2019年12月25日

防弾シールドについて

防弾シールドについて
 12月23日をもって、SWTの2019年のトレーニングは無事に全て終了しました。今年も多くの警察官、自衛官の皆様のご贔屓として頂きありがとうございました。年明けまで休業とさせて頂きますが、また2020年もよろしくお願い致します。

 さて、年内最後のトレーニングでも話題に上りました防弾シールドですが、SWTではシールド専用のコースは設けておらずトレーニング中に受講者から質問があった際にノウハウを提供しています。正直言って、シールドの有無で戦術的なものは変わりません。シールド無しのCQB戦術が基本であり、あくまでもシールドは追加装備です。よって、シールドについて語る上で戦術面の細部を開示する危険性は低いですので、今年最後のこのブログを借りて防弾シールドについて一般的な事を書きたいと思います。

 先にも述べたとおりシールドの有無で戦術は左右されるべきではありません。CQB戦術を左右する要因は、敵の戦力や建物の構造などであって、シールドは追加装備・補完装備として考えるべきです。また、国内ではフルサイズのシールドを装備している部隊もあれば、半分程度のサイズの小楯しか装備していない部隊もありますが、ここではフルサイズを基本として書きます。

 フルサイズのシールドは重たいです。よって、シールド要員は体力(特に腕力)を鍛える必要があります。部隊によっては決められた部隊の人数の中にシールド要員を指定する場合もありますが、その際考慮すべきリスクとしては火力の低下が挙げられます。シールドの重さが足かせとなって、シールド要員には銃を構えさせない部隊があります。それはそれで部隊が採用した戦術ですので大きな声で文句は言いませんが、そのために射手が1名減ることをリスクとして認識されていないケースが散見されます。恐らく上層部はシールドを持たせることで部隊の防護が高まったと勘違いしているのでしょうが、現場に投入される部隊はたまったものではありません。

 シールドを持っていたとこで相手の弾を食い止めることは出来てもその相手を無力化することは出来ませんので、シールド要員と背後の射手の2名をもって脅威を1名排除するといった図式になります。このリスクを認識していないと、残りの隊員の負担が増えることになります。何故なら特にCQBは360度方向を常時警戒する必要があることから、残りの隊員で当面の脅威以外の全ての方向をカバーする必要が生じるからです。カバーと言うと単に警戒範囲の様に聞こえるかも知れませんが、その方向に新たな脅威が現れた場合の対処が本来のカバーの意味です。

防弾シールドについて
 よって、少なくともシールド要員に拳銃を構えさせることを勧めていますが、その場合はシールド要員に新たなテクニックを習得させる必要性が生じます。それは片手射ちです。片手射ちと聞くと、単に片手で拳銃を撃つだけに思われるかも知れませんが、実際はそうではありません。片手射ちには、射撃だけでなく、ホルスター・ドロー、弾倉交換、故障排除の全てが含まれます。片手でシールドを構えたまま、もう一方の手だけで弾倉交換や故障排除が素早く出来るレベルの射撃技術がシールド要員には求められます。勿論、コーナーの方向によってはシールドと拳銃を左右でスイッチしますので、利き手だけでなく非利き手でも同様の動作がスムーズに行えることが求められます。

 SWTのピストルやライフルコースの受講者は利き腕の負傷に備えて左右それぞれでの片手射ちの難しさを嫌ほど味わっていると思いますが、射撃よりも弾倉交換や故障排除を片手だけで行う事がどれだけ難しいかお分かりだと思います。特に非利き手だけで拳銃を扱う際に最も難しいのが、必要な作業のために一度銃をホルスターに収めることかと思います。シールド要員は自らだけでなく後続の隊員の防御のためにもシールドを下げることは出来ません。よって、右利きの隊員が右手でシールドを保持し左手で拳銃を構えていた際に弾切れを起こした場合、最も安全かつ素早く銃を収めて空弾倉を銃から取り出すには、身体の左側にもホルスターを装備しておく必要があります。勿論ホルスターに銃を収めてから弾倉を交換して再び挙銃し脅威に対して銃口を向けるまで、目線を下げることなくシールドののぞき窓ごしに脅威を注視しておく必要があります。

防弾シールドについて
 また、シールドには様々な形状のものが存在しますが、どの様なタイプのシールドを装備していても、最も脅威が高い方向に向けて正対させる必要があります。これは、正面から弾を受けることがシールドの防弾機能が最も高い効果で発揮されるからです。防弾プレートと同じで殆どのシールドは斜め方向などからの被弾に対する効果がテストされていません。よって、「当たるなら正面から」という考えを持って臨む必要があります。ですのでシールド要員には目の前で刻々と変化する脅威の状況を冷静に分析した上で部隊にとって最善の防護と成り得る方向に常にシールドを向ける状況判断能力とCQB戦術の高いノウハウが求められます。

 ですので、若い隊員をサポート要員として安直にシールドを持たせると部隊は防護されるどころか危険に晒されてしまいます。ベテラン隊員はリーダーのポジションに必要ですので、戦術的な理解度を考慮するとシールド要員には中堅隊員が必要となります。そうなると、人数の少ない部隊では必然的に若い隊員が射手にあてがわれることになりますので、シールド要員との連携や戦術面での高い習熟度が求められる2番員を除いたポジションに若手を配置することになります。

 部隊によっては配属1年目は戸口破砕や梯子を支えるなどのサポートだけに徹する人員配置となっていますが、早いうちに若手にも高いレベルの射撃技術と戦術の訓練を施さないと、大規模な事案に対して人数が必要な際に数多くのチームを派遣することが出来なくなります。



Posted by Shadow Warriors Training at 19:41 │小ネタ