2023年11月13日
ダブルタップの実用性(4)
訓練で行うダブルタップが実戦(あるいは実戦的環境のシナリオ訓練)では実行出来ないのであれば、行きつく考えは2つです。1つ目は訓練が足りないと結論付ける。2つ目は訓練の内容に疑問を呈す。
リロードの速度や遮蔽物への隠れ方など、演練すれば上達するテクニックはあります。その様なテクニックの場合は、達成度が悪い=訓練が足りないと結論付けることは出来ます。ですが、一概に全てをそう結論付けることは出来ません。ではどこで(どの様に)線引きするのか?線引きするにはビッグデータが必要になります。ダブルタップの例であれば、同じ訓練を繰り返した回数や、同じ訓練を行った人数が多いほどビッグデータはより確証性が高くなります。
個々の訓練レベルや演練の回数に関わらず実戦的環境でどうしても確実に実行出来ないテクニックである、とデータが導き出したのであれば行きつく先は前述の2つ目の考え方になります。ダブルタップは実戦では使えないのではないか?
RBTと言う訓練手法があります。RBTとはReality-Based Trainingの略で、現実に基づいた訓練という意味になります。RBTの目標は、個人のスキルを最大限に発揮するとともに、ストレス時に最適な対応ができる精神的および心理的スキルの基礎を提供することにあります。誤解を招かぬように前置きをしますが、結論からして出来ないことを精神論で乗り越えさせようとするのは全くもって無駄な話しです。逆に、RBTでは無駄や無理を理解させることで、訓練の効率化や見直しを図ることにも繋げます。
その様な訓練手法にビッグデータを用いた結果のSWTの考え方を述べます。ダブルタップは紙の的を相手にした射撃方向が一方通行な訓練でしか使えません。双方向で射撃する(要するに撃ち合う)環境ではダブルタップは使えません。
終わり
2023年10月09日
ダブルタップの実用性(3)
ここで疑問が生じるかも知れません。ダブルタップとは1度のサイトピクチャーで2回撃発するので、1度だけ照準することが出来れば2回撃てるのでは?ですが紙の的相手ではそれが出来ても、人間を相手にした訓練ではそれが出来ません。何故か?それはある意味訓練で染み付いたものが原因だからです。
2発目が当たらなくてもいい、敵に向けて撃てば相手を足止め出来るだろう。
完全に彼我が分かれた状況で、いわゆるダウンレンジには敵以外誰も存在しないのであればその様な考え方に切り替えても問題ないかも知れません。しかしながら、敵味方だけでなく第3者も混在する市街地戦などではそうは行きません。テロリストであれば話は違いますが、警察官や軍人(自衛官)にあっては、当たろうが外れようが自分の銃から発射された弾の1発1発全てに法的責任が問われます。その教育やメンタルな部分がある意味「足かせ」となり、弾が外れるかも知れない状況において引き金を引くことを脳が指を許しません。
よって、動きの中、あるいは動く相手に対して2発目が外れるかも知れないと脳が意識すると、紙の標的を相手には可能であったダブルタップが実行出来ず、1度のサイトピクチャーに対して1回の撃発だけとなってしまいます。更に、時間的な余裕があった場合でも、1発目の後に2度目のサイトピクチャーを得て2発目を撃つ、テクニックの名称としては「コントロールドペア/Controlled Pair」になるのが殆どです。
(4)へ続く
2023年09月14日
ダブルタップの実用性(2)
シングルショットにせよダブルタップにせよ、射撃をするためには絶対的に必要な条件があります。それは的(敵)が見えていることです。極めて当たり前のことですが、この意味の本質が分かるか否かは、訓練内容に左右されます。
フラットレンジでの訓練では煙幕など視界を遮る影響がなければ、勿論標的は見えます。銃を構えてサイトを合わせて撃発すれば、的に弾は当たります。ですが、問題は的ではなく敵を撃つ場合であり、最も厳しい条件を挙げるのであれば敵と撃ち合う場合です。自らがそうする様に、敵も遮蔽物の陰に隠れたり姿勢を変えたり動いたりと、撃たれないように工夫します。その様な条件下では、敵を認識して狙いをつける時間が極めて限られます。
フラットレンジだけでなく自由意志を持った人間同士で撃ち合うForce-on-Forceを経験された方は、この問題を理解されていると思います。自らも動きながら動く敵に狙いを定めて射撃する場合、条件が厳しいと1発撃つだけの時間しかありません。また、より厳しい条件では1発も撃てないこともあります。
ダブルタップ=1度のサイトピクチャーで2発撃つ。フラットレンジでは簡単なのですが、撃ち合いの中ではそう簡単には出来ません。なにせ敵が見えている時間が極めて短く、また見えている箇所も限られているので、銃口を指向させることが出来ても狙いをつける時間的余裕がない場合が多いからです。
(3)へ続く
2023年08月21日
ダブルタップの実用性(1)
1度のサイトピクチャーで2発を撃つ。これがダブルタップです。そもそものダブルタップは、いわゆる「ストッピング・パワー」に欠けるとされた貫通力の高い小口径のFMJ弾を極めて短時間で2発を当てることで致死性を担保させるために始まったテクニックですが、その実用性を検証したことはありますでしょうか?
先ず言っておきたいことは、そもそも拳銃弾や小銃弾には「ストッピング・パワー」というものはありません。50BMGであれば「ストッピング・パワー」は期待出来ますが、拳銃弾や小銃弾では当てる場所が正しくない場合は2発撃とうが3発撃とうが無力化することが出来ません。相手を無力化させるには然るべき箇所に命中させる必要がありますので、射撃=引き金を引くことではなく、射撃=命中させること、とこの業界が浅い方は射撃に対する認識を変えてもらう必要があります。
(2)へ続く
2023年07月23日
新製品の実用性
近年は戦争の影響もあり、装備品は新製品が市場に溢れています。支給品はその国のドクトリンを基にした戦術・戦闘での使用を想定して設計・生産されているため、訓練のレベルをはるかに超えた実戦環境や、そもそもあった軍事ドクトリンの範疇を超えた領域での戦闘(アジアや北欧諸国の軍隊がアフリカや中東の砂漠に展開するなど)を経験すると、支給品には様々な不具合が見つかります。勿論、組織としてそれら不具合は現場から司令部へとフィードバックされますが、軍隊(警察も)は組織が馬鹿デカいので、改変や改革などのスピードが遅いのが難点です。
軍隊では個別の要求に応じたカスタマイズは費用対効果の問題から現実的ではありませんが、民間業者は一定レベルのニーズがあれば製品化させる柔軟性とスピードを有しています。よって、民間業者の方が現場のフィードバックを直接反映した製品をいち早く市場に出すことが出来ます。ですが、それらフィードバックは必ずしも全ての部隊や隊員のニーズに合致するものではないことを理解しておく必要があります。例を挙げるなら、某有名インストラクターが考案したスリングを銃側のスイベルに取り付けるための、クイックディスコネクト式のリングがあります。これは彼が経験した船上という作戦環境でのニーズを基に設計された製品であることから、野戦環境ではクイックディスコネクト機能が全く使い物になりませんでした。
ユーザーはその製品の新旧だけでなく、自らが展開する作戦地域に適しているか否か(例えば、積雪地域ではベルクロの表面に雪が付着して接合性が損なわれます)、自らが行動する作戦内容に適しているかをしっかりと見極める「目」を持つことが要求されます。
さて、前置きが長くなりましたが、最近では装備品と同じかそれ以上のスピードで医療品も新製品が市場に発表されています。この度North American Rescue社から経鼻エアウェイの発売が発表されましたが、この製品の特長はパッケージ内にて既に潤滑剤が塗布された状態の経鼻エアウェイが封入されていることにあります。
ですが、「これは便利!」と手放しで喜ぶには少し早いかも知れません。経鼻エアウェイを訓練でも用いた経験がある方は分かると思いますが、グローブをした状態で潤滑剤のパッケージを開けて経鼻エアウェイに塗布することは非常に細かい作業です。よって、潤滑剤が既に塗布されているのはその手間が省けて良いように思われますが、経験がある方は同時に滑り易さが逆に邪魔になることが分かるかと思います。
新製品を身に着けたり手にするだけで満足するマニアは別として、自身や仲間の命を場合によっては装備品の性能に預ける可能性のあるプロにとっては、自身でしっかりと試して実証を重ねてから導入するか否かを判断することが求められます。