2013年09月13日
タクティカル・ガンハンドリングとは?-後編

後半戦です。
前編の最後で挙げた様な不確かな要素が残ったままでいると、戦場では命の危険に繋がります。そこで戦術的ガンハンドリングでは、以下の手順で行います。
1.訓練であれ実戦であれ、銃には常に弾が装填された状態にしておく。
2.装填を確認する必要があれば、スライドやボルトを引く。その際に排莢される弾は後で拾えば良い。
3.再装填の際には、銃口を上方に向ける。
4.新しい弾倉を装填したら、スライドやボルトを引いて初弾を薬室に込める。タクティカル・リロードを実施し、元々薬室にあった弾が排莢された場合は後で拾えば良い。
5.状況が終了しても、銃は装填された状態を維持させる。
「装填された銃を常に携行する」ことがタクティカルな状況での最も基本的なことであって、戦闘中に銃を意図的に空の状態にするのは、故障排除(タイプ3の二重装填)の時しかあり得ません。また、再装填する際には、エマージェンシー・リロードとタクティカル・リロードの区別はありません。どちらもスライド/ボルトを引きます。スライド/ボルトが閉じているからと言って、薬室に弾があるとは限りません。敵に狙いを定めて引き金を引いた時に、弾が発射されるのと「クリック」と音だけなるのとどちらが身のためか明白です。弾倉が確実に装填され、初弾も確実に薬室に込められた「信頼出来る」状態を作るためには、弾倉を入れた後にスライド/ボルトを引くことが確実な方法です。
タクティカル・ガンハンドリングは、大抵泥臭いものです。映画やテレビで見るような格好良さ・速さ・簡便さはありません。命を守るために必要なことは、それらよりも、確実さが重要なのです。
2013年09月09日
タクティカル・ガンハンドリングとは?-前編

ガンハンドリングには2種類が存在します。1つめは管理的(Administrative)ガンハンドリングであり、もう1つは戦術的(Tactical)ガンハンドリングです。前者は公的機関の検定射撃や民間の射撃場で実施される、安全管理を最重視した、ある意味「ルール」的な方法であり、後者は戦場やタクティカル・スクールで実施される、戦術面を最重視した方法です。
管理的ガンハンドリングの手順は以下のとおりです。
1.銃口をダウンレンジに向け、ボルトやスライドを開放する
2.弾倉を装填する
3.ボルトキャッチやスライドリリースを解除して装填する
4.プレスチェックを実施し、装填を確認する
5.射撃する
6.銃口をダウンレンジに向け、ボルトやスライドを開放する
7.弾倉を取り除く
安全装置のタイミングなどは割愛しましたが、大まかにはこの流れです。いかにも安全第一的な雰囲気が伝わってきます。もちろんそのはずで、事故があっては組織の訓練やレンジの運営に悪影響を及ぼすからです。この手順を守ると、引き金に不用意に指をかけたりしない限り、事故なく射撃をすることが出来ます。
しかし、戦術的なことを考えると以下の疑問が生じます。
1.戦場でのダウンレンジとはどこなのか?
2.汗・雨・油・血液・体液・砂・泥などが手や指先に付着した状態で、ボルトキャッチやスライドリリースを指先ひとつで解除することが出来るのか?
3.上記のような環境でプレスチェックを実施した場合、薬室などに異物を混入させることに繋がらないのか?
4.銃撃戦では常に全弾を撃ち終わらない限り、新しい弾倉を装填することはないのか?
5.次の戦いに備えて、新しい弾倉を常に装填させておく必要はないのか?
管理的ガンハンドリングはクリーンで落ち着いた環境で実施されるものですが、戦場はそうとは限りません。特に2をシミュレートしたい方は、両手をサラダ油に浸してから普段のやり方で装填動作を実施してみて下さい。なおその際、事故防止のために実弾(やBB弾)は装填しないで下さい。また、3はグローブをしていた場合は銃内部の突起にグローブの指先を引っ掛ける恐れがあります。
-後編へ続く-
2013年09月02日
This is my safety.

映画「Blackhawk Down」の一場面にて、「これが俺の安全装置だ」とデルタ隊員が銃の安全装置ではなく自分の人差し指のことをそう呼んでいましたが、これは半分正解で半分不正解です。実は、安全装置は3つ存在します。それらは、機械的・生物的・心理的の3つです。今回は、それらが何であるのか説明しましょう。
機械的安全装置とは、銃についている安全装置のことです。グロックのように内部セーフティー機構があるものや、他の銃のように外部セーフティー機構があるものなど、多種多様ですが、これらは「機械的」に引き金と撃鉄を切り離すものです。
生物的安全装置とは、射手のトリガー・フィンガーのことです。映画の中のデルタ隊員はこのことを「俺の安全装置」と言っていました。機械的安全装置が解除された銃を手にしても、引き金を引かない限り弾は出ませんので、引き金を引く指が「生物的」安全装置となりますが、実はこれだけで話を片付けるのには早すぎます。
銃器安全4則を思い出して下さい。「標的に照準を合わせて、明確な射撃の意思が決定されるまで、引き金に指をかけないこと」とありましたね。という事は、「明確な射撃の意思」と「引き金を引く」ことを決定した射手の意思こそが究極の安全装置と言えるのです。その明確な意思なくして、機械的安全装置を解除することも、生物的安全装置である指を引き金にかけることもないのです。これが3つ目の心理的安全装置の正体です。
ハイリスクな訓練などでは、時として味方の銃口の前を横切ることがあります。後ろにいる者も、銃口を別の方向に向けるいとまがないことから、そのままにしています。確かに銃器安全4則には違反していますが、彼らが置かれている状況はそれよりも戦術的な要件が優先されているからです。では、なぜ前方の射手は平然と味方の銃口の前を横切ることが出来るのでしょうか?それは銃の安全装置が解除されていても、後方の射手が明確な意思を持って、引き金から指を離していることを知っているからです。共に訓練してきた仲だからこそ成り立つ信頼がそこにあるのです。
耳元で仲間の銃口が火を噴くのは、緊張しますが他では体験できない貴重な経験となります。イヤプロを付けた状態ですが、実際に耳元で銃が激発するとどの程度の音が発するのかは流石に警察や軍の射撃では経験出来ません。また、仲間の銃口に顔を向けた状態で至近距離で激発すると、火薬カスやガスが顔に当たりますが、それも通常の訓練では決して経験できるものではありません。その火炎・音・衝撃に恐れることなく、仲間を信じて行動を継続することが出来なければ、近接戦闘、特に屋内での戦いに勝つことは出来ません。
訓練では時として「管理された」危険な状態を作り出すことが必要です。準備なしでいきなり現場で経験するのと、一度訓練で経験したのでは、現場での行動に大きな差(特に心理的影響)が生じます。部隊が生き残るには、隊員個人の高い安全意識や技術だけでなく、その大部分はチームワークにあります。