2015年03月28日

ヨーロッパ近況


 フランスでのテロ事件から2ヶ月ほどが経過しました。情報の提供を頼んでいたフランス軍の友人も一時期はパリ市内のユダヤ人居住地区などの警備任務に就いていたそうですが、現在は通常勤務に戻っているそうです。ただ、その後ヨーロッパ(特に西側)がテロの標的となったことで、軍や警察関係者は未だ高い緊張感の下で勤務しており、一部は未だ警備任務に派遣されているとのことです。

 また、フランス国内ではムスリム系移民に対する差別やヘイト・クライムが加速しているようです。フランス国内ではムスリム系住民が占める人口比率は全国民の8%程だそうですが、矯正施設に収監されている囚人だけを見れば50%がムスリム系だそうです。これはアメリカ国内におけるマイノリティー(黒人、ヒスパニックやアジア系など)のそれとは比べ物にならない位高い比率です。彼らの服役の理由や刑期までは把握していませんが、単純に白人社会の不満のはけ口にされていないことを願うのみです。


 フランス人は「ドイツ人のような質実剛健さはないが、イタリア人ほど軟弱でない」というのが私の個人的な見解ですが、民間人でも公務員でも「とにかく仕事をしない」イメージが強いです。前述の友人もフランス陸軍に所属していますが、毎年40日以上の年休が与えられるそうです。以前訪仏した際には、入国手続きのために大勢が並んでいたにも関わらず交代時間が来たために、交代要員を待つこともなく窓口を目の前で絞められた時には開いた口が塞がりませんでした。その時に後ろに並んでいたイギリス人が放った、「こんなことだからドイツに2回もやられるんだ」とのセリフが今でも印象深く耳に残っています。

 今回のテロ事件後の警備では、GIPNやRAIDも投入されていたそうですが、さすがにGIGNは不測の事態に備えて待機していたようです。そんな緊張感の高い警備任務においても、「時間が来たから自分の仕事は終わり」との理由で勝手に持ち場を離れたりしてないかとても不安でした。


 今回のフランスでのテロ事件の映像を見て思ったのが、テロリスト側の技術の高さです。爆発物の使用に重きを置いていた単なる安っぽいガンマンであった一昔前のテロリストとは異なり、射撃の腕前や戦術など、一般的な警察官よりもレベルが高かったと思います。

 上の写真は、駆けつけた警察車両に対する攻撃の跡ですが、移動標的に対する移動間射撃でのこの命中精度は皆さんにはどう映りますか?脅威であるはずです。テロリストの練度は技術面でも戦術面んでも決して過小評価してはなりません。我々が有利に戦いを進めるためには、敵のレベルを知り、敵のレベルを常に上回っておく必要があります。これは技術や戦術だけでなく、精神的なものが最も重要になります。

 戦いに最も重要なのは、勝利にとことんこだわった強い意志です。この心構えなしでは、あらゆる情報を取り入れて直ぐに対応出来る態勢を維持することは望めません。


 ところが残念ながらベルギーの警備隊員を映した写真からは、心構えの低さが見えてしまいました。銃を直ぐに撃てる状態に把持していないだけでなく、向かって左側の隊員のホルスターはリテンション用のフードが開いたままになっています。これではこの写真を見たテロリストを喜ばせて自身を付けさせることになってしまいます。2枚目のRAID隊員とは異なり、自分達を弱いターゲット(ソフト・ターゲット)にしてしまっています。

 ドイツでは、連邦レベルのGSG9や州警察レベルのSEKだけでは明らかに人員不足であるとし、更なる対テロ部隊の拡大と人員確保を開始しようとする動きが政府レベルで検討されているそうです。ただ、特殊作戦要員は一朝一夕に育て上げられるものではなく、1人を一人前に育てるには長ければ数年かかるとされています。2020年が間近に迫ってきていますが、我が国の対テロ警備能力は十分なのでしょうか?  

Posted by Shadow Warriors Training at 00:32小ネタ

2015年03月08日

ディフェンシブ?オフェンシブ?


 アメリカには様々なタクティカル・スクールがあります。軍と契約して軍や法執行機関だけの訓練を請け負うスクールは極めて限られており、殆どが軍人や警察官だけでなく民間人にも門戸を開いています。その場合でも、全てに同じ内容を教えるスクールもあれば、軍や警察用と民間人用にコースを分けるスクールもあります。スクール側は受講生のニーズに合わせてコースを作成しますが、そのコース名を決めるのが実は結構重要な作業なのです。

 民間人は自己防衛のために銃器を所持しています。よって、タクティカル・ライフルやアーバン・ライフルなどと言った名称が使われますが、最もポピュラーなのがディフェンシブ・ライフルです。文字通り自己防衛のためのライフル射撃ですので、コース名からも合法性と非攻撃性が見えます。確かに自動小銃で武装するなんて日本人の感覚からすれば攻撃的ですが、目的はあくまでも自己防衛なので間違ってもオフェンシブ・ライフルなんてコース名は付けません。全く同じ内容を教えていても名前が違うだけで色々とやり玉に挙げられるからです。


 民間人相手がそうなれば、警察官相手はどうなのか?実は警察官向けのコースでも攻撃性は隠されます。警察官は犯人の射殺ではなく逮捕が目的ですので、殺すために引き金を引くことはどうしようもない場合を除きしません。更に、リベラル派は近年の警察の重武装化(軍隊化とも呼ばれます)に非常に神経質になっています。そこで、警察官向けのコース名でよくあるのが、パトロール・ライフルです。

 過去のノースハリウッドやマイアミでの重武装犯との銃撃戦以降、警察官の拳銃だけの武装では最悪の状況に対応しきれないとして、パトカーに自動小銃が配備されるケースが増えました。また、近年のコロンバイン高校やCNNなどに代表されるアクティブ・シューター事案に効果的に対応するためにも制服警察官への自動小銃の貸与が一般的になってきています。しかしながら、自動小銃の攻撃力は政治的に警察組織には不利です。現実的には正当防衛や緊急避難であっても、その攻撃的な見た目から過剰防衛と見られるケースもあるからです。

 それらに対する苦肉の策が、パトロール・ライフルという名称です。この名は民間のスクールだけでなく、州の訓練機関でも用いられており、銃器の名称としてもアサルト・ライフルではなくパトロール・ライフルとあえて呼んでいます。一部のSWATにフルオートのライフルが装備されるケースはありますが、実は制服警察官を始め大半のSWATでもセミオートしか貸与されていません。


 では軍人相手ではどうなるのか?軍の任務は国民と国土を守り、国家の主権を維持することです。それを実現する手段として、敵の武器・装備を破壊したり、敵の人員を殺害したりします。よって、攻撃的であり名称としてはオフェンシブ・ライフルが相応しいように思えますが、どのスクールもどの軍のプログラムも、オフェンシブ・ライフルという名称は使いません。何故か?そもそも軍での射撃は全てオフェンシブなので、あえてその様な名称にする必要がないからです。

 そこで軍人相手でよくあるのが、タクティカル・ライフルという名称です。独特な呼び名としては、トラビス・ヘイリーのアダプティブ・カービン、タクティカル・レスポンスのファイティング・ライフル、ジェフ・ゴンザレスのコンバッティブ・カービンなどがありますが、単にライフルやカービンとのシンプルな名称のコースも多くあります。

 という事で、結果的に殆ど同じ内容でも、その目的や対象者が違うことでコース名が違ったりします。違いと言えば内容の濃さやドリルが想定する状況くらいです。ではSWTでは?ドリルの種類的には殆ど同じです。ただ、プロ用コースでは実戦的な状況を想定した内容であり、補足説明も一般用コースでは決して語らない内容のものです。これは単に受講者を差別しているのではなく、来るべきこの手の業界に対する規制を見据えての対策です。規制されたとしても同じかそれ以上の内容で続けて行くには、開示の部分と非開示の部分とを予め線引きしておく必要があると判断し、コースの内容だけでなく受講生の受け入れ方も別にしています。

 スクールには様々なスタイルや考えがありますが、この様な背景や理由を知るとそのスクールの方針が見えてきます。スクール選びで悩んでいる方は今一度そのスクールの設立方針やコース名などを深く調べてみて下さい。そうすることで、自分が習いたいと思う内容が得られるかどうかが見えてきます。  

Posted by Shadow Warriors Training at 22:49小ネタ

2015年03月01日

AARについて(2)


 前回はAARの手順として、全体の流れを説明しました。では今回はAARを実施する上での注意点を幾つか説明したいと思います。

1)リーダーだけでなく、全員を参加させる
部隊長(分隊長、小隊長、等など)が自分の部隊を代表して意見を述べるのではなく、隊員個人の意見を述べさせなければ意味がありません。

2)意見は短く述べさせる。
長くなるにつれて主たるトピックがなんであったのか薄れてきたり、話が別のトピックに移る場合があります。それを避けるために、出来るだけ短く意見を述べさせることが重要です。

3)参加者が他を個人的に批判したり、特定の人物を指さして間違いを指摘することは、絶対にさせてはならない。
前回述べたとおり、AARの目的は「正しい・間違い」の判断を下す為ではなく、「情報と思考プロセスの共有と認識」を図るためです。

4)参加者に何が悪かったのかを自覚させるが、決して批評しない。
上記3は、参加者同士のことです。4は、AARの進行役(コントローラー)のことです。別の方法を考えさせたり気付かせる、他のオプションを提案する、など建設的な方法で自分のとった行動が間違っていたことを気付かさせます。

5)本題と関係のない議論は止めさせる。
時間は無駄にしたくありません。また、議論すべき内容は訓練で実際に遭遇した局面に限られているので、「教範にはこう書いてある」だとか言い訳は強制的に打ち切ります。自らの行動の基準となった状況判断とその判断材料さえ述べさせれば議論はスムーズに進みます。「でも・・・」や「しかし・・・」等から始まる場合は十中八九言い訳です。

6)参加者に考えさせたり、気付かさせるような質問をする。
決して答えは与えません。何がベターであったか考えさせるのが大切です。一方的に悪い点を指摘したり答えを与えただけでは、その相手の心には響かず記憶の片隅にも残りません。反面、オプションを提示したり別の考え方や行動を考えさせたりすることで、その相手が主体的に理論や手法を見直すことで心にも記憶にも残ります。

7)訓練を通じて得た「教訓(Lessons learned)」を含めた総括を行い、当初のトレーニングの目的を満たしたか否かを述べる。
ここでも同じく批評してはいけません。問題点は進行役が教えるのではなく、参加者自身が気付くように仕向けることが重要です。進行役はその結果、次の(或は別の)訓練の必要性を示したり、次の訓練の課題を述べることはします。

 以上が進行役がAARを行うにあたって注意する点です。とは言っても議論は白熱し、人は他人を批判したがります。ですがAARの本来の目的は互いを批判させることではなく、別のやり方・別の考え方を気付かせることです。進行役がそのことを忘れて互いの言いたい事を言わせてしまうと、折角のAARが「朝まで生テレビ」になってしまうだけです。  

Posted by Shadow Warriors Training at 22:22小ネタ