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Posted by ミリタリーブログ at

2021年07月18日

タクティカル・トレーニングの先にあるもの(5)

 パート(4)の最後に述べた、十分な技量を有するインストラクターの人数不足と物分かりの悪い隊員の存在は全ての組織・部隊にとっての永遠のテーマですが、その中でも「サバイバルモード」を意識したタクティカル・トレーニングを実施する場合は、ドリルで想定する状況を細かく設定・限定する必要があります。


 通常、検定射撃では射手は標的に正対しています。マネキンなどのリアルな移動標的を使う環境があれば敵(標的)の側面を撃つ訓練も可能ですが、標的の背中を撃つ訓練はどの組織・部隊も積極的には行っていません。むしろ、殆どの部隊では行っていません。何故か?答えは簡単で、発砲の正当性が公判で証明し辛いからです。

 なにか問題に気付きましたか?背中から撃つ訓練を行わないのは戦術的な理由からではなく、裁判を意識しているからです。確かに不必要な発砲と見なされたり、特別公務員暴行陵虐罪と見なされるケースは存在するでしょう。しかし、如何なる理由においても相手の背中を撃つことが違法とは言い切れません。

 もし下の写真の中央付近に地面に倒れ込んでいる者が騒乱を抑え込むために一緒に現場に赴いた仲間であった場合、その仲間に突進して殺意を持っているかの如く攻撃してくる男の存在に気付いた場合、わざわざ男の正面に回り込みますか?それとも男を後ろから撃ちますか?


 状況をこの様に細かく設定すれば、射撃の正当性は確保出来るはずです。仲間に対する急迫不正の侵害を、直ぐには手の届かない距離で現認したのですから。このような特殊な状況を織り交ぜたトレーニングをすることで、「背中から撃ってはいけない」といった考えを「一定の条件を満たす状況では背中から撃つことも出来る」と意識改革させることが出来れば、タクティカル・トレーニングはその目的の1つを達成したと言えます。

 
 最後に、上の写真の左右の標的にはそれぞれ2発ずつ着弾していますが、どのような状況下でそれぞれの2発が撃たれたかの違いは分かりますか?もし普段の至近距離射撃訓練における弾痕が右の標的にある様であれば、その訓練は至近距離における射撃の練度を高めるための訓練です。もし、左側の標的にある様な弾痕が出来る場合は、その訓練は至近距離射撃における「サバイバル」モードに着眼を置いたものと言えます。違いが分からない方は...恰好だけのトレーニングから卒業して「サバイバル」モードを意識したタクティカル・トレーニングを受けて下さい。

終わり
  

Posted by Shadow Warriors Training at 22:09トレーニング哲学

2021年06月27日

タクティカル・トレーニングの先にあるもの(4)


 もし皆さんが受けたトレーニングが「タクティカル」を名乗っており、ドリルが全て上の写真にあるような撃ち方で行われた場合、そのトレーニングは残念ながら「テクニカル」であって「タクティカル」ではありません。「サバイバルモード」を意識したタクティカル・トレーニングでは、どこの国で受けようが必ずと言っていいほど、片腕が負傷しても戦い続けるために必要なドリルを教えます。当たり前の話ですが、片腕を負傷したからと言って敵はこちらにそれ以上攻撃をしてこない訳ではありませんし、こちらもそれだけでゲームオーバーにはなりません。撃ち合いにおける勝ち負けとは生きるか死ぬかですので、例え片腕が負傷しようともその状況を打破して生き抜くために必要な心構えと戦術と技が教えられていなければ、そのトレーニングは「タクティカル」を名乗る権利はありません。

 
 更に一歩進めると、不意を突かれた不利な状況から五分五分の大勢へと戻しその後生き抜くために闘い続ける、と言った流れのドリルも組み込まれるべきです。最もよく実施される例としては、組み合った状況から相手を振りほどいて対処するドリルがあります。


 しかし、この様なドリルは安全管理の問題からどの国の警察や軍隊でもあまり積極的に行われていません。「訓練弾を使えば死傷することはない」と唱える方がいるかも知れませんが、残念ながら死傷リスクはゼロではありません。実際にSimunition FXやUTMやFederal Force-on-Force弾を使ったことがある方は分かると思いますが、訓練環境に実弾が紛れ込むリスクは絶えず潜んでいます。

 つまりインストラクターの数が圧倒的に足りない警察や軍隊の一般的なトレーニング環境では、安全管理に必要な数の目が足りないことと、必ずと言っていいほど説明した通りに物事を行わないアホがいることから、残念ながら毎年どこかの国のどこかの組織で訓練中の事故や殉職は起こっています。

(5)へ続く
  

Posted by Shadow Warriors Training at 20:34トレーニング哲学

2021年06月13日

タクティカル・トレーニングの先にあるもの(3)


 戦いに勝つための心構え、戦術、技を教えることがタクティカル・トレーニングの目的であるものの、それらを教えるだけではトレーニングとしては半分成功です。では残りの半分は何なのか?それは意識改革を促すことです。

 警察官も自衛官もそれぞれの部隊に与えられた任務を遂行するにあたり従う法令や手順(SOPなど)があります。外国の軍隊や警察も同じです。米軍に限って言えば少々異質な存在ですが、テレビや映画ではやりたい放題のアメリカの警察ですが、実際は規則に縛られています。ヨーロッパの軍隊や警察も日本と変わりない位、様々な規則や法律に縛られています。従って、検定射撃では人型標的の中心部分から同心円状に点数が高くなるような標的を用いていますが、タクティカル・トレーニングや実戦的射撃となると胸部や頭部のみをヒット・ゾーンとしてカウントします。言ってみれば、普段の検定は「法令順守」を重んじており、実戦的射撃は生存のための「サバイバル」を重視している違いがあるからです。

 タクティカル・トレーニングでも様々な状況を想定しますが、「法令順守モード」での訓練は行いません。それを教えるスクールも中にはありますが、それは普段の職場で訓練しますので、SWTではやりません。タクティカル・トレーニングでは、殆どのドリルが生死を賭けた「サバイバルモード」であるべきです。そうすることで訓練生に対し、生死を賭けた状況下で「法令順守モード」から「サバイバルモード」への考え方の切り替えを教えることが出来るからです。

 「サバイバルモード」への切り替えが出来ることが先に述べた意識改革であり、訓練生がこれを出来るようになって初めてタクティカル・トレーニングはその目的の先に到達したと言えるようになります。この意識改革が出来ると、普段の訓練や想定をより実戦的な目線から考えることが出来るようになりますので、普段の訓練や想定をより実戦的にアレンジしたり書き直したりすることが出来るようになります。

(4)へ続く
  

Posted by Shadow Warriors Training at 21:56トレーニング哲学

2021年05月31日

タクティカル・トレーニングの先にあるもの(2)

 タクティカル・トレーニングの目的は戦いに勝つための心構え、戦術、技を教えることであると前回述べましたが、これを訓練生に植え付けるためにはそれを目指して作成された訓練プログラムが必要なだけでなく、それを教える側にも責任があります。例えば、射撃時の狙点として「センターマス」という言葉を聞いた方は多いと思いますが、標的を撃つ場合はその「センターマス」を狙う様に説明するインストラクターが未だ存在します。標的を縦半分と横半分にした想像上の線を引き、2本の線が交差する点を狙点とする撃ち方が存在しますが、それは狙点と着弾点とがズレる可能性のある狙撃などの際にその「ズレ具合」を測りやすくするための狙い方であり、前述の2本の線が交差する点はセンターマスではありません。

 ではセンターマスとはどこか?下の写真の4名のセンターマスを示してみて下さい。

 明確に示せる方はいないでしょう。ぶっちゃけ私は無理です。そもそもセンターマスとはなんぞや?重心?体の中心?そうであれば腹の辺り?正直言って定義も曖昧です。また、腹の辺りであったとして、そこを撃ったところで瞬時に無力化することは残念ながら望めません。

 では下の写真のポイントマンと撃ち合いになった場合、どこを撃ちますか?

 体の中心や重心の辺りである腹を撃つ方はいますか?おそらく皆無でしょう。誰しもが相手を瞬時に無力化するには胸の上部から頭部にかけて撃つと思いますが、この実戦的な狙点とセオリー上の狙点であるセンターマスとの違いは、普段標的を相手にした訓練が実戦的であるか否か(命中精度だけを重視した検定射撃か、生存を意識した実戦的射撃か)の判断基準になります。

 タクティカル・トレーニングは戦いの場を想定した訓練であることから、訓練プログラムも教える側も「撃つ」だけでなく「撃ち合う」ことを想定している必要があります。

(3)へ続く
  

Posted by Shadow Warriors Training at 21:47トレーニング哲学

2021年05月16日

タクティカル・トレーニングの先にあるもの(1)


 射撃だけでなく格闘なども含めたタクティカル・トレーニングの先にあるものとは何なのか?今回のシリーズではトレーニングの目的について書いていきたいと思います。

 タクティカル・トレーニングの目的は何であるべきか?単に高い命中精度を求めるだけでは何も得ることは出来ないでしょう。また、様々な射撃姿勢を駆使して複雑な形状のバリケード越しに撃つだけでも何も得ることは出来ないでしょう。また、決められた種類の技を流れる様な動きで早く綺麗にきめるだけでも何も得ることは出来ないでしょう。何故なら、そもそもタクティカル・トレーニングは検定射撃の様に合否を判定することや、格闘検定の様に出来不出来を見極めてその者に応じた技術レベルを判定し与える検定制度とは全く異なる性質を持っています。タクティカル・トレーニングの目的はただ一つ、戦いに勝つための心構え、戦術、技を教えることです。

 ボクシングを例にとってみましょう。ボクサー達は彼らの技術が一定のレベルに達したか否かを確かめる(検定してもらう)ためにトレーニングしている訳ではありません。彼らは試合という名の実戦の場において勝つためにトレーニングをしています。プロとして試合に出る格闘家も同じです。段位を上げることに強いこだわりは持っていません。試合に勝つためにトレーニングを重ねています。

 ですが、タクティカル・トレーニングの世界ではどうでしょうか?巷には格好だけを重視したプログラムや、射撃精度や速度だけを上げることを目的としたプログラムが多く存在します。どこの誰が教えているどのコースかをハッキリと書く事は避けておきますが、上手に撃てるようになることだけが目的であれば、それはトレーニング(訓練)ではなくプラクティス(練習)です。命中精度を上げようとするなら正しい撃ち方を身体に染みつかせれば済む話です。そんなものは誰でも練習すれば出来るようになります。上達しないのは、正しい撃ち方を習っていない(または、覚えていない)からです。

(2)へ続く
  

Posted by Shadow Warriors Training at 21:43トレーニング哲学