2016年09月11日

ホステージ・レスキュー(3)

ホステージ・レスキュー(3)
 作戦計画と予行は比較的慌ただしいペースで実行されますが、一旦現場近くまで展開した後は状況によっては暫くの間待機状態となることも珍しくありません。この間、粘り強く交渉が行われ人質が一人ずつ解放されたり、解放された人質から最新の内部の状況を得ることで作戦の細部に手が加えられたりします。ですが、逆に無駄に長い時間を費やしても犯人の精神状態を暴発寸前まで追い込んで人質を危険に晒すこと繋がるだけでなく、人質の精神状態を限界まで追い詰めると救出時に抵抗したり、自力歩行が出来ないまで体力も奪われて救出に余計な人手が必要となります。

 そこで頃合いを見計らい第4段階の突入を行いますが、人質が処刑されたりしない限り、犯人が立て籠もっている部屋まではステルス・エントリーで音無く近付きます。その場に長い時間立て籠もっている犯人の方が立て籠もっている部屋やその周りの状況を突入部隊よりも熟知しています。建物内で鬼ごっこをしている訳ではなく、犯人は一ヶ所に留まることで突入部隊の進路を予測することが出来ます。よって、犯人が立て籠もっている部屋の前までは音も声も出さずに静かに接近し、映画で見る様なダイナミック・エントリーは犯人が立て籠もっている部屋への突入時に用います。

 ただし、途中で人質の処刑が始まった場合はこの限りではありません。それ以上時間を費やす間に次の人質が処刑されかねませんので、その時点からエマージェンシー・モードに切り替えて犯人が立て籠もっている部屋へ1秒でも早く辿り着いて次の人質が処刑される前に犯人を制圧することを目指します。また、途中で突入が感付かれたり、途中で別の犯人と銃火を交わしたりと、それ以降ステルス・モードでいる必要性がなくなった時点でエマージェンシー・モードに切り替えます。

 一昔前に流行ったクイックピークは相手を確認すると同時に相手から発見される危険性があり、同じくモディファイド・プローンは機動力を低下させる危険性があることから、ホステージ・レスキューでは有効なテクニックではありません。むしろ、建物内に潜んだ敵をサーチ(索敵)・無力化するだけの作戦でも同じ危険性があることから有効とは言えません。個人的な見解ですが、過去の訓練を通じてクイック・ピークもモディファイド・プローンも使った事もなければ、使う局面に遭遇したこともなければ、使った者を見たこともありません。CQBではSpeed(速度)・Surprise(奇襲)・Violence of Action(攻撃性)が3原則として挙げられています。これらを達成して初めて敵に対して優位性を得ることが出来ますので、様々な戦術やテクニックがこの3原則を達成するために有効か否かを訓練(特にForce-on-Force訓練)を通じて試して下さい。

 ついでに挙げるなら、欧米で用いられるリミテッド・エントリー(Limited Entry)も危険性を有しています。このテクニックはコンクリートやレンガ製の壁を備えた構造の建造物内でこそ本来の目的を達成しますが、石膏ボードや土壁を構造物として備えた日本の一般家屋では全く役に立ちません。国内でリミテッド・エントリーが使える場所を挙げるならば、ターミナル駅・空港・地下街・大型商業施設などに絞られます。
続く



Posted by Shadow Warriors Training at 23:06 │小ネタ