2014年02月08日

準備と覚悟は?-後編

準備と覚悟は?-後編
 FBIの統計で最も興味深いのが、現着した警察官が増援を待たずに単独で突入することで解決したケースが13件あるのですが僅か平均2分で解決(射殺・投降・自殺を含む)したことです。アクティブ・シューターは時間の経過と共に被害者の数は増えます。アメリカの警察では従来は安全を考慮して2人組や4人組で突入することを義務付けていましたが、「素早い突入=少ない犠牲者」となることが判明して以来、今では多くの警察署が単独で突入することをケース・バイ・ケースですが認めています。また、これら単独突入した警察官全員が戦術やテクニックに長けていたかどうかは解りませんが、一つだけ確実に言えることは彼ら全員が武器使用判断基準を良く理解すると共に、引き金を引く覚悟を決めていたことです。

 アメリカの警察官は撃ち放題、とは映画だけの話です。弾が当たろうが外れようが、自ら発射した弾の1発1発に法的責任が問われます。多くのアメリカの警察官が自己防衛以外のケースで発砲を躊躇するのにはこの法的責任が非常に大きなウエイトを占めています。しかし、上記の単独突入した警察官たちは、犠牲者を1人でも少なくするために引き金を引くことを覚悟していたのです。このような覚悟は現場で突然決めることは出来ません。普段からそのようなマインドセットを訓練されていなければ、十中八九、現場で躊躇していたはずです。

 更にもう一つ興味深いデータですが、全体では15%のケースで警察官が撃たれていると前編では説明しましたが、単独突入した案件に限って言えば23%のケースで警察官が撃たれています。それでもなお、「素早い突入=少ない犠牲者」がベター(ベストではない)な判断であると、警察幹部も腹をくくっているのです。

 しかしながら、日本であれアメリカであれ、現場の安全が確保されない限り救急隊は規制線の中には入って来ません。そこでアメリカではSWAT隊員の中にメディックがいたり、パトロールの警察官でも医療キット(米兵のTCCC/CLSキットと同等のもの)を携帯しているケースが増えています。加えて、政府機関が中心となりレスキュー・タスクフォースのコンセプトが立ち上げられました。全米で広く実現されるまでにはまだまだ時間がかかるでしょうが、このコンセプトでは防弾装備に身を包んだ救急隊が武装した警察官の護衛の下で、未だ安全が確保されていない現場の奥深くまで立ち入り、取り残された要救護者の手当てや搬送を行います。

 この様な「覚悟」は非常に大きなリスクを背負っていることから諸刃の剣ですが、我が国でも検討するに十分値するはずです。現場の安全確保や受傷事故防止など、組織や幹部連中は基本原則の原理主義者か!と思えることが多々あります(ありました)。「警察官がやられては助けられる人も助けられない」との考えは解りますが、マスコミを始め世間は「警察官の初動が遅い=事件が長引いて犠牲者が増えた」と認識しますし、立て籠もり事件とは異なりアクティブ・シューター事件では時間の経過と共に犠牲者の数は増え続けます。

 このブログを読まれている現職警察官の皆様は、おそらくテクニックや戦術に若干の不安を持たれているものの、「覚悟」は少なからずとも決めておられるでしょう。プロ用コースの受講者にいつも言うことなのですが、現場の人間がタクティカル・トレーニングを必要としているのは勿論分かりますが、本当は彼ら現場の人間を訓練する連中、組織の方針を決める連中、実務に使う装備を開発する連中にタクティカル・トレーニングを受けて欲しいのです。実戦がどんなものか分からない者に装備を開発したり、方針を決めたり、訓練を施したりすることは期待出来ません。実践と基本原則は違うからです。

終わり



Posted by Shadow Warriors Training at 22:31 │小ネタ