていてもスリングの引っ掛かりが少ないので小銃が取り回し易いことと、何らかの作業などのために背嚢を背負ったまま小銃を身体から外す必要があっても簡単に実施出来るからです。また、リグやベストの胸や背中の部分にスリングが重ならないことから、スリングと装具の引っ掛かりも少ないのも理由の1つです。
ただし、首にかけるやり方は小銃の重さが首にかかりますので、携行時には少し銃を持ち上げる様にして首への負担を減らす必要があります。ですがそれだけで首への負担を軽減出来るとは限りませんので、普段から首周りを鍛えておく必要はあります。

次に挙げられるのは、移動時のマズルの向きです。銃を両手で保持した方がリテンションが強く、万が一敵と格闘戦に陥ったとしても、銃を取られ難いといった利点があります。ただし、両手での保持を意識するあまり、上の写真のように銃口を左右に振っていては、銃器安全四則にも反しますし、なんせ横にいて銃口を向けられている味方が非常に気分が悪いです。
屋内戦などで移動速度が遅い場合はマズルダウンで構えても移動に差し支えないですが、野戦のように早い速度で移動する必要がある状況では、マズルアップが望ましいです。理由は、マズルダウンでは銃が脚の動きの妨げになるばかりでなく、万が一姿勢を崩してしまった場合の銃口の地面への接触を避けられるためです。また、味方を跨ぐ必要があっても味方に銃口を向けることもありません。
近年のCQB訓練の影響でマズルダウンがあたかも正しいかのような誤解が蔓延していますが、米海軍SEALではベトナム戦争時代からマズルアップでの移動を部隊SOPとしており、現在でも陸軍や海兵隊などの他の特殊部隊においてマズルアップに利点を見出せない部隊は存在しません。勿論マズルダウンでの移動が最適とされる場面はありますが、状況に応じてアップがダウンを使いこなせれば良いのであって、上の写真のような横方向へ銃口を向けることだけは避ける必要があります。

まずはスリングについて。長物を拳銃と併せて使用する場合は、スリングの向きに注意する必要があります。特に1点式スリングの場合は、右利きの射手は右肩から左脇にかけてスリングの輪となる部分が通るようにしなければなりません。そうすることで手を離した際に、長物が自然と身体の左側に、つまり腰の拳銃とは逆方向に流れることになります。これを逆側にしてしまうと、吊り下げた長物が拳銃のあたりにぶら下がってしまい、トランジッションの妨げとなってしまいます。
なお、2点式の場合は、スリングを肩にかけるのではなく首にかけるのが最も使い勝手が良い方法になります。私は2点式を好みますが、その理由は、背嚢を背負っていてもスリングの引っ掛かりが少ないので小銃が取り回し易いことと、何らかの作業などのために背嚢を背負ったまま小銃を身体から外す必要があっても簡単に実施出来るからです。また、リグやベストの胸や背中の部分にスリングが重ならないことから、スリングと装具の引っ掛かりも少ないのも理由の1つです。
ただし、首にかけるやり方は小銃の重さが首にかかりますので、携行時には少し銃を持ち上げる様にして首への負担を減らす必要があります。ですがそれだけで首への負担を軽減出来るとは限りませんので、普段から首周りを鍛えておく必要はあります。

次に挙げられるのは、移動時のマズルの向きです。銃を両手で保持した方がリテンションが強く、万が一敵と格闘戦に陥ったとしても、銃を取られ難いといった利点があります。ただし、両手での保持を意識するあまり、上の写真のように銃口を左右に振っていては、銃器安全四則にも反しますし、なんせ横にいて銃口を向けられている味方が非常に気分が悪いです。
屋内戦などで移動速度が遅い場合はマズルダウンで構えても移動に差し支えないですが、野戦のように早い速度で移動する必要がある状況では、マズルアップが望ましいです。理由は、マズルダウンでは銃が脚の動きの妨げになるばかりでなく、万が一姿勢を崩してしまった場合の銃口の地面への接触を避けられるためです。また、味方を跨ぐ必要があっても味方に銃口を向けることもありません。
近年のCQB訓練の影響でマズルダウンがあたかも正しいかのような誤解が蔓延していますが、米海軍SEALではベトナム戦争時代からマズルアップでの移動を部隊SOPとしており、現在でも陸軍や海兵隊などの他の特殊部隊においてマズルアップに利点を見出せない部隊は存在しません。勿論マズルダウンでの移動が最適とされる場面はありますが、状況に応じてアップがダウンを使いこなせれば良いのであって、上の写真のような横方向へ銃口を向けることだけは避ける必要があります。
(2)へ続く
2017年09月04日
標的識別について(2)

現実世界では標的となる生きた人間がじっと動かずに撃たれるのを待っていることはありません。また、その周りにいる味方や第3者も同じく移動せずに突っ立っていることはありません。その様な状況においても銃口管理(Muzzle Awareness)と標的識別(Target Discrimination)に加えて、自らの安全確保のために遮蔽物の陰に入るといった色々な事を考えながら行動しなくてはなりません。

特に車両伏撃や航空機内での制圧などといった敵味方が至近距離で混在する状況においては、敵味方の識別に加えて、撃つ・撃たないの判断を瞬時に判断しながら行動する必要があります。航空機は外側から攻撃し難い構造ですが、バスや列車は外側と内側の両方から攻撃を仕掛けます。そこでは味方が自分の射界に入ることは当たり前の話で、場合によっては自分の射界に敵と味方と第3者が混在することになります。
その様な状況では、敵を識別して「撃つ・撃たない」の判断を行い照準を定めて引き金を引こうと条件反射的に行動する身体を、その敵の周囲に存在する味方や第3者の存在を認識して「撃てる・撃てない」の判断を行う頭脳が押さえつける必要があります。そうでないと敵を撃ったものの貫通した弾丸が敵の後方にいた味方などに当たることに繋がったりします。これが、シューター(射手)とシンカー(考える人)の決定的な違いとなります。訓練をある程度積めば「撃つ・撃たない」の判断能力を養えます。ですが、「撃てる・撃てない」の判断を下すには、その能力の養成を目的とした訓練を受けなければ養うことは困難です。現実世界で突然その様な状況に出くわして失敗するか行動をためらってしまう前に、標的識別を目的としたカリキュラムの訓練を受け、より多くの自衛官や法執行官の方々が来るべき日に備えることを望みます。
終わり