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Posted by ミリタリーブログ at

2016年03月27日

戦闘外傷ケアにおけるトリアージカードについて


 厳戒態勢の中においてまたしてもヨーロッパでテロ攻撃が起こりましたが、今回は爆発物が使用されたことからパリで起きた銃器による攻撃よりも被害規模が大きくなりました。上の写真はボストンマラソンのゴール付近で起きた爆破テロの被害状況の様子ですが、ブリュッセルでは空港や地下鉄にて爆発が起きたことから、十分な明りがなかったり煙が充満していたりと、この写真の様子よりは助けるにも逃げるにも悪条件が重なりました。

 この様な被害者が多数発生した事案では、多重傷害案件として救急隊が要救護者の怪我の程度に応じて搬送順位などを決めることになりますが、搬送や治療の優先順位付けを行う行為のことをトリアージと呼びます。民間では怪我の程度や意識レベルに応じて、緑・黄・赤・黒のタグを付け、そのタグに負傷の部位や程度を記入します。軍隊におけるトリアージでも専用のタグやカードを使用しますが、民間のそれとは若干記入する内容がことなります。

 SWTでは戦闘外傷ケアに特化したコースとしてCombat Life Saverコースを提供していますが、最近当コースを受けに来られたお客様の中で、他で似たようなトレーニングを受けた方が居られました。しかし、何故か彼らは時間をお金を費やして受けに行ったトレーニングにも関わらず、そこで手渡された(買わされた?)トリアージカードの内容について一切説明を受けることがなかったそうです。もしかすると同じ様にカードは持っていてもその内容に関して一切説明を受けていない方が他にも居るかも知れませんので、必要となった際に正しく使えるようにこの場を借りて戦闘外傷ケアに用いるトリアージカードの内容を説明したいと思います。


 これは米軍で用いられているTCCC Card (DD Form 1380)の表面です。同盟国として共同作戦能力を高めるために、NATO諸国でも似たような様式が用いられています。カードは防水紙のものもあればプラスチック製のものもありますが、何れも10センチx15センチ程度ですので、スペースが限られていることから略語が用いられています。この略語が分からなければ、要救護者の状態が把握できても正確にカードに情報を記入することが出来ません。正確な要救護者の情報がなければ後送先の医療スタッフが迅速かつ正確な対応を取ることができ難くなりますので、要救護者の命を1秒でも早く救うためには実際に使用する遥か前の段階でカードの内容を理解しておく必要があります。

 1段目のEVACですが、これはEvacuation(避難)の略です。怪我の程度等に応じて、Urgent(緊急)・Priority(優先)・Routine(通常)の何れかにチェックを入れます。2段目にあるLAST 4とは、認識番号の下4桁のことです。DATEは生年月日(DOB・Date of Birthとも記載される場合があります)のことですが、記入様式はDD-MMM-YYとなっていますので、例えば2016年3月27日は27MAR16と記載します。月がMMMとして3文字で表記するように指定されているのは、10-09-74が1974年10月9日か9月10日なのか明確にするための措置です。

 そして3段目にあるMechanism of Injuryですが、ここでは傷害の原因となったものを当てはまるもの全てにチェックを入れます。IEDが即席爆弾でRPGがロケット弾であることはお判りでしょうが、GSWとMVCとは何の略でしょうか?GSWはGun Shot Woundの略で銃傷を意味し、MVCはMotor Vehicle Crashの略で車両(衝突)事故を意味します。よってIEDで車両が吹き飛ばされて破片物が身体中に刺さると同時に転覆衝突による脊椎への損傷などを負っている場合は、IEDとMVCの双方にチェックを入れます。

 4段目にあるTQはTourniquet(止血帯)のことです。その種類(Type)により、CATやSOFTT、TK4やRATなどと記入します。5段目には心拍数や血圧、呼吸数や血中酸素濃度などを記入しますが、これらは専用の器具なしでは測定出来ません。心拍数や呼吸数ならなんとか計測出来ますが、戦闘外傷ケアは戦場で戦闘中に実施するものですので、銃声や爆発音の中で正しく聞き取って計測できるものではありませんので、Care Under Fireの段階では不可能です。測定器具があり使用出来る状況であればTactical Field Careの段階か、Tactical Evacuationの段階でしか無理でしょう。しかし、Care Under Fireの段階でもAVPUの判定は可能です。AVPUとは要救護者の意識レベルの判別に用いるもので、Alert(意識あり)・Verbal(問いかけに応じれる)・Pain(痛覚のみに反応)・Unresponsive(無反応、意識無し)の頭文字からなります。なお4段目にある測定項目が計4回まで記入出来るようになっているのは、時間の経過による要救護者の容態の変化を記録するためです。


 では裏面を見てみましょう。Treatmentとして処置の内容を記入しますが、上からC(Circulation/循環)、A(Airway/気道)、B(Breathing/呼吸)となっています。その下のCは同じく循環器に関する項目ですが、ここでは輸液に関する内容を記入します。更にその下のMEDはMedication(薬剤)で、投薬した薬の種類や量などを記入します。MEDの下にあるOTHERの項目では眼球の損傷や骨折、低体温症の予防措置などについて記入します。その中でも最も略語が多く使われているのが最初のC・A・Bの項目ですので、ここに関してもう少し詳細に説明します。

 Circulationの項目では止血の場所や方法を記入します。四肢なのか、関節部なのか、体幹部なのかを選びチェックを入れます。圧迫包帯を用いたのであれば、一般的なものなのか、止血剤入りのタイプなのかを選びチェックを入れます。Airwayの項目では、損傷なしであればIntact、経鼻エアウェイを用いたのならNPA、輪状甲状靱帯を切開したのならCRIC(Cricothyrotomy)、気管挿管を用いたのであればET-Tube(Endotracheal Tube)、声門上気道器具を用いたのであればSGA(supraglottic airway)にチェックを入れます。そしてBreathingの項目では酸素吸入を行ったのであればO2を、胸腔脱気ニードルを挿入したのであればNeedle-Dを選択します。

 なお、このカードに記載の処置内容は、CLS(Combat Life Saver)のレベルで出来るものと、それより上位にある衛生兵(Combat Medic)以上でなければ出来ないものとの両方が予め記載されています。TCCCは現場である戦場からのフィードバックを基に頻繁にガイドラインが改定されており、衛生兵以上を対象としたTCCC-MPは2015年6月に、一般兵であるCLSを対象としたTCCC-ACは2014年6月に改定されています。TCCCを基にしたSWATなど警察特殊部隊で採用されているTECCも同様であり、2015年6月に改定されています。TCCCは元々かなり確立された内容でしたのでこれからも大幅に変更されることはないでしょうが、細かな改定に追随していく形でTCCCに用いるトリアージカードの内容も若干の改定はされていくでしょうから、常に新しい情報についていくことが求められます。  

Posted by Shadow Warriors Training at 19:05小ネタ

2016年03月20日

ワンハンド・ガンハンドリングは必須の技術


 SWTでは拳銃のコースでも小銃のコースでもレベル1コースにて片手でのガンハンドリングを教えています。片手でのガンハンドリングとは、片手(右手および左手)でのホルスタードロー、射撃、弾倉交換、故障排除の全てを含みます。残念ながらエアガンでは故障排除の本格的なトレーニングは実施出来ませんので口頭説明や「型」の稽古に留まりますが、片手でのガンハンドリングは実戦的な訓練では必ず基礎クラスに組み込むべきです。

 確かに片手でのガンハンドリングはテクニックとしては上級レベルのものですが、現実的に考えれば扱う者の技術レベルに依らず基礎レベルのトレーニングにに組み込む必要があります。その最大の理由は、銃撃戦における被弾の確率にあります。銃を撃つ際は上の写真の様に身体の前に銃を構えますが、これは相手も同じです。そしてその銃は腕で支えることになるので、拳銃でも小銃でも散弾銃でも胸部の上半分である所謂バイタルエリアの前に両腕がきます。銃撃戦では互いに相手の迅速な無力化を求めるためにバイタルエリアを狙って撃ち合いますが、この時に身体の前で構えた銃を支える両腕がバイタルエリアの前にくることから、両腕が真っ先に被弾する箇所となります。

 フォース・オン・フォース訓練でSimunition FX弾などを用いて撃ち合ったことがある方は、相手の弾が自分の胸部に当たるより先に自分の腕に当たった経験があるはずです。私の経験上、その被弾箇所は上腕よりも前腕に集中します。そして、実際に前腕に被弾した場合は、手首より先に力が入らなくなるか、全く指が動かせなくなります。そうなれば写真の様に両腕で銃を構えることが出来なくなりますので、被弾した後は片手で射撃、弾倉交換、故障排除を実施せざるを得なくなります。

 よって技術レベルや経験年数は問題ではなく、職務として銃器を携行するプロにとって、明日起こるかも知れない撃ち合いに生き残るためには基礎クラスのドリルとして片手でのガンハンドリングが必須となるのです。  

Posted by Shadow Warriors Training at 23:32小ネタ

2016年03月13日

インストラクション・ガイドライン(2)


 インストラクションを行う上でのガイドラインの続きです。

・1つの問題に対し、複数の解決法を有すること。他人の癖などを直す際に自分と同じ直し方がそのまま適用出来るとは限りません。よって、問題に対する解決法ではなく、問題を有する人に対する解決法を提供できる必要があります。

・忍耐力を失わないこと。新しいテクニックなどを教えた際に、「俺はこう教わった」や「これが自分に一番合う」と言って教えたやり方と異なるやり方などを頑なに固持する訓練生が存在します。彼らにはテクニックなどを見せて説明するだけでなく、そうやるべき理由を根気よく説明し続ける必要があります。

・説明力を磨くこと。新しいことを伝えた際に訓練生の理解が乏しい場合、それは訓練生の理解力不足が原因ではなく、インストラクターの説明力不足が原因かも知れません。1つの説明の仕方や展示では理解が得られない場合、別のやり方や見せ方を工夫する必要があります。

・ポジティブな評価を重視すること。知識や技術の間違いばかりを指摘するのではなく、その間違いに気付いたことや、間違いを修正したといったポジティブな内容を評価しなければ訓練生のやる気を維持させることは難しくなります。褒めることはご機嫌を取ることではありません。間違いは間違いとして指摘し、改善は改善として正当に評価する公平さが必要なのです。旧態依然の叱咤激励が唯一の方法であると信じ切っている人はインストラクターには向いていませんし、インストラクターとして成功しません。何かを教える・伝えるだけがインストラクターの仕事ではありません。次へのモチベーションを高めるのもインストラクターの重要な仕事です。

・改善点の指摘、矯正はその都度行うこと。一日の訓練が終わってからまとめてリストアップした悪かった点を伝えたところで、訓練生が有する問題は解決されません。ドリルを10行うのであれば、指摘・矯正のタイミングは10回あるべきです。何も指摘されないまま訓練が次々へと進んで行けば、訓練生が自分には問題がないと考えるのは自然な流れです。にもかかわらず最後の最後に問題点を指摘されたところで、もう直すチャンスは逃していますし、その際に指摘されなかったことに対して訓練生の反感や不信感を買うだけです。

・悪い点を指摘するだけや、一方的に矯正させることは避けること。訓練生が何か間違いを犯した場合、無条件でやり方を直させることは学習にはなりません。間違いがあった場合いきなりそれを指摘するのではなく、何をしたのか?何故そうしたのか?他に選択肢はなかったのか?などの質問をし、訓練生自らに間違いがあったことを気付かせる方が、本人の経験として深く脳裏に刻まれるので、同じ間違いを繰り返しにくくなります。

 簡単ではありますが、以上が一般的なインストラクション・テクニックの例です。前回の分と合わせて読まれるとお判りになったかと思いますが、インストラクターとして重要なことは教える内容よりも教え方になります。相手が1人であろが10人いようが同じです。伝えたことを相手が理解しない限り、教えたとは言えません。一般的なことであれば、伝えたことが理解されなくとも将来伝え直して理解を得る機会があるでしょう。しかし、タクティカル・インストラクターが教える内容は訓練生の命に係わることですので、下手をすると訓練の翌日に訓練生が亡くなってしまい次の機会は二度と訪れません。彼らの命を預かる身であることを再度認識して、その日の内に正しい知識と技術を理解させることが、この世界のインストラクターには求められます。前回と今回の記事が、これから部隊で指導員などの立場に立たれる方々に少しでも参考となっていれば嬉しく思います。
終わり
  

Posted by Shadow Warriors Training at 21:50トレーニング哲学

2016年03月06日

インストラクション・ガイドライン(1)


 人が新しい技術を学ぶ際には、適切なインストラクションが不可欠です。市場にはマニュアルやDVDといった媒体が溢れていますが、これらは(仮に内容が正しいものとして)知識やその背景を学ぶための教材には成り得ても、インストラクターの代わりには成り得ません。その理由は、インストラクターの仕事とは新しい技術や知識を教えることだけでなく、その場で誤りを指摘・修正したり、ヒント等を与えながら考え方や視野を広げるため手助けをすることにあるからです。特にこの世界では、その場で修正されない場合、間違ったまま身に付けてしまったことが最悪の場合死に繋がりますので、その場における「指摘・修正」は非常に重要です。当ブログをお読みの方々の中には、部隊での訓練を担当したり、これから訓練を提供する側に進みたいとお考えの方が少なからずおられる様ですので、インストラクションを行う上でのガイドラインを極一部ではありますが紹介したいと思います。

・訓練生が射撃する際は、標的ではなく訓練生を見ること。弾痕は上手かろうが下手であろうが標的に残ります。着弾箇所から射手が犯したであろう大凡の問題点は想像出来ますが、より正確に問題点を見つけて指摘するには弾痕の位置でなく射撃中の射手の挙動に注目すべきです。

・1度悪い点を見ただけで修正を試みないこと。その悪い点が癖となってしまっていることが明確となった時点で修正することが望ましいです。癖となってしまっていることを指摘しないと、たまたま1度ミスを犯した際に指摘された訓練生は耳だけでなく心も閉ざしてしまいます。

・複数の間違いを修正する場合は、より重要な点から1つずつ直すこと。訓練生が上達を実感出来るだけでなく、訓練時間が限られてる場合は命に係わる重要な部分をより重視すべきです。

・指摘や修正する場合は、1つずつ行うこと。直される側の混乱を避けることは、直される側の理解度を高めることに繋がります。集中力を切らさせないためにも、一度に複数の点を指摘することは避けるべきです。

・全体の流れを止めないこと。訓練生全員が直ぐに修正できるとは限りません。1人に多くの時間を費やして多くを置き去りにするのは避けるべきです。仮にその場で完璧に修正させることが不可能であったとしても、何が間違っているのかを本人に理解させることさえ出来れば、あとは本人で直すことが出来ます。答えやゴールに連れて行くことだけに固執せず、そこに辿り着くためのヒントや手助けをする方が、訓練生の今後の練習の為にもなります。

(2)へ続く
  

Posted by Shadow Warriors Training at 23:35トレーニング哲学