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Posted by ミリタリーブログ at

2023年07月02日

特殊作戦部隊員が抱える問題について(3)


 そこで解決法の1つとして近年導入されたのが、本来フットボールやラクロスなどのコンタクト系スポーツにおける外傷性脳損傷(TBI)の軽減を目的としてQ30社が開発したQ-Collarになります。既に販売されており、タクティカル・モデルとしてはMulticamと黒一色がありますが、価格は1つ$250ほどします。また、今後の支給の向けた試験も踏まえ、本年4月に開催された米陸軍のベストレンジャー競技会では、Q30社が112名の全参加者にQ-Collarを提供しました。


 衝撃波などによる振動にて脳が頭蓋骨内で揺れ動くことがTBIの原因となる脳組織の損傷に繋がることから、この製品がどの様に機能するかと言うと、自らの血液で押さえて脳が揺れ動かない様に働きます。具体的に説明すると、爆風などの振動や衝撃を受けると一瞬首に力が加わりますが、その際に首のサイズにジャストフィットしたQ-Collarが首の血管を適度に締め付ける様に働きます。その結果脳内に流れる血液を首より下に流さずに脳内に残すことで、脳と頭蓋骨の間の隙間を血液で埋めるということになります。

 今後は競合する他社製品も出てくるでしょうが、隊員の戦闘員としてのライフスパンだけでなく人間としてのライフスパンも考慮した製品が開発され、隊員が「使い捨て」とならないことを願います。

終わり
  

Posted by Shadow Warriors Training at 23:05小ネタ

2023年06月12日

特殊作戦部隊員が抱える問題について(2)


 コンタクト系スポーツにおける接触や転倒、自動車事故や転倒・転落などにより脳細胞が一時的に傷つく脳しんとうも外傷性脳損傷の一種ですが、特殊作戦部隊員の場合はその様なことが原因ではありません。脳しんとうは頭蓋骨の中で脳が強く揺さぶられることで脳細胞が一時的に傷ついたり機能障害に陥りますが、CT検査やMRI検査などの画像検査では脳の損傷が検出されないことが殆どです。一般人として生活している場合はその様な脳細胞の一時的な損傷を頻繁に経験することはありませんが、長い戦争を通じて日常的にブリーチングや近接航空支援を経験したことから、脳細胞の損傷を繰り返し経験したことにより外傷性脳損傷を発症する特殊作戦部隊員が多く存在する様です。

 ブリーチングにせよ近接航空支援にせよ確かに安全離隔距離は存在しますが、戦闘の局面では安全よりも戦術が優先されますので、教範で定められた距離より肉迫する場合はあります。ただ、破片などによる直接的な被害を受けない距離を保ったとしても、爆発の衝撃波は身体の芯に響くため、脳が頭蓋骨の中で振動します。これが原因で脳細胞が損傷を受けるのですが、スポーツや一般生活と異なりその頻度が異常に高いため、損傷が回復のペースを上回ることで、ある日突然物忘れが酷くなったり、感情的になったりと部隊にも家庭にも影響が及び、その結果として除隊を余儀なくされた隊員が存在するとのことです。

(3)へ続く
  

Posted by Shadow Warriors Training at 00:08小ネタ

2023年05月21日

特殊作戦部隊員が抱える問題について(1)


 ここ最近、多くの退役した特殊作戦部隊員の戦闘経験や退役に至った経緯などを知る機会がありました。退役するに至る理由としては、手足の断裂など戦闘による負傷や、頻繁過ぎる派遣ローテーションと家庭生活とのバランスを考えた結果など様々でしたが、特徴的であったのが外傷性脳損傷(Traumatic Brain Injury / TBI)でした。

外傷性脳損傷とは交通事故などで外から頭に強い力が加わることで脳の組織が傷つくことによって生じる疾患で、損傷の結果、半身のまひや感覚障害、記憶障害など生涯にわたる障害をもたらします。世界保健機関(WHO)によれば全世界で人口10万人あたり150から300人の患者がいると言われています。

20年に渡った対テロ戦争(GWOT)では通常部隊(Conventional Forces / CF)は勿論、特殊作戦部隊(Special Operations Forces / SOF)が大量投入されましたが、特殊作戦部隊はその任務の性格上、爆撃や爆破などによる衝撃波の影響を通常部隊員より受けやすいことから、外傷性脳損傷を患うリスクが高いと統計でも表れているとのことです。なお、2000年から2021年年でに米軍全体で外傷性脳損傷と診断された患者は 454,000 人に上るとのことです。

(2)へ続く
  

Posted by Shadow Warriors Training at 23:48小ネタ

2023年05月01日

ブログ更新について


 長らくブログを更新しておらず申し訳ありません。4月の初めに在日米軍を退職し、19年6ヶ月続けた予備自衛官も退職し、新たな任務に就いた関係でブログを書く暇がありませんでした。
 ですが、少し余裕が出てきましたので、そろそろブログを更新し始めますので、もうしばらくお待ち下さい。

SWT田村
  

Posted by Shadow Warriors Training at 00:15その他

2023年03月24日

銃撃戦を安全に経験するには(5)


 人間は極度のストレス下におかれると予期せぬ心理的・生理学的な現象を経験します。よく知られている現象の1つが目の前の一点しか見えなくなるトンネルビジョン(視野狭窄)がありますが、周りの物音や発声が聞こえなくなる聴覚障害もあります。その様な現象が起こった場合でも敵の動きに対して回避や応戦などの行動をとれる様になるには、フラットレンジでのトレーニングだけでは不可能です。

 銃の取り扱いも同様で、フラットレンジでは多種多様な邪魔やプレッシャーの中で落ち着いて弾倉交換や故障排除が出来る様に訓練しますが、Force-on-Force訓練では視野狭窄や聴覚障害、その他人間の行動に悪影響を及ぼす心理的・生理学的現象の下でもその様なガンハンドリングが「自動操縦」の様に行えるか否かを試すことが出来ます。

 競技射撃では職人的な射撃技術が勝敗を左右しますが、実戦では戦術的柔軟性が生死を左右します。そこで必要なものは形や理想への拘りではなく、撃たれないための、もっと極端に言えば生きるための執念になります。その執念(マインドセット)を身に着ける、または必要性を理解するためにあるのがForce-on-Force訓練になります。言ってみればフラットレンジでの訓練は射手を育てるためにあり、Force-on-Force訓練は戦術家を育てるためにあります。

 そこでよく受ける質問として、フラットレンジで基礎を身に着けてからForce-on-Force訓練を受けるべきか、それともForce-on-Force訓練を先に受けるべきか?がありますが、これには答えはありません。なぜ答えがないかと言うと、フラットレンジでの訓練とForce-on-Force訓練はそれぞれ一度きりで終わるものではなく、それぞれで学んだことを別の訓練で試し、またそれを繰り返すことが必要だからです。

 訓練とは学習目標に達するための手段ではありますが、それだけではなく、失敗を経験する機会でもあります。その失敗があればあるほど、技術や戦術の習得に向けた「本気度」のレベルが高まります。そして射撃や戦術訓練において「本気度」を上げるきっかけとなるものがForce-on-Force訓練になります。死ぬことなく、しかしながら多くの教訓を得られる銃撃戦のシミュレーションとして、Force-on-Force訓練をお勧めします。

終わり
  

Posted by Shadow Warriors Training at 09:54小ネタ