2013年07月19日

弾道学とゼローイング(おまけ)

弾道学とゼローイング(おまけ)
 最後に、このゼローイングについて、国ごとに異なる手法を採用している興味深い話しがありますので紹介したいと思います。アメリカや日本では、隊員個人に銃が貸与されており、「この番号の銃は誰々のもの」と決まっています。ですから、一度ゼローイングを合せれば、余程体型や装備などが大きく変わらない限り、その銃の持ち主である隊員は、同じ命中精度を維持することが出来ます。このシステムの長所としては、高い命中精度に自分の銃をある意味カスタマイズ出来ていることですが、短所としては、他人の銃では同じ命中精度を得ることが出来ないことにあります。

 ところが、ドイツではH&K社の工場で全ての銃が「機械的」にゼローイングされた状態で納入されており、どの隊員も個人の身体的特徴に合せた修正をすることがないそうです。代わりにドイツ軍では、それぞれの隊員(一般隊員に限る)が「どの程度の距離であればどの程度的の中心からずらして狙うか」を訓練するそうです。そうして距離に対する偏差量を頭と体で覚えることで、誰がどの銃を撃っても即座に同じ命中率を得られるようにしているそうです。このシステムの長所としては、戦闘中に自分の銃が故障しても、誰かの銃があれば同じ命中精度を維持しながら闘えることですが、短所としては、正確に修正されたものでないことから、それほど高い命中精度を得ることが出来ないことにあります。

 なお、この話しは元ドイツ陸軍の友人から聞いたものであって、彼が務めていた時代(G3ライフル)でのやり方です。現在のG36ライフルでも同様の手法が採られているかはわかりませんが、非常に興味深い手法であると思います。

 また、「射距離に合せて中心からずらして狙う」なんてどうよ?と思う方が居るかと思いますが、実はこれスナイパーも使うテクニックです。スコープに対して角度(撃ち上げ・撃ち下ろし)や風による縦横方向の修正をせずに、その「修正すべき値」に応じてスコープのレティクルに刻まれた目盛り分を中心からずらして撃つ「ホールドオーバー」と呼ばれるテクニックです。一見、雑なやり方に見えますが、いちいちエレベーションやウィンデージを修正する時間的余裕が無い場合に非常に有用なテクニックです。ただし、角度や横風の程度に応じたホールドオーバーの量を予め知っておく必要がありますので、訓練でデータを蓄積しておく必要はあります。



Posted by Shadow Warriors Training at 08:16 │小ネタ