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Posted by ミリタリーブログ at

2020年08月30日

爆発事故におけるTCCC (2)


 爆発現場から自力で助けを求めて移動してくる負傷者を遭遇するたびに手当している様では時間が無駄になります。そもそも自力で移動して助けを求めることが出来るということは、四肢の機能も十分であり、かつ呼吸と循環も十分です。この様な負傷者はトリアージのカテゴリーでは軽症者に該当します。従って、自分から助けを求めて現場から避難しながら負傷の程度を説明出来る者に対しては、軽症者治療用の患者集合点や病院を示して自力で向かわせることが必要です。

 ナイトクラブ「パルス」での銃撃事件でも近くの消防署に負傷者が一気に訪れることで一時的に消防署での救急体制がパンク状態となりましたが、爆発事件・事故の現場近くには中度・重度の負傷者が取り残されていますので、本当に迅速な救命活動が必要な患者は誰なのか?何処にいるのか?を考えるないと、軽症者の治療に人員と医療資源を不必要に費やしてしまうことになります。


 爆発事件・事故の現場近くには呼吸も正常で負傷の程度は低く見えるものの呼びかけに対して応答しない負傷者がいる場合があります。彼らの抱える問題は爆発の衝撃波による鼓膜の破裂です。その様な負傷者とは会話と通じて負傷部位の確認をすることは難しですが、触診しながら表情を見ることで痛い部位が分かりますし、出血があれば出血点を確認して止血処置をすれば良い訳ですから会話が出来ないからといってケアが出来ない訳ではありません。また、来日外国人など日本語会話能力がない負傷者がいた場合でも同じです。国籍や民族が異なろうと、出血は出血、骨折は骨折です。


 爆発事件の様な現場ではTCCCの簡易トリアージが役に立ちます。見当識があれば1ポイント、四肢機能が正常であれば1ポイントとして勘定し、2ポイントある負傷者は軽症扱い、1ポイントしかない者は中度の負傷者として扱い、0ポイントの者は重度の負傷者として扱います。つまり、爆発現場近傍には迅速なケアと高度医療機関への搬送が必要となる1ポイントや0ポイントの負傷者が取り残されていますので、先の例の自力で駆け寄ってきて負傷したことを説明出来る軽症者に無駄な時間を費やすことは避けなければなりません。

 従って、警察がTCCC/TECCを本格的に導入するのであれば、訓練対象は機動隊だけでなく地域課の警察官も優先されるべきです。TCCC/TECCのトリアージのコンセプトと爆発傷害の特性を理解していないと、負傷者のトリアージが正しく行われずに重傷者を取りこぼしてしまう事に繋がりかねません。

終わり
  

Posted by Shadow Warriors Training at 21:37小ネタ

2020年08月16日

爆発事故におけるTCCC (1)


 先日レバノンの首都ベイルートで2,750トンの硝酸アンモニウムが引火爆発したことにより、多数のベイルート市民が負傷し死亡者も出たとの報道がありました。IEDの原料にもなる硝酸アンモニウムがそこまで大量に保管されていた事も問題ですが、今回は爆発事故におけるTCCCについて少し説明したいと思います。

 事故にせよ事件にせよ、爆発被害の現場においてもTCCCのコンセプトは適用出来ます。先ず必要なことは脅威の排除ですが、今回の様な事故の場合は火災危険、建造物の倒壊危険などが脅威として挙げられますので、負傷者をなるべく速やかに危険と思われるエリアから遠ざける必要があります。反対にボストンマラソンの様なIED事件においては、IEDの規模が小さいので建物を倒壊させる程の威力はないものの、2つ目・3つ目の爆発物の存在(可能性も含む)が最大の脅威となりますので、被害現場に居る人々(負傷者を含む)の誘導先の確保が課題として挙げられます。

 何れのケースにせよ、警察官や救急隊員として現場に向かう途中で負傷者や負傷者を助けようとしている一般人に遭遇しますが、そこで遭遇する負傷者の状態をどれだけ早く認識しトリアージ出来るかが勝負の分かれ道となります。今回のベイルートの爆発事故では、現場で取材するレポーターに対して身体じゅう血まみれの状態や破片などによる傷から血が流れた状態のまま現場の惨状を伝える負傷者の姿をニュース映像などで見られた方は多いかと思います。




 警察官や救急隊員として現場に向かう途中でこれらの様な負傷者と遭遇した場合、どの様にトリアージを行えば良いのでしょうか?次回のブログにて一例を紹介しますので、TCCCを学んだ方もこれから学ぼうとされる方も、多重被害者のトリアージについて少し考えてみて下さい。

(2)へ続く
  

Posted by Shadow Warriors Training at 18:06小ネタ