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Posted by ミリタリーブログ at

2019年04月21日

対IED戦術(4)


 対IED戦術の3本目の柱は「敵ネットワークへの攻撃」です。これは軍隊のそもそもの目的である国土防衛・主権維持だけが任務である場合や、本国から離れた場所であっても敵となる相手が他国の正規軍である場合では想定もされていなかった任務・戦術になります。つまり、近年の米軍やNATO諸国軍を中心に広まった対IED戦術は、イラク・アフガン戦争にて非正規軍との戦闘を経験したからこそ飛躍的に発達した戦術と言えます。

 具体的に言えば、軍隊の情報部門に警察の鑑識任務が加わりました。非正規軍、特にテロリストは世界的なネットワークを持っています。テロリストはそのネットワークを駆使して、人員募集、調達、広報、教育・訓練などを行っています。テロリストのIED戦術もこれと同じで、使用する爆発物の種類や起爆装置の構造、設置方法や爆破と併用する戦術など、他のテロ組織の教訓を活かすために教訓が共有されています。


 そこで対IED戦術として、爆発後の破片をかき集めて科学捜査の手法を駆使して使用された爆発物の種類を特定したり、破片を再構築させて起爆装置の構造などを復元することで、使用されたIEDの特徴をデータベース化します。また、住民からの情報などを基にIED製造工場を急襲した際には、そこに残されたIEDの構成品だけでなく携帯電話、地図、パソコンなどを証拠として採取します。これらから指紋を取って同盟諸国が共有するデータベースに乗せると共に、HDDなどからデータを取り出して様々な連絡や情報がやり取りされた痕跡を調べ上げます。

 戦場で指紋を採取することに意味があるのか?と思われるかも知れませんが、これは特に新しい事ではありません。ベトナム戦争当時は米陸軍特殊部隊の情報担当の曹長クラスへの訓練課程で指紋採取も教えられていました。これはベトナム戦争での敵は正規軍と非正規軍とのハイブリッドであったことから、武器や爆発物などに残された指紋を採取・データベース化することで、後日捉えたゲリラ兵などの指紋と照合させて関与を解明させることに用いられていました。

 現代ではテクノロジーの進歩により部隊には専用の撮影機が配備されており、これを用いてIEDへの関与の疑われる家宅捜索先の住人や捉えたテロリストなどの虹彩指紋を撮影・データベース化することが現場レベルで成されています。勿論、指紋の採取と照合もされており、容疑者の指紋が復元されたIEDから採取された指紋と一致する場合は、情報部隊が身柄を拘束します。


 この様な地道な活動の積み重ねによって、テロリストのネットワークを地域だけのレベルでなく地球規模解明することに役立っています。そして、このネットワーク上に挙がった主要人物が戦場となっている国以外に潜んでいる場合は、外交ルートを通じて当該国の情報機関・捜査機関に対応を要請します。そうすることで、例えば調達ネットワークを断ち切って起爆装置を入手し辛い状態にしたり、当該国でのIED攻撃を未然に防ぐことに役立てられています。従って、特に近年の欧米諸国では軍隊と警察との繋がりがこれまで以上に強くなっており、戦地での情報が本国でのテロの未然防止にも役立てられています。

 情報はこの様にして敵ネットワークへの攻撃に用いられています。戦場だけでなく世界規模で共有されることで、敵の攻撃のトレンドを掴み、敵の動きを予期し、敵の攻撃を未然に防ぐことに活用されています。

終わり
  

Posted by Shadow Warriors Training at 20:07小ネタ

2019年04月07日

対IED戦術(3)


 見通しの悪いルートやIEDの埋設が容易と思われるルートなどは、事前の地図偵察によって順路から排除します。しかし、勿論それだけで完璧な訳ではないので、万が一攻撃を受けた場合を想定して複数の迂回路も設定しますが、それら迂回路も同様のリスク判断基準に基づいて精査されます。判断基準の一例としては、
 ・曲り角や交差点の多いルートは極力避ける(減速する必要が生じることから)
 ・橋やトンネルは極力避ける(IEDの設置が容易であることから)
 ・遠回りをしてでも住宅街などの複雑なルートは避ける(伏撃のリスクが高くなることから)
 ・見通しの悪いルートは極力避ける(交戦時の掩護射撃が困難となることから)
 ・道幅の狭いルートは避ける(離脱時の転回が困難となることから)
などがあります。

 しかしながら、地図偵察だけでは不十分です。第3国で入手出来る地図は最新のバージョンであったとしても何年前か分かりませんし、特にその様な国では行政の監督が行き届いていませんので、建物だけでなく道路も勝手に変わっていることがあります。そこで、可能であれば航空偵察を行い、航空写真と地図を照らし合わせることでより正確な情報を掴みます。ただし、航空偵察は最新の状況を知るために有効な方法である反面、偵察行動そのものが目に付いてしまいます。従って、技術力の高い国の軍隊は、軍事衛星からの偵察を行うことにより航空機を飛ばさずに地上のルートを調べることもあります。


 そこで近年飛躍的な進歩を挙げたのが、軍用ドローンです。つい最近までは大型の無人偵察機(グローバルホークやラプターなど)や小型の無人ヘリなどが、いわゆる無人機でした。ところが、ここ数年で車列部隊が独自に保有出来るサイズのものから、分隊規模で運用可能な使い捨ての超小型のものなど、進歩のスピードが驚くほど速くなっています。

 米軍では車列部隊が独自に偵察ドローンを飛ばして自らの進もうとしているルートを先回りさせ、偵察時には掴めなかった細かな情報をリアルタイムで調べることで、IED攻撃に対する生存性を高めています。自衛隊では普通科・特科・機甲科を戦闘職種と呼んでいますが、これは他国でもほぼ同じでした。若干の違いと言えば、この3職種に施設科(建設に係わる部隊でなく、障害除去などを担当する戦闘工兵に該当する部隊のみ)も加えられていました。ですが近年、欧米(特に米軍)では情報科がこれに新たに加えられています。IT化への抵抗があれだけ強かった米海兵隊でさえも、従来の分隊の構成を再編成して、ドローンなどを扱うシステム運用のスペシャリストが新たに分隊員として加わっています。

 そして、この情報科(情報部隊)の戦闘職種への組み込みが、対IED戦術の3つ目の柱である「敵ネットワークへの攻撃」に繋がっています。
(4)へ続く
  

Posted by Shadow Warriors Training at 22:36小ネタ