2015年10月18日

戦術的選択(1)

戦術的選択(1)
 「税金で買った物を壊すな!」だけでなく、「お前らの代わりはなんぼでもおるんや!」と教育期間中だけでなく第1線勤務となってもひたすら言われ続けました。確かに予算請求や調達は簡単なものではありません。官公庁の物品は、壊れたからといってどこぞのサイトから翌日配達で注文出来るようなシステムではありません。よって、官品を粗末に扱って壊されることを避けるために「物品愛護の精神」の大義名分の下、警察や自衛隊などでは先程のようなセリフが日常的に繰り返されています。

 官品の調達業務は、予算内に収まるか否かだけで購入の許可は下りません。それらを税金を投じて調達するにあたる理由が必要であり、その理由や必要性が認められなければ例え予算が余っていたとしても購入することは出来ません。説明を繰り返して必要性を説き続け、何重にも及ぶ「審査」課程を経てようやく承認され、納入業者と契約を結んで晴れて調達が実現した時には達成感よりも「二度とゴメンだ」との気持ちが本音です。私も装備品の調達業務を経験していますが、購入したい装備品が特殊であればあるほど一連のプロセスは複雑かつ長期化します。

 しかし戦術的な局面から見た場合はどうなのか?果たして日常的に言い続けられている物品愛護の精神は、差し迫った脅威に対処する上で役に立つのか?と言った議論は残念ながら成されておらず、強いて言えば避けて通られてきた感があります。そこで今回は急迫不正の侵害や脅威に対処する上で、命を優先するのか物品愛護を貫くのか、と言った戦術的選択について意見を述べたいと思います。

 タクティカル・トレーニングでは弾倉交換時に空弾倉は地面に落とします。手で受け止めることもしなければ、落ちた空弾倉を拾うこともしません。それよりも0.1秒でも早く新し弾倉と交換し、スライドを引いて初弾を薬室に放り込んで、眼前に差し迫った脅威を無力化させることを目指します。念のために付け加えますが、脅威の無力化は最優先事項ではありません。戦闘時における脅威の無力化は「唯一」の戦術的目標です。その他の行為はオプションであり、余裕があれば行うことも可能と言えるものです。

 その1つの例が空弾倉の回収です。戦闘の動きの中で地面に落とした空弾倉を蹴飛ばしたり踏みつけたりすることはあります。しかし戦闘の最中で弾の入っていない弾倉を拾うことの戦術的な意味はなんでしょうか?はっきり言って皆無です。動きを停めて身を屈めて空弾倉を掴む行為が、銃撃戦の最中で安全でないことは一目瞭然です。撃って下さいと言わんばかりの行為です。しかしながら、物品愛護を日ごろから繰り返し言い続けられ、普段の訓練でも空弾倉を回収する行為を行っていると、実戦でも同じ行動を取ってしまいます。

 人間とはパターンで行動する生き物です。日ごろ訓練していない行為は実戦で出来るものではありません。逆に、日ごろ訓練している行為は実戦で無意識的に行ってしまうものです。このことを理解した上で訓練しなければ、銃撃戦の最中に不用意かつ不必要な行動をとって、命を危険に晒すことに繋がってしまいます。

(2)へ続く



Posted by Shadow Warriors Training at 19:56 │小ネタ