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Posted by ミリタリーブログ at

2016年11月27日

戦術vs戦況


 基礎的な射撃訓練では単純に標的の中心部に弾痕を集めることが求められますが、戦闘訓練(戦術訓練)ではそれは求められません。戦闘訓練で求められることは、如何にして自身の戦術的優位性を保ちながら敵に命中させるかが求められます。こちらと同じく相手も生きた人間ですので、被弾しないように考慮と工夫を重ねながら攻撃してきます。そこでは単純に射撃の上手い・下手だけで片付く話ではなく、如何に深く考えているか、如何に冷静に自身の優位性と危険性を理解しているか、如何に相手の思考と行動を上回るかが、勝敗=生死の鍵を握ります。

 戦闘中は戦況は絶えず変化し続けます。よって戦術訓練では、戦況の変化をどれだけ正確に理解してその変化にどれだけ素早く対応出来るかを繰り返し頭だけでなく身体で覚えるために演練します。市街地であろうが山間部であろうが銃撃戦は互いの騙し合いです。自身と仲間とその場に居合わせた第3者の命を守るためには、卑怯だと思われようが相手の思考や行動を鈍らせるためのありとあらゆる手を駆使します。最終的に求められるのは、射撃の正確さや正々堂々さではなく、自身を含めた味方の生存です。私の師の1人である元米陸軍特殊部隊員の言葉を借りれば、「Never fight fair (正々堂々と戦うな)」です。

 互いに名乗ってから一騎打ちを挑む武士の戦いでは現代戦は勝てません。相手を騙してでも自身の戦術的優位性を維持する忍びの様な泥臭い戦い方が現代の戦闘員には必要です。当スクールの名称がShadow Warriors Trainingであるのは特殊な技術と戦術を身に付けた現代の忍びの訓練を意識しているからです。

 しかしながら、刻々と変化する戦況に対し、持てる戦術が1つであった場合は対応力が著しく限定されます。それまで99%の戦況に対応出来てきたからと言って残りの1%に対応出来ないのであれば、残念ですがその戦術だけでは戦力不足という事になります。悔しい話ですが、いくら繰り返し完璧に演練した戦術や技術があったとしても、戦術で戦況をコントロールすることは不可能です。戦況がその場で取れる戦術を限定させます。言葉を変えれば、戦術は戦況により支配されます。

 その残り1%に対応するためには、ありとあらゆる戦術や技術を身に付け、戦況に応じて適宜応用していくことが求められます。  

Posted by Shadow Warriors Training at 18:03小ネタ

2016年11月14日

防弾盾について


 一時期アメリカのSWATでは、建物の入り口までは盾を用いてスタックを組んで接近するも、バテリングラム等でドアを破壊して部隊の突入が完了した途端に盾を捨てて奥の部屋の掃討を行うといった戦法が流行っていました。確かに防弾盾は重くてかさ張りますので、狭い廊下や奥の部屋への移動には一見不向きなように思えますが、ロクな遮蔽物がない環境では唯一の遮蔽物と成り得る盾を捨てるのは部隊を危険に晒す行為となります。

 CQBの3原則である速度(Speed)、奇襲(Surprise)、攻撃性(Violence of Action)を持ってすれば相手の反応速度を上回るので、重い盾がなくとも被弾の可能性は低減させられるとの考え方もあります。確かにフラッドはこの考え方に基づいた戦術ですが、警察部隊が直面する現場は必ずしもフラッドが有効な戦術とは言えません。警察部隊が直面する現場では、人質立て籠もりや、自殺志願者などの籠城など、相手が地理的・戦術的に優位な状況にある現場です。

 ここで言う「地理的・戦術的優位」とは、特定の建物や部屋に陣取ることで犯人はその場と周辺の状況(構造や障害物などの情報)を警察部隊より詳しく知っており、加えて外部からの進入路が限られていることから警察部隊が突入してくる方向が予期出来ることを言います。つまり、立て籠もりの様な状況では、何らかの防護なしでは接近が感付かれた際に攻撃を喰らって味方に損害が発生する危険性が高いのです。

 よって、建物の入り口で防弾盾を捨ててしまうと、その奥の部屋や廊下で犯人と遭遇した際の防護を失うことになります。同時にバテリングラムなどの突入用特殊工具も入口のドアだけでなく各部屋のドアを破壊する必要が生じる可能性がありますので、フェンスや玄関のブリーチングに成功したからといって身軽に成りたい一心でその場に捨ててしまうと、後で部隊の衝力を削いでしまうことになります。

 また、防弾盾を携行する隊員は、盾を保持した状態で射撃が出来るように訓練されるべきです。盾を保持する隊員の後ろにいる隊員は、盾を持つ隊員の肩越しにしか前が見えないので視界が狭くなります。視界が狭いということは、射界も狭いということです。特にコーナーでは大抵の場合、盾を持つ隊員の方が後ろの隊員よりも先に前方の状況を見ることになります。よって、確認と同時に素早く対処すべき脅威がいた場合に備えて、盾を携行する隊員が盾を携行した状態で射撃出来る能力を有していた方が望ましいのは理解出来るかと思います。なお、盾を携行した状態でも高い命中性をアシストできる道具を挙げるとすれば、レーザーサイトになります。

 ただし、レーザサイトの取り扱いには注意が必要ですので、無駄に頼らないようにする必要がある事も留意して下さい。詳しくは当スクールのLow-Light Operationsコースで説明しています。  

Posted by Shadow Warriors Training at 22:11小ネタ

2016年11月06日

海上阻止行動 (2)


 では、それぞれの重要箇所を速やかに押さえる手順を説明します。

艦橋(ブリッジ)チーム:
 通常一番乗りで乗船し、ブリッジを制圧します。ブリッジ制圧後は、2~4名の指定された者がブリッジの左右に伸びるデッキに左右に分かれて位置し、主甲板などのエリアを射界に捉えてカバーします。ブリッジが制圧されたと同時に情報や通訳などからなる専門チームが合流を開始しますが、ブリッジにはチームリーダーを含む数名のみを残し、大半は無線室の制圧に向かいます。無線室の制圧が完了したら、ブリッジに残るチームリーダーに制圧完了の報告を入れ、無線室に他の者が入って来ない様に無線室を占拠します。

機関室(エンジン室)チーム:
 ブリッジチームと同様に、乗船後は第一にエンジン室へと向かいます。エンジン室の制圧後は、部隊を2つに分け、1つはエンジン室の占拠を続け、もう1つは船尾操舵室の制圧に向かいます。船尾操舵室の制圧が完了したら、更に部隊を2つに分け、1つは船尾操舵室の占拠を続け、もう1つはハロン室の制圧に向かいます。
 この間、制圧完了や移動開始など全てのタイミングは逐次エンジン室に残るリーダーに知らせれると共に、エンジン室に残るリーダーはその内容を逐次ブリッジチームに伝えます。

主甲板チーム:
 乗船後速やかに主甲板を制圧します。制圧する方向は乗船した場所によるので、船首からでも船尾からでも問題ありません。制圧する際は、部隊が横一列に並ぶような隊形を維持して移動する必要があります。これは万が一の交戦に備えて、自分の射界に味方が入らないようにするためです。船舶は中央部に大きな構造物を有しており、主甲板の左右に分かれたチームは互いの位置が確認し辛く、横一列での移動が困難となります。よって、ブリッジから伸びるデッキに残る監視チーム(狙撃に長けた者が望ましい)の援護と指示の下、横一列の隊形を維持しながら移動速度を統制されて動きます。
 ここで監視チームと主甲板チームとの間ではコミュニケーションが重要なカギを握ります。監視チームは主甲板チームの目となって、障害物の形状、隠れている人物の位置と特徴、等などを逐次的確に伝えて主甲板チームが後手に回らない様に助ける必要があります。
 また1区画を制圧するごとに、それより後ろ側のハッチを全て閉じて行きます。フレックスカフやパラコードで事足りる場合もあれば、溶接が非必要な場合もあります。

 艦橋チームと機関室チームの移動要領は、フラッドに近い要領となります。とにかく重要箇所を速やかに制圧することが目的ですので、そこに達するまでにある他の通路や部屋は無視して行きます。

 重要箇所を制圧・占拠し、主甲板チームが途中で遭遇した乗員を船首あるいは船尾側に追い込んだら、船内を隅々まで検索し、中に残る乗員を甲板上に出すことを行います。上から下へと順番に、先ずは主甲板より上にある構造物から始めます。それが終われば、主甲板より下の階層をクリアして行きます。階層ごとに船尾あるいは船首側から全てのハッチや通路も検索し、下層に繋がる部分には警戒要員を配置して1つの階層をクリアします。1つの階層がクリアされたら、次の階層を同じ要領で検索して行きますが、先程クリアした階層と繋がる部分に問題がなければ、上で警戒要員として残っている隊員はその段階で下層に検索チームに合流します。

 すべての船室、ハッチ、通路などの検索が終わり、乗員が主甲板上の一角に集められた時点で、制圧部隊の任務は終わりとなります。その後は部隊のSOPにもよりますが、残って警戒を続けるか、船舶全体の制圧完了後にやって来る乗員と貨物の検査を専門とするチームに引き継いで引き上げるかになります。

 言葉で書けば非常に単純明快なのですが、現実は非常に難しいです。なんせ、陸上の建造物と違って、構造が非常にややこしい。あれは、艦船の構造を熟知していない限り、隊員が非常に高いストレスを感じて見落としが起こるか、衝力が維持出来なくなります。
終わり
  

Posted by Shadow Warriors Training at 22:58小ネタ