2013年05月24日
メディカル・キットについて(3)
キット:
ポケットの中には、CELOX(粉末状止血剤)、チェストシール、吸収パッド(血液・体液用)の3点を入れています(写真最上段)。ポーチ中央の継ぎ目となる部分には、大型の安全ピンとライトスティックを配置しています(写真上から2番目)。ポーチの一方側には、Hバンデージと圧縮ガーゼを入れています(写真上から3番目)。Hバンデージは中央に樹脂製のH型の板があり、これに端末を引っ掛けながら締め付けることで、傷口を圧迫することができます(写真上から4番目)。ガーゼは真空パックに入っていますが、開封するとソフトボールくらいの大きさになります(写真最下段)。
因みに、オーストラリア人は「H」のことを「ヘイチ」と発音します。元オーストラリアSAS隊員から以前訓練を受けたことがありましたが、彼は「ヘイチ・バンデージ」と言っていて皆それが面白くて笑っていたんですが、笑うと当然銃口も挙動しますので、他のアメリカ人インストラクターから「お前喋るな!訓練生が集中できない!」なんてつっこまれてました。
2013年05月24日
メディカル・キットについて(2)
ポーチ:
SOE社製の6インチ×6インチのメディカルポーチです。SOEの社長のJohn Willis氏とは長い付き合いで、いつも破格のディスカウントをしてくれたり、試作品とかをタダで貰ったりとお世話になってます。スプレーで迷彩塗装を施していますが、ベースが黒なので、黒っぽさは抜け切れません。
ポーチの前面にはTactical Tailor社製の小型アドミンパネルを付けてあり、血液型などのパッチの貼り付けと負傷者カード(Casualty Evaluation Card)を入れるのに使っています(写真上段)。背面にはBenchmade社製の小型シートベルトカッターを配置させています。シートベルトカッターは、ナイフよりも安全でハサミよりも早く衣服等を切り開くことが出来ます。ポーチはMaxpedition社製のベルクロパネルにてチェストリグに貼り付けていますので、左右どちらの手でも引っぺがすことが可能です(写真中段)。
ポーチの内部には、複数のエラスティック・バンドとポケットがあり、各アイテムを取り出し易いように配置しています(写真下段)。
2013年05月24日
メディカル・キットについて(1)
私が実弾射撃訓練の際に携行しているメディカルキットについて説明したいと思います。少々長くなりそうですので、数回に分けてアップしていきます。
まず始めに2種類のメディカルキットの違いについて説明したいと思います。メディカルキットには、戦闘外傷(銃傷によるものがメイン)をケアするためのトラウマ・キットと呼ばれるものと、軽度な切り傷や捻挫などの戦闘外傷以外をケアするためのファースト・エイド・キットとに区別されます。そして戦闘においても訓練においても、最も重要な装備はトラウマ・キットであって、これは絶対にファースト・エイド・キットと同じにしてはいけません。命を救うための道具とその他の道具を一緒にしていると、いざ必要となった際に余計なものが邪魔をして、本当に必要なアイテムの取り出しが遅れてしまうからです。コンマ1秒を争う極限の状況では、不必要なアクションの1つ1つが確実に死へと繋がっていきます。
まず始めに2種類のメディカルキットの違いについて説明したいと思います。メディカルキットには、戦闘外傷(銃傷によるものがメイン)をケアするためのトラウマ・キットと呼ばれるものと、軽度な切り傷や捻挫などの戦闘外傷以外をケアするためのファースト・エイド・キットとに区別されます。そして戦闘においても訓練においても、最も重要な装備はトラウマ・キットであって、これは絶対にファースト・エイド・キットと同じにしてはいけません。命を救うための道具とその他の道具を一緒にしていると、いざ必要となった際に余計なものが邪魔をして、本当に必要なアイテムの取り出しが遅れてしまうからです。コンマ1秒を争う極限の状況では、不必要なアクションの1つ1つが確実に死へと繋がっていきます。
2013年05月23日
頭蓋骨は装甲
皆さんhttp://news.militaryblog.jp/e437416.htmlは既にご覧になられましたか?
実はよくある話でして、弾丸はほんの少しインパクト時の角度がズレただけで、頭蓋骨を貫通することが出来ません。イラクでは、AKで撃たれて弾丸がヘルメットを貫通したにも関わらず、ヘルメットの中で弾丸が頭の周りを一周してヘルメットに2つめの穴を開けて抜けていったケースも報告されています。
民間でも、12ゲージのスラッグ(熊撃ち用の親指くらいの大きさの弾)が当っても、僅かな角度のズレによって、頭蓋骨を滑るように外れていったケースもあります。ギャング同士の抗争で、拳銃弾が頭蓋骨に刺さったまま脳まで達しなく、撃たれた人間が今日も平然と生きているなんて、よくテレビでもやってますよね。
人間にとって一番大切な脳を守る頭蓋骨は実はものすごく硬いのです。装甲として機能しなければ意味がありませんから、そりゃ頑丈に出来ています。厚さは人により(年齢・性別・健康状態など)異なりますが、分厚いところでは1cmもあります。頭蓋骨は一枚ものでなく、複数枚が合わさって構成されていますので、その継ぎ目が衝撃緩和の役割を果たすことから、頑丈この上ありません。地球の歴史の中で哺乳類が生存するために進化してきた証の1つです。
なので、小銃での戦闘距離では主に胸部が狙われます。胸部は装甲が殆ど無いに等しいですから。だから、胸部をカバーするために、ソフトアーマーや防弾プレートを着用するんです。矛と盾のいたちごっこです。じゃあ、胸部が撃たれたらどうなるのか?緊張性気胸といって、外気が胸腔に入ってくることで肺が膨らむことが出来ず呼吸困難を起こします。それを治すには、被弾箇所を塞いでから専用の針(カテーテル)で胸に穴を開けて入り込んだ外気を放出します。だから、最新の歩兵用のメディカル・キットには、カテーテルが装備されているのです。
では、もし敵側がその盾であるアーマーを入手したら?当然、味方の攻撃力は落ちますよね。だから、アメリカのITARや日本の関税法といった同盟各国の法律にて、武器そのものだけでなくアーマーにも輸出規制がかけられているのです。そういった物の持ち出し/持ち込みをしようとしたら...知りまへんで~
実はよくある話でして、弾丸はほんの少しインパクト時の角度がズレただけで、頭蓋骨を貫通することが出来ません。イラクでは、AKで撃たれて弾丸がヘルメットを貫通したにも関わらず、ヘルメットの中で弾丸が頭の周りを一周してヘルメットに2つめの穴を開けて抜けていったケースも報告されています。
民間でも、12ゲージのスラッグ(熊撃ち用の親指くらいの大きさの弾)が当っても、僅かな角度のズレによって、頭蓋骨を滑るように外れていったケースもあります。ギャング同士の抗争で、拳銃弾が頭蓋骨に刺さったまま脳まで達しなく、撃たれた人間が今日も平然と生きているなんて、よくテレビでもやってますよね。
人間にとって一番大切な脳を守る頭蓋骨は実はものすごく硬いのです。装甲として機能しなければ意味がありませんから、そりゃ頑丈に出来ています。厚さは人により(年齢・性別・健康状態など)異なりますが、分厚いところでは1cmもあります。頭蓋骨は一枚ものでなく、複数枚が合わさって構成されていますので、その継ぎ目が衝撃緩和の役割を果たすことから、頑丈この上ありません。地球の歴史の中で哺乳類が生存するために進化してきた証の1つです。
なので、小銃での戦闘距離では主に胸部が狙われます。胸部は装甲が殆ど無いに等しいですから。だから、胸部をカバーするために、ソフトアーマーや防弾プレートを着用するんです。矛と盾のいたちごっこです。じゃあ、胸部が撃たれたらどうなるのか?緊張性気胸といって、外気が胸腔に入ってくることで肺が膨らむことが出来ず呼吸困難を起こします。それを治すには、被弾箇所を塞いでから専用の針(カテーテル)で胸に穴を開けて入り込んだ外気を放出します。だから、最新の歩兵用のメディカル・キットには、カテーテルが装備されているのです。
では、もし敵側がその盾であるアーマーを入手したら?当然、味方の攻撃力は落ちますよね。だから、アメリカのITARや日本の関税法といった同盟各国の法律にて、武器そのものだけでなくアーマーにも輸出規制がかけられているのです。そういった物の持ち出し/持ち込みをしようとしたら...知りまへんで~
2013年05月22日
CQB訓練中の事故
前回の解答です。正解は③です。暴発の最たる理由がNDであることから、引き金に指がかかっていなければ、事故発生の確率は確実に下がります。銃に付いている安全装置は「機械的な」安全装置であって、オペレーターの頭(③でいう、撃発する明確な意思の確定)が「心理学的な」意味を持つ、真の安全装置なのです。
さて、前回はADとNDと言った2種類の暴発事故の違いを説明しましたが、暴発ではないのに他人や自分を傷つけてしまう事故(誤射)も残念ながらアメリカでは発生しています。その例の1つが2012年11月に発生したCQB訓練中の事故で、これは全米のトレーニング業界に大きな疑問を抱かせました。
皆さんSonny Puzikas氏てご存知ですか?元ロシア内務省のスペツナズ隊員で、退役後にアメリカでタクティカル・インストラクターをやっていた人ですけど、彼がテキサス州で開催していたCQB訓練で、何を思ったのか他のチームがデブリーフィング中の部屋に向って一人でルーム・クリアリングを始め、あろうことか別のインストラクターを撃ってしまったのです。下腹部と脚に合計3発命中しましたが、幸い命は取り留めました。発生当時、私は訓練のためにテネシー州に居ました。直ぐに情報はそこまで伝わって来ましたが、一報を聞いた皆が「???」となりました。「???」となったのは4つの理由からです。
1つ目は、何故インストラクターを誤って撃ってしまったのか?です。関係者の話によると、Puzikas氏はそれまで紙のターゲットが置いてあったところに向って行き、暗くなっていたにも関わらずターゲットを確認するためにライトを点灯させることなく、「さっきまでそこにターゲットがあったから」という理由で発射したそうです。銃器安全4則に明確に違反しています。そこにターゲットは既になく、残念ながら居たのは生きた人間でした。
2つ目は、何故1人で突然ルーム・クリアリングを始めたのか?です。これについては理由が分かりません。本人が言わないからです。当時皆で考えついたのは、「待ちくたびれて暇を持て余したロシア人が、射場でウォッカが飲めない代わりに銃を撃ちに行ったのでは?」でしたが(笑)
3つ目は、撃たれたインストラクターが初弾が当った際に声を上げたにも関わらず、何故そのまま合計で3発撃ったのか?です。これも本当の理由は本人のみが知る事実ですが、同じく推測ではそれがスペツナズ流ではないのかと。1発目で犯人を制圧し、2発目で人質を黙らせて、そして3発目で目撃者も黙らせる、てな感じで撃つのが「ソビエト」流なんだろうと(大笑)
上の3つは安全管理上の疑問点ですが、4つ目は戦術上の疑問点ですので、ここではあえて伏せておきます。今後トレーニングを受けに来られた方からこのネタについて質問を受けた際にお答えすることにします。ヒントは、この事故が発生した状況がCQBだったということです。
何れにせよ、銃器安全4則さえ守っていれば、暗かろうが人が居ようが事故は起きなかったはずです。撃たれたインストラクターのその後の回復状況についての情報はあまり入ってこないので詳しいことは分かりません。また、Puzikas氏本人の処遇についても全くと言っていい程情報が入って来ませんので分かりません。どの様な処遇が待ち受けているのか興味がありますが、何にせよ撃たれたインストラクターの早い回復を祈るばかりです。
Shadow Warriors Trainingでは、高ストレス下に置かれても冷静かつ瞬時に正しい状況判断ができるオペレーターを育てる訓練を、一般・プロの分け隔てなく実施しています。
さて、前回はADとNDと言った2種類の暴発事故の違いを説明しましたが、暴発ではないのに他人や自分を傷つけてしまう事故(誤射)も残念ながらアメリカでは発生しています。その例の1つが2012年11月に発生したCQB訓練中の事故で、これは全米のトレーニング業界に大きな疑問を抱かせました。
皆さんSonny Puzikas氏てご存知ですか?元ロシア内務省のスペツナズ隊員で、退役後にアメリカでタクティカル・インストラクターをやっていた人ですけど、彼がテキサス州で開催していたCQB訓練で、何を思ったのか他のチームがデブリーフィング中の部屋に向って一人でルーム・クリアリングを始め、あろうことか別のインストラクターを撃ってしまったのです。下腹部と脚に合計3発命中しましたが、幸い命は取り留めました。発生当時、私は訓練のためにテネシー州に居ました。直ぐに情報はそこまで伝わって来ましたが、一報を聞いた皆が「???」となりました。「???」となったのは4つの理由からです。
1つ目は、何故インストラクターを誤って撃ってしまったのか?です。関係者の話によると、Puzikas氏はそれまで紙のターゲットが置いてあったところに向って行き、暗くなっていたにも関わらずターゲットを確認するためにライトを点灯させることなく、「さっきまでそこにターゲットがあったから」という理由で発射したそうです。銃器安全4則に明確に違反しています。そこにターゲットは既になく、残念ながら居たのは生きた人間でした。
2つ目は、何故1人で突然ルーム・クリアリングを始めたのか?です。これについては理由が分かりません。本人が言わないからです。当時皆で考えついたのは、「待ちくたびれて暇を持て余したロシア人が、射場でウォッカが飲めない代わりに銃を撃ちに行ったのでは?」でしたが(笑)
3つ目は、撃たれたインストラクターが初弾が当った際に声を上げたにも関わらず、何故そのまま合計で3発撃ったのか?です。これも本当の理由は本人のみが知る事実ですが、同じく推測ではそれがスペツナズ流ではないのかと。1発目で犯人を制圧し、2発目で人質を黙らせて、そして3発目で目撃者も黙らせる、てな感じで撃つのが「ソビエト」流なんだろうと(大笑)
上の3つは安全管理上の疑問点ですが、4つ目は戦術上の疑問点ですので、ここではあえて伏せておきます。今後トレーニングを受けに来られた方からこのネタについて質問を受けた際にお答えすることにします。ヒントは、この事故が発生した状況がCQBだったということです。
何れにせよ、銃器安全4則さえ守っていれば、暗かろうが人が居ようが事故は起きなかったはずです。撃たれたインストラクターのその後の回復状況についての情報はあまり入ってこないので詳しいことは分かりません。また、Puzikas氏本人の処遇についても全くと言っていい程情報が入って来ませんので分かりません。どの様な処遇が待ち受けているのか興味がありますが、何にせよ撃たれたインストラクターの早い回復を祈るばかりです。
Shadow Warriors Trainingでは、高ストレス下に置かれても冷静かつ瞬時に正しい状況判断ができるオペレーターを育てる訓練を、一般・プロの分け隔てなく実施しています。