2019年05月20日
移動間射撃??(1)

既にご覧になった方もおられるかと思いますが、2018年7月にラスベガスで起きた事件の動画です。
右のリンクをご覧下さい(YouTube動画です)https://www.youtube.com/watch?v=M_bF7i2_ok4
アメリカの警察の大半が日本と違って警察官(や保安官代理)が単独でPCに乗り込みますので、映像でも終始無線交信を行いながら片手運転で追尾していることが確認出来ます。先ず、そもそも片手運転で緊急走行を行うこと自体がリスク回避の点から見ても大いに疑問があるのですが、映像の後半では運転しながら逃走車両に対し射撃するといった、究極の移動間射撃を行っています。
警察実務を知らない方のために説明しておきますが、赤色灯を回してサイレンを鳴らした緊急走行は何をしても良いという訳ではありません。それは日本もアメリカもヨーロッパも同じです(共産圏は知りませんが・・・)。周囲に十分な配慮をし、他の車両や歩行者などに危害が加わらないように普段の運転以上に気を付けて、初めて赤信号を進んだり路肩や反対車線を走行することが許されます。また、周りにこちらが緊急走行を行っていることに気付いていない車両がある可能性は絶えず存在しますので、赤信号を進む際には徐行して左右からの車両の流れが止まっていることを確認出来ない限り交差点を進むことは許されません。
「赤色灯を回してサイレンを鳴らしていれば周りの車両は全てこちらに進路を譲るだろう」と言った甘い考えは事故へと繋がり、逃走犯を取り逃がすだけでなく、関係のない一般人を負傷、下手をすれば死亡させることに繋がります。追尾中のパトカーがそれ以上は危険と判断して追尾を止めたとの報道が時折されますが、それは犯人確保よりも周りの車両・歩行者の安全に重きを置いたリスク判断によるものです。
少し脱線しましたので話を元に戻しましょう。
映像では終始片手運転で赤信号を徐行することなく突破するといった、日本の警察では考えられないことの連続ですが、ついに3分10秒あたりでホルスターからグロックを抜きます。そして3分20秒辺りでついに運転しながら逃走車へ向けて射撃を開始します。更に3分30秒辺りで、とうとうハンドルから完全に手を離して両手で銃を撃ち始めます。そして3分42秒辺りでは逃走車の右後方から(自身の左前方に向けて)射撃します。
問題点は山積みです... 弾を命中させる為には射撃時には標的ではなく照星にフォーカスを合わせる必要があります。つまり、運転しながら射撃をするのであれば、照星にフォーカスして周りを見ていないか、周りに気を付けながら正しい照準をせずに撃発しているかの何れかになります。そして両手で銃を保持した瞬間にもし誰かが車両の陰から飛び出して来たり、路上に凹凸があって車体が揺れたりした場合、車体を即座にコントロールするこは困難です。加えて、斜め前方に射撃する際にボディーカメラの目線も同じく斜め前方に向いていますから、腕だけでなく上体ごと逃走車へ向けて、進行方向には一切注意が向いていないことが分かります。
結果として誰も第3者を危険な目に晒すことなく逃走犯の確保が出来ていますが、これは全くの幸運です。映画のワンシーンの様な出来事が偶然現実でも起きただけであり、手順としては問題が大有りの案件です。
(2)へ続く
2019年05月04日
コンバット・トラッキングの対IED戦術への応用
前回までのシリーズで対IED戦術の主としてセオリーの部分について紹介しましたが、今回は戦術面の1つを紹介したいと思います。それは、トラッキング技術です。
昨年、ヨーロッパ某国にてトラッキング訓練を受けて来たことをこのブログでも紹介しましたが、このトラッキング技術は実は対IED戦術に有効となっています。理由としては、一見して何も問題が無さそうな路肩や路上に隠された、敵性勢力が何かを仕掛けた痕跡(サイン)を見つける技術が、部隊の生存性を高めることに繋がっているからです。更には、残された痕跡からIEDを設置した者を特定したり、IED製造工場の発見やグループの人数や行き先を特定することにも役立っているからです。
本来トラッキングは、東南アジアや中南米あるいはサハラ以南のアフリカにおいて非常に有効な戦術であり、元々はそれら地域で活動していた軍隊によって体系化された技術です。理由としては、気候・地質・湿度などの関係から地面や植生に残されたサインが地球上の他の地域に比べて残り易い(=発見し易い)からですが、トラッキング技術を応用すれば市街地や乾燥地帯でもトラッキングは可能です。
因みに「トラッキング」そのものは「追跡」の意味ですが、トラッキング技術としては「追尾」と「追撃」に分かれます。「追尾」とは残された痕跡をたどって追跡対象の行き先を特定することで、単独の部隊でも可能です。ですが、「追撃」とは残された痕跡をたどりながら追跡対象との距離を詰めて交戦することであり、複数の部隊の投入を必要とします。
そして痕跡(サイン)は、地面に残されたグラウンド・サインと、植生など地面以外に残されたトップ・サインとに区別されます。例を挙げるなら、足跡はグラウンド・サインに該当しますが、破れた蜘蛛の巣はトップ・サインに該当します。そして、それらを発見するには、自然界の正常な状態とは違う「異常」に気付く感覚(センス)が必要になります。
自然とは違う「異常」とは、規則性(Regularity)、平坦化(Flattening)、移動(Transfer)、変色(Color Change)、廃棄物(Discardables)、及び、かく乱(Disturbance)になります。自然界には幾何学模様の様な直線や直角、完全に平らな表面は存在しません。またそこだけにあるべき物はそこにしか存在せず、本来あるはずのないものが見受けられる場合は何らかの理由があります。変色は同じものなら同じタイミングで起こるものであり、一部だけで起こっている場合はそれなりの理由があります。人の残したものは明らかに人がそこにいた証明です。コンバット・トラッキングではその様な痕跡を見つけて敵の行く先を予想し、ヘリなどを用いて敵の前に部隊を送り込むことで追撃部隊との間で挟撃します。
共に訓練を受けたNATO諸国の軍人の経験談では、アフガニスタンでは敵の攻撃を受けてその場に30分以上足止めを喰らうと、部隊の周囲にIEDが仕掛けられたそうです。また、昔からある常套手段としてアンブッシュを受けた際の離脱経路と成り得る部分に予めIEDを仕掛けておく事も多用されていたそうです。従って、部隊の前衛にトラッキング技術に優れた隊員を配置したり、トラッキングを専門とする部隊を帯同させたりと、各国の軍隊が独自の方法で対応し、部隊の生存性を高めることに努力しているとのことです。
トラッキングの基礎的な訓練は日本の山林でも実施できますので、もし興味のある方が何人か集まれば、土日に山籠もりしてワークショップの様な形でトレーニングしますのでお声を掛けて下さい。ご連絡はこちらまで。