2015年11月01日

戦術的選択(3)

戦術的選択(3)
 では何故、現場レベルではどこまで乱暴に扱えば銃が正常に作動しない程度まで壊れるのかを具体的に知らないのか?それは開発から配備に至る過程に問題があるからです。実戦的な考え方をベースに銃器を開発する際は、発注元の官庁が要求する諸元などを満たすだけでなく、使用する部隊の作戦環境や取扱い方まで考慮に入れます。銃器にとって劣悪な環境を再現して度重なるテストを繰り返すことで、実戦向けの銃が開発されます。

 反面、銃器マニアに毛が生えた程度のエンジニアが開発・設計した場合、形や格好といった戦闘に必要のない要素に重きが置かれ、ロクな耐久テストも経ないまま、結果として欠陥品の様な銃が配備されることになります。発注した官庁も諸元は満たしているので特に文句を言うこともなく易々と納品を認め、配備された部隊ではビニールテープで部品の脱落防止を図るといった軍隊の一般常識からはかけ離れた裏技を強いられることになります。なぜ開発から納品までの間に崖から落としたり、泥沼に落としたり、砂に埋もれさせたりといったテストが行われないのか?それは開発者も発注者もそこまでの劣悪な環境に銃が晒されることを想定していないからであり、裏を返せば、徹底して物品愛護を言い聞かせているのでその様な環境に銃が晒されるはずがないといった根拠のない自信を基に、開発担当者にその様なテストを要求する必要性も感じていないからです。

 SWTにはこれまで多くのプロの方々がトレーニングを受けに来て下さいました。彼らは皆、イザという時に「戦術的に正しい選択肢」を選べることを目指して、官庁の訓練では決して実施されないトレーニングを目当てに来て頂いています。非常に向上心の高い方ばかりで頭が下がるのですが、本音を言うとその目的を達成するためには、装備を開発する者・訓練を担当する者・訓練を基に装備を発注する者にトレーニングを受けて欲しいと思っています。その様な実戦的な訓練の経験がないことからどういったことが実際に起こり得るのかが分からず、そのフィードバックがないことからどの様な性能や諸元を求められるべきか分からず、その様な要求がないことからどの様にして製品を研究開発すれば良いのかが分からない。これが結果として、装備品の性能の限界が分からないまま腫物に触れるように扱わざるを得ない特殊な環境を生み出す1つの要因となっています。

 念の為に言っておきますが、私は税金で調達した装備品を乱暴に取り扱うことを推奨している訳ではありません。私は、必要に応じて考え方を変えないと物を大事にしてしまうことで命を粗末にしてしまう結果に繋がる危険性を指摘しているだけです。前にも述べたとおり、人間はパターンで行動する動物であり、刷り込まれた行動パターン以外は咄嗟の場合に取れません。物品愛護の精神は大事ですが、それよりも大事なものがあることも同様に述べて対処要領を訓練しておかないと、隊員にとって最も好ましくない結果が起こるのは目に見えています。まあ、いくら声を荒げても、我々下っ端の代わりはいくらでもいるとお考えでしょうから、結局のところ上層部にとっては関係のないことでしょうが...

終わり



Posted by Shadow Warriors Training at 22:26 │小ネタ