2017年08月27日

標的識別について(1)


 今回のトピックは標的識別(Target Discrimination)についてです。Discriminationとは「差別」と言う意味合いも持ちますが、ここでは暴力やヘイトの対象としての「差別」ではなく、標的に対して撃つ・撃たないの「区別」をすることを意味します。

 紙の標的だけを相手に射撃訓練は積めるのか?基礎的な技術を身に付けるための訓練であれば答えは「イエス」です。ですが、実戦的な状況を再現して射手に「撃たせる」だけでなく「考えさせる」ためのハイエンドな訓練であれば答えは「ノー」です。この2つの訓練での決定的な違いは何なのか?それは一方は標的の「認識」だけが必要であることに対し、他方は標的の「識別」が必要となっていることです。

 ダウンレンジに標的を立てただけの射場では基礎的な射撃訓練しか実施出来ません。そこでは単に標的を認識して、挙銃・照準・撃発がなされるだけです。基礎訓練ではこれをほぼ条件反射的に実施出来る様にどの組織や部隊も努めています。リアクションタイムを少しでも短くすることが自らの生存率を上げることに繋がりますので、標的を発見してから射撃までの時間の短縮が訓練の主課題となります。

 ですが現実世界では異なる脅威レベルの複数の敵が存在したり、味方や第3者が居合わせたりするので、脅威レベルの識別/判別・敵味方の識別・射角の確保といった、「考える」行為が必要となります。詳しくは書けませんが、警察や自衛隊が保有する射撃シミュレーターではある程度まで現実世界を再現することが出来ます。しかし、スクリーンに映し出された映像を相手にするだけでは現実的な3次元の世界を再現するには限界があります。

 写真はとあるスクールでのForce-on-Force訓練の一場面です。これを見て普段の射撃訓練との違いを感じて頂けれるでしょうか?残念ながら日本国内でこの様な訓練を行っている部隊はごく僅かです。大半は射手(シューター)を養成するだけの訓練で終わり、この写真の様な状況において考えて撃つことの出来る「シンカー(Thinker)」の養成まで時間を割けていないのが現状です。自由意志を持った人間を相手にしたForce-on-Force訓練や3次元環境を再現した訓練、更には混在間での射撃訓練を、現場でいきなり遭遇する前に体験したい方は当スクールのClose Quarters Gunfightコースを是非ご検討下さい。損はさせません。  

Posted by Shadow Warriors Training at 23:09小ネタ

2017年08月20日

サプレッサーについて


 今回の小ネタはサプレッサーについて。個別にちょこちょこ質問を受けたり、巷に溢れる情報に間違いが多いので、公開出来る範囲で書きたいと思います。

 まず、基本的な話しとしてサイレンサーという呼び名は間違いです。音を完全に消す(Silence)事は出来ず、抑制(Suppress)させることが限界です。よって、技術的にはサプレッサーという呼び名が正しいです。ではどの程度音量を抑制出来るのか?低減効果はサプレッサーの長さや直径にもよりますが、大抵は25~35db(デシベル)程度の音量の低下が期待出来ます。一般的な射撃用の耳栓が25~30db程度の低減効果を有し、ヘッドホンタイプのイヤーマフが20~25db程度の低減効果を有しています。

 安全基準として140db以上が聴覚障害を起こさせる音量とされていますが、14インチ以上の銃身を有する5.56mm小銃の場合は銃口付近での音量は165db程度です。よって、25db以上低減させることが出来れば、辛うじてイヤプロなしでも聴覚障害を起こさないギリギリのレベルまで下げることが期待出来ます。ただし、長期的な聴覚障害への危険性はゼロには出来ないので、サプレッサーを使用してもイヤプロを併用する事が望ましいです。

 次に初速への変化ですが、これは殆ど変わりません。そして命中精度も同じく、殆ど影響はありません。では何が大きく変わるのか?それはマズルフラッシュの抑制と、機関部側へ吹き戻されるガス量の増加です。


 こちらの写真は一般的なサプレッサーの断面ですが、多数の気室を設けることで銃口から抜け出るガスを閉じ込める構造となっています。銃口から出るガスが多ければ多いほど銃口から出る音が大きくなるので、弾道への影響を最小限にしながら余分なガスを閉じ込めるために計算された構造となっています。銃口から吹き出る余分なガスを閉じ込めることでマズルフラッシュが抑制されます。これは特に夜戦などの低照度環境下においては重要なことです。せっかく発射音を低減しておきながら、大きな光を発射するごとに相手に見せていてはこちらの居場所を暴露してしまいます。音と光の双方を抑制することが更なる隠密性の向上に必要であり、サプレッサーはその双方を低減させる効果を有します。

 そして銃口から吹き出るガス量を抑制するという事は、通常の状態で銃口から外に吹き出るはずのガスがサプレッサーを含めた銃身部内に残ることになります。内部に溜まったガスがサプレッサーから自然に抜け出るまで間隔をおいて単発で撃つなら別ですが、続けざまに射撃する場合は抜けきれないガスがたまり続ける事になります。よって、ピストン式の場合は規正子を調整するなどして、ガスブロックに吹き戻されるガス量を調整しないとピストンが正常に作動しない事もあります。また、M4の様なガス吹付け式の場合は、ボルトを押し下げるガス量が通常よりも増大することから、射撃する度に排莢口から普段以上の量のガスが吹き出できます。よって、射手の顔に着く煤の量が増えます。

 この拭き戻されるガス量を調整する部品も売られていますが、取り付けの有無に関わらずサプレッサーを使用して射撃する場合は通常よりも高い頻度で清掃・整備をすることが必要となります。

 更に、サプレッサー内に高温の射撃ガスが溜まり続ける事によって、射撃を続ける限りサプレッサー自体の温度が上昇します。温度が上昇し過ぎると金属で出来たサプレッサーが変形し破損します。では銃身は?銃身はサプレッサーよりも肉厚ですのでサプレッサーよりも耐熱性があります。よって、サプレッサーが破損する時点までは銃身はまだ使える状態ですが、機関銃でも数100発ごとに銃身交換が必要ですので、そこまで撃ち続けると銃身も交換するタイミングとなります。まあ、サプレッサーの素材と、口径と発射速度(何れもガス量を左右します)にもよりますが、500発程度がフルオートで耐えれる限界でしょう。この事からSurefireを始め主要なメーカーは、フルオートでの射撃を控えるようにユーザーに対し訴えています。


 ではより音量低減効果を高めるためにはどういった裏技があるのか?2007年公開のアメリカ映画「ザ・シューター/極大射程」(原題:Shooter、邦題:極大射程)にてマーク・ウォルバーグが演じるボブ・リー・スワガー海兵隊一等軍曹が水の入ったペットボトルに銃身を差し込んで簡易的なサプレッサーとしていましたが、これは理論上可能です。と言うのも空気中にガスを発射するよりも、液体の中にガスを発射する方がガスの放出量は抑制されますので、結果的に音量の抑制にも繋がります。ただし、22口径などの小口径弾での話であって、そもそもガス量の多い5.56mm弾でやれば撃発と同時にペットボトルは吹き飛びます。

 では、サプレッサーを水に浸して気室を水で満たしたら?残念ですが引力により、サプレッサーの下半分にしか水を溜めることが出来ません。実際にサプレッサーにはドライタイプとウェットタイプの2種類がありますが、下半分にしか液体を溜めておけないことと、連続発射による高温化による液体の蒸発によって、ウェットタイプでもそのポテンシャルを完全に出し切れません。また銃撃戦の最中にサプレッサーに液体を溜める余裕はありませんので、現時点での技術では狩猟用などの限定的な用途に留まっています。

 まあ、裏技の裏技としてサプレッサー内の全体に液体を溜める方法も実はありますが、それは一般には公開出来ませんのでブログでは書けません。プロ用コースで質問されたら答えるということにしておきます。  

Posted by Shadow Warriors Training at 18:07小ネタ

2017年08月08日

止血隊編成??


 2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けたテロ対策の1つとして、消防庁が爆発物や銃による負傷者の救助に対応できる救急隊員の養成に乗り出すとの発表がありました。爆発物テロによる四肢断裂や銃傷への対処として、止血帯(ターニケット)の使用を救急隊に訓練させるとのことです。これまで頑なに止血帯の使用を拒んでいた我が国の一次救命処置からはようやく1歩進んだように思えますが、残念ながら絵に描いた餅でしかありません。

 爆発物テロや銃器テロが発生した現場に救急隊が即座に駆け付けたとしても、現場の安全が確保されるまでは警察の規制線の外側で待機が続くだけです。止血帯の使用は医療行為であっても、その運用を医療的視野からしか考えられないようでは、残念ながら欧米にのスタンダードに追いつくにはまだまだほど遠いです。警察と消防との間で協定等が結ばれ、警察官が救急隊を防護することで救急隊が規制線の内側で活動出来るようにするならまだしも、2次爆発やアクティブシューターの危険性が残っている現場に丸腰の救急隊を投入して負傷者を救護させるなど論外です。

 テロ対策?医療的側面からで戦術的側面から一切検討されていない計画のどこがテロ対策なのか?既にその様な事件を経験し対策を講じている諸外国の事例を研究しているのか、全くもって疑問です。テロ行為のパターンやトレンドを研究し理解していれば、止血帯を用いた一次救命処置の訓練は救急隊よりも警察官が受けるべきであることが明白なはずです。


 爆発や銃撃が1回の攻撃で終わる保証はありません。連続攻撃が危惧される状況で救急隊を送り込むなど無責任な話しです。そして安全が確保されるまで規制線の外で待っていれば、規制解除された段階で止血帯の適用が必要であった負傷者は既に失血死しています。よって、自衛のための小型武器の携帯を許可され規制線の内側で行動出来る警察官こそが、テロ事件の現場における止血帯の運用訓練を受けるにより相応しいのです。消防庁が首都圏の消防機関に止血帯の訓練を施すとのことですが、同時に警察庁も重い腰を上げて欲しいものです。

 また、警察官の数に余裕があれば、救急隊が待機する規制線の外側まで負傷者を搬送することも期待出来ますが、必ずしもそうはいきません。そうなれば一般人である現場の生存者にも一次救命処置の手助けを期待せざるを得ません。よって、テロ対策を本気で考えているのであれば、赤十字などが施す一般人向けの救急法にも止血帯の使用を課目として加えることを望みます。  

Posted by Shadow Warriors Training at 21:48小ネタ