2018年12月09日

コンフォートゾーン(1)


 射撃の世界におけるコンフォートゾーンとは、個人が現状の技術レベルのまま無理することなく出来る範囲内で発揮出来るスピードや命中精度が例となります。しかしながら、このコンフォートゾーンは悪い言い方をすれば「ぬるま湯」になります。ぬるま湯は居心地がよく、人を駄目にします。熱すぎず、冷た過ぎず。居心地がいいので、そのままそこから動こうとしない人が多いのが現状です。このぬるま湯状態は何も射撃に限らず、社内プレゼンの技術やコーディネート業務のレベルなど多岐の分野でも同じことが言えます。

 射撃に話を戻しますが、今発揮出来るスピードや命中精度に満足(慢心)して高みを目指さない場合は、今の技術レベル以上の上達は残念ながら見込めません。高みを目指すには今のコンフォートゾーンから脱却する必要があります(言い方の変えれば今よりもコンフォートゾーンを広げる必要があります)。しかし、脱却にせよ拡大にせよ、やり方を誤ると全く意味のない結果をもたらしてしまいます。

 スピードの追求にせよ精度の向上にせよ、基本を疎かにしては意味がありません。例えば、滅茶苦茶な照準やトリガーコントロールであるにも関わらず単に合図から激発までのスピードが早まっただけでは意味がありません。この例の場合における技術目標は射撃速度の向上です。しかし戦術的な目的は戦闘間において命中精度を維持しつつ射撃速度を向上させる、であったはずです。よって、単なる数値的な目標だけを追い求めると、結果として本来の目的を見失ってしまうことになります。
(2)へ続く
  

Posted by Shadow Warriors Training at 22:41小ネタ

2018年11月25日

戦術・作戦の柔軟性について(3)


 一度成功したパターンを過信するとどの様な目に遭うか?例を挙げるならば、1993年10月3日から4日にかけての出来事が良い例でしょう。お分かりかと思いますが、ソマリア・モガディシュ(モガディシオ)で米軍のタスクフォース・レンジャーがソマリアの民兵から奇襲攻撃を受けた件です。

 この日が来るまで米軍部隊は同様の急襲作戦を6度実施していました。しかしながら、1度として違う戦術を取ることはなく、全く同じ戦術のまま7度目の出撃を行いました。当然、敵勢力はそれまでの6度の作戦を研究していました。この戦闘から時間が経った後、ワシントン・ポスト紙が当時のソマリア民兵のリーダーにインタビューを行いましたが、そこで彼は通常は2度使ったら3度目はしないのが鉄則であるにも関わらず、米兵が6度も同じ手を使ったことから彼らが過信していたことを見抜いていたと述べました。

 恐らく、正規軍対民兵という非対称戦であったことから、米軍が敵の能力を過小評価していたこともあったと思います。また、それまでのパナマ、グレナダや湾岸戦争での戦闘とは異なり、民間人と民兵が入り乱れる市街地という新しい戦闘環境に十分に対応出来ていなかったことも要因であったと思います。

 兵士も部隊も、銃撃戦の最中に技術レベルを向上させることは出来ません。兵士や部隊はそれまでに訓練された知識や技術でしか戦えません。よって、平時において如何にバリエーション豊かな技術や戦術を訓練を出来るかが、兵士や部隊の戦闘能力に繋がります。

 因みに、軍隊は先の戦争についての訓練しか出来ない、とも言われています。これは、自分達が経験した戦闘について研究と訓練を重ねるものの、新しい脅威や戦闘環境に関する研究は想像力や人手が足りないことから疎かになる、という意味です。これを考えると、米軍は湾岸戦争以降は正規軍を相手にした戦闘を経験していませんので、仮に近い将来何処かの国の正規軍と武力衝突することになれば、開戦当初は後手に回るかも知れません。米海兵隊が英海兵隊を相手に模擬戦闘訓練を行うことを計画していますが、恐らくこの問題への研究も含めているのでしょう。

 柔軟性・臨機応変さは想像力次第です。固い頭で同じ戦術しか訓練出来ない、同じ事しか考えられないようでは、生存率が下がることは歴史が証明しています。
終わり
  

Posted by Shadow Warriors Training at 21:36小ネタ

2018年11月04日

戦術・作戦の柔軟性について(2)


 廊下や階段で陥りやすいことの1つに、交戦時に無理をして前進を続けることが挙げられます。廊下での戦闘では、前回述べた通り逃げ道としての手近な部屋があればそれを利用することも可能ですが、手近な部屋はトラップの場合もありますので100%安全とは言えません。反面、階段では逃げ道がないことからその場で戦闘を継続させること自体に危険が伴います。

 そこで、階段や廊下の移動では、部隊を分散させて数名ずつ移動する戦術が用いられることがあります。この利点は先行する組が露払いの役目を担うことで後続の本体の生存性を高めることにあります。欠点は先行する組だけでは火力が足りないことから、万が一交戦した場合の先行組の生存率は決して高くないことにあります。よって、組ごとに躍進する場合や、一塊となって一度に進む場合などを適宜変化させながら前進させますが、この変化は経験則と勘だけに頼ることなく、環境に応じた変化である必要があります。

 ここで言う環境とは建物の構造のことであり、例えば廊下や階段の幅や材質、見通しの良し悪しなど、その場から観察し得る全ての事が該当します。現場では教本・教範ではカバーしきれないイレギュラーやレアなケースに遭遇することは珍しくありません。むしろ、教本・教範でカバーしているパターンは極僅かなケースでしかありません。よって、1つのやり方に固執することなく、その場その場に合わせた臨機応変さが必要となるのですが、重要なことは一度成功したパターンを過信しないことにあります。
(3)へ続く
  

Posted by Shadow Warriors Training at 22:37小ネタ

2018年10月21日

戦術・作戦の柔軟性について(1)


 過去のブログで作戦計画には主となるものも含めて合計4つの案を用意しておくことを書きました。それらは、PACEプランと呼ばれ、それぞれPrimary、Alternate、ContingencyそしてEmergencyを意味します。全ての細かい事にこのPACEプランを持てという訳ではないですが、作戦計画はあくまでも大筋であり、絶えず変化する状況に応じて臨機応変に対応(または順応)していかないと、時間と戦力を無駄にしてしまうことに繋がります。

 第2案、第3案へと移行することは決して作戦の目標を変化させることではありません。例えば建物の奪取であったり人員の回収であったりと、作戦の目標は当初より変わることはありません。計画を変更させるということは、その目標を達成するためのやり方を変えるという事です。

 特にCQBでは状況の変化のスピードが速いことと交戦距離が近いことから、問題が起こってから考える余裕は殆どありません。よって、問題を予期し、それらへの対応策を事前に選択肢とすることが特にリーダーの立場に立つ者には求められます。そして、CQBにて最も厄介な場所であり下手をすると部隊への大きな損害を避けられないところが、階段です。

 階段は廊下と同じく次のフロアや部屋へと続く「通路」ですが、廊下と決定的に異なるのはそこでの戦いは3次元になることです。また、廊下では手近な部屋に身を隠すことも出来ますが、階段は逃げ場がありません。よって、階段の移動は極力速やかに行う必要があり、逆を言えば長い時間階段に身を置くことは避けるべきです。このため、廊下を次の部屋へと移動するための「道路」と表現するのであれば、階段は次のフロアへと移動するための「高速道路」と表現されるべきです。
(2)へ続く
  

Posted by Shadow Warriors Training at 22:09小ネタ

2018年10月08日

CQB戦術、ソロvs.チーム(5)


 接敵した際に後退することを良く思わない風潮があるのは事実です。少々の損害を出してでも前進を続けていくことで、全体として攻撃を継続させているイメージに繋がります。しかし、前進しながら損害を出し続ける様であればいずれ消耗し戦えなくなります。

 紙の標的を相手にCQB訓練をした気でいるだけでは、選択肢として後退する訓練を行うことは勿論、後退を選択肢として考えるマインドセットも訓練することは出来ません。CQB訓練は野戦よりも戦況の変化が激しく、また接敵距離も近いことから条件反射に近いレベルの反応や対処能力が求められます。そしてこの対処能力は紙の標的を相手にした訓練では養えません。紙の標的はあくまでも動きや技術といった基礎レベルのものを訓練するためのものであり、戦術を訓練するには自由意思を持った生きた人間を相手にする必要があります。

 自由意思を持った人間を相手に訓練弾を用いて撃ち合う訓練を経験すると、必ずしも前進を続けることが正しいと限らないことが体験として理解出来ます。一時的な後退は目標達成を遅らせることになるかも知れませんが、損害を食い止められるのであれば機は残ります。撃つことと撃たれないことと、生き延びるためにはどちらが重要か?この選択を誤ると、目標達成を焦るあまり必要以上に損害を生じさせ、結果として損害を出し過ぎたことで作戦目標を達成出来ずに終わることになりかねません。

 敵戦力の撃滅が作戦目標である場合、その目標は変わることはありません。少々の損害を出してでも突き進むのか、それとも危うければ一度下がって別の戦法や方向から戦うことを選択するかは目標を達成するための手段に過ぎません。目標に固執するあまり臨機応変に手段を選べなくなってしまっては、目標の達成はより難しくなります。そしてこの臨機応変さを身に付けるには生きた人間を相手としたForce-on-Force訓練が必要です。それを経験することで、初めてマインドセットの意味を理解することが出来ます。

終わり
  

Posted by Shadow Warriors Training at 23:45小ネタ