2016年05月08日
車は遮蔽物にあらず(2)

ではドアなどを貫通した弾丸はどの様な弾道を描くのか?こればかりは予測計算することは不可能です。キャリバー50で撃った場合はほぼ真直ぐ反対側も突き抜けるでしょう。しかし、拳銃弾や小銃弾は片側を貫通した時点でかなりの運動エネルギーが失われますので、そのまま真直ぐ反対側に到達することが、逆に稀です。大抵の場合は大きく軌道を変えて、思いもよらぬ弾道を描きます。そして最初に着弾した射入口側の正反対側とは全く別の場所から射出します。
何故弾道が変わるのか?それは、車のドアやエンジンルームの内部には様々なパーツがあり、弾丸がそれらパーツにかすったりすることで本来真直ぐ飛ぶのに必要な回転が損なわれ、運動エネルギーが大きく奪われるからです。真直ぐ貫通した場合は、射出口もほぼ円形になりますが、弾が勢いを失い空中で縦や斜め回転しながら反対側を貫通した場合は、縦長や横長の「キーホール(鍵穴)」型の射出口を形成します。では、極端に軌道を変えた弾丸は貫通した先でどの程度の威力を有するのか?弾道重量、着弾時の速度、着弾した物体の材質、着弾後に他に正常な弾道の妨げとなった物体の素材や衝突角度、等などが複雑に絡み合いますので、残念ながらこれも予測計算することが不可能です。
では、全ての弾が貫通するのか?答えはNOです。特に高速で飛翔する軽量な弾丸は、貫通力が低いです。では、全ての弾が喰い止められるのか?これも答えはNOです。偶然、途中で弾道の妨げとなる物体に接触しなかった弾丸は、ある程度威力を失ってはいるものの反対側も十分に貫通します。興味がある方は廃車の反対側に標的を設置して、複数の口径の銃で撃ち比べてみて下さい。ある時は貫通したのに、ある時は貫通しないといった同じ口径の銃でも異なる結果が出ることに驚かれると思います。
10発中10発が貫通するのか?残念ですが答えはNOです。しかし重要なのは、そのうち何発かは確実に貫通することです。このことから安易に車を遮蔽物として利用すれば安心であると考えるのは危険であり、止めるのが得策です。では、前回のブログで隠蔽物として利用することは矛盾していないのか?なにもそこに最後まで籠城する訳ではなく、敵から姿を隠しながら反撃し、敵の動きを止めてより安全な場所に移動するまでの「一時的な目くらまし」として利用するだけですから、矛盾はないと考えます。
ただし、ここでいう「一時的」とは本当に限られた時間です。威力を失ったからと言い、貫通した弾丸は人体を傷つける威力は十分に有しています。腕がやられたらもう一方の腕で闘えますが、足がやられたら機動力を失うことになります。よって、遅かれ早かれ被弾して機動力が失われるといったリスクを軽減させるために、即座に反撃して敵を足止めさせる程度の時間が、ここで言う「一時的」に該当します。
効果的に車両の陰から射撃する方法や、敵がその様な射撃姿勢を用いた場合にシャーシの下に弾を通して当てる方法など、実戦的なトレーニングにご興味がある方は、是非SWTのFighting PistolやFighting Rifleを受けてみて下さい。
終わり
Posted by Shadow Warriors Training at 22:46
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