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Posted by ミリタリーブログ at

2022年06月26日

ウクライナ侵攻に見る情報戦・心理戦について(3)


 戦争には国際的なルールがあります。軍の施設として利用されていない民間施設を標的にしたり、軍人ではく民間人を標的とすることは戦争犯罪です。それと同様に情報戦にも一定のルールが存在します。真実の情報を開示したり、国際的な義務を遵守するように圧力をかけるための情報運用は合法とされていますが、ロシアが行っている様な敵国の民間人を対象にしたプロパガンダなどによる印象操作は違法と位置づけられています。

 しかしながらその様な情報戦は共産国の国家戦術であることから、違法であろうが印象操作を止めることはしません。では、敵国からもたらされた偽情報などのプロパガンダに対しどう戦うか?端的に言えば、より多くの正しい情報を発信し続けるしかありません。ウクライナでは今回の戦争より前のクリミア半島がロシアにより不法に併合される前から、対ロシア情報戦が激しく行われていました。ウクライナ領内に居住するロシア語系住民はロシアからもたらされたプロパガンダを唯一の情報ソースとしていました。そこでウクライナ軍はウクライナ政府や州の情報をロシア語で伝えるラジオ番組を開始しました。

 この様な取り組みはエストニアでは2007年に首都がロシア側(容疑)にハッキングされた後から取り組まれています。政府系の情報をロシア語で伝えるテレビ番組が開始され、国内に居るロシア語系住民に対してロシア・プロパガンダを打ち消す情報を出し続け、エストニア領内のロシア語系住民をエストニア側につけさせる努力を行っています。

 その様な実例がある中で、果たして我が国は…
中国海警の船艇による領海侵犯に対し遺憾の意を唱えるだけ。ほぼ国営放送と認識されるレベルの公共放送は1日の中の極短い時間帯のニュースを英語で伝えるのみ。国内に居住する仮想敵国出身者に対する防御的な情報戦を行う国家戦略が皆無としか言えない状態…
そもそも攻撃的な軍事力に劣る国家は外交力も相対的に強くないことから、自らの身を護るための術としては情報戦の能力を向上させる必要なのですが。まあ、それには情報運用の省庁間調整といった、駆け引きや出し抜きなどの公務員の世界の汚い部分が関わってきますが。

 今回のウクライナ戦争で1つはっきりしたことは、巷でいう軍事力ランキングはあてにならないということです。開戦前はロシアとウクライナの戦力差は明白であり、軍事力ランキングも大きな差がありました。ですが開戦後は、兵士の数や戦車・戦闘機の数、科学技術力や工業生産力だけを単純に比較したランキングでは図り切れないことが判明しました。勿論、兵士の練度や士気といったものもランキングを左右する要因でしたが、今回の戦争が明らかにしたことは、攻撃面でも防御面でも情報戦・心理戦を巧みに使うことが出来る政治のリーダーシップが国家の命運を左右する重要なファクターであることだと思います。

終わり
  

Posted by Shadow Warriors Training at 23:15小ネタ

2022年06月05日

ウクライナ侵攻に見る情報戦・心理戦について(2)


 相手の考えや行動を揺さぶるための心理戦に不可欠なのが情報であり、それを操作するのが情報戦となります。前回述べた様に、情報には誤情報、偽情報、対立意見などが含まれます。国の立場を守るために正しい情報を提供し続けることは重要ですが、それは防御的な情報の使い方に過ぎません。攻撃には正しい情報に加えて、誤情報、偽情報、対立意見が巧みに用いられます。

 平時の状況を見ても分かるように、中国の海洋進出に関し当の中国政府は自身に非があることは一切発せず、日本や米国を批判し続けることに徹しています。明らかな嘘や欺瞞であることは当事国としては明白ですが、アフリカなどの遠い第三国にしてみればどちらが真実か分からないため、インフラ整備や金融政策などで手助けをされれば偽情報であるにも関わらずそれが真実であると信用してしまう。そして国連総会などにおいて中国よりの意見を述べたり投票などで中国をサポートする側にまわる。情報戦による結果の一例です。

 つまり情報戦で重要なことは、情報の質、量やタイミングだけでなく、敵対的な情報が牽引力を得る前に関与することにあります。情報が信じられるか否かは誰が何を発するかだけでなく、受け手である外部の観察者によって裏付けられた場合に信頼性を生み出します。

 今回のウクライナ侵攻においてロシアの情報戦キャンペーンは偽情報を国の内外に発しています。加えて外部から入る都合の情報を制限することにも力を入れています。平時の中国や北朝鮮とほぼ変わりません。ですが、それよりも強いイニチアチブ(主導権、牽引力)を持って自国や敵国にだけでなく諸外国に対して迅速に関与したのはウクライナ側から発せられる情報でした。破壊したロシア軍の戦車の映像や撃墜したロシア軍の戦闘ヘリの画像、更には国内に残り強いリーダーシップを発揮する大統領自身の姿を発信することで国内に対しては士気を鼓舞し、ロシア軍に破壊された学校、病院、住居の映像を発信することで国際社会に対してはロシア軍による暴挙を知らしめる。既に普段からロシアの国営メディアが流す情報に懐疑的であったことから、ウクライナ側が出す対ロシア情報は西側社会を中心に早い速度で受け入れられ浸透しました。その結果ウクライナは、西側社会からの膨大な額にのぼる軍事援助を引き出すことに成功しています。

(3)へ続く
  

Posted by Shadow Warriors Training at 23:44小ネタ