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Posted by ミリタリーブログ at

2019年06月30日

銃対ナイフ(2)


 ナイフを持った相手に対して銃がどの程度有効なのかを科学的に検証し、戦術的な提唱をした方がいます。アメリカ・ユタ州のソルトレークシティ市警察のデニス・テューラー(Dennis Tueller)巡査部長(当時)です。彼は1983年3月にスワットマガジンに「至近距離とはどの程度なのか?(How close is too close?)」と題した記事を寄稿し、ナイフや鈍器を持って突進してくる相手に対する銃の有効性を戦術ベースで検証しました。

 SWTのピストルコースを受けた方はこの問題点を基にしたドリルを経験されていますが、テューラー氏の検証結果をベースにしたドリルは、テューラー・ドリルや21フィート・ドリルと呼ばれています。

 彼は先ず、制服警察官や私服警察官が合図から射撃までに何秒かかるかを計測しました。勿論、制服警察官は外から見えるタイプのホルスターに銃を納めており、私服警察官は隠匿タイプのホルスターに銃を納めています。加えて、アメリカの警察では署が同じタイプの銃を貸与するところもあれば、口径や銃身長などの基準を満たせば各人が好きな銃を使用出来るとするところもあります。よって、合図からホルスタードローを経て、照準を定めて撃発(命中)させるまでのタイムは個人による差が生じます。従って、テューラー氏はそれらタイムの平均値であった1.5秒をドリルの基準として用いることとしました。

 次に彼は、平均的な体格の男性が静止状態から1.5秒でどの程度突進出来るかを計測し、これも平均値を出しました。その平均値が21フィート(約6.4メートル)であったことから、このドリルの別名が21フィート・ドリルとなっています。

 
 つまり、6.4m先からナイフを持って突進されると、撃発と同時に刺されるといった同士討ちになることが科学的に検証されたのです。彼の記事はその後の訓練に多くの影響を与えました。単純にホルスタードローを速めるといった訓練や、撃たれた相手にとってダメージが大きい大口径の銃を所持するといった無駄なものもありましたが、それらは淘汰され、現在では現実的な戦術ベースの対応策が訓練されています。

 ここで話をパート1の映像に戻しますが、ナイフを持って突進するような素振りを見せた少女に対して警察官が発砲した場面において、警察官との距離は遠いと思いますか?それとも近いと思いますか?

 あの場面ではもう少し戦術的に有効な対処法もありましたが、互いの相対距離だけに関して言えば警察官の判断は間違っていないと言えるでしょう。個人の技量の判定と戦術面の見直しに興味がある方は、是非テューラー・ドリルを実施してみて下さい。安全面の問題からドリルのやり方はこのブログでは書くことを避けさせて頂きますので、このドリルを熟知したインストラクターの指導の下で行って下さい。そして、技術や装備が如何に頼りにならず、本当に必要なことは心構えと戦術であることを見出して頂き、自らが受傷事故に遭わない様に訓練して下さい。

終わり
  

Posted by Shadow Warriors Training at 19:46小ネタ

2019年06月17日

銃対ナイフ(1)


 銃はナイフに対して必ずしも有効なのか?銃の専門家とナイフの専門家との間で行われ続けている、終わりのない討論のテーマです。この議論が終わらない理由は、双方が技術ベースの検証しかしていないことが原因です。しかしながら生存を賭けた局面を想定するにあたって重要なのは、普段の訓練で発揮出来る完璧なパフォーマンスが必ずしも発揮出来る100%の保証の無い極限のストレス下において、戦術ベースでの検証を行うことです。

 先日、埼玉県警が刃物を所持した男に対して射撃した場面を撮影した映像がニュースで流れていましたが、現場を知らない(警察実務を経験したことのない)者は十中八九、刃物を持った手を狙えだとか、相手を動けなくするために足を撃てなどと言います。勿論、当事者である現場の警察官も相手を殺さずに制圧逮捕するためには手足を撃つ方が理想的であることは十二分に分かっています。しかしながら、職務として銃器の訓練を受けた者こそ、その様な末端部への射撃は相当なレベルの訓練を受けていない限りほぼ不可能であることも分かっています。

 先ずは次の動画をご覧下さい。この動画は今年の5月3日にカリフォルニア州のオクスナード(Oxnard, California)で発生した事案の様子を、現場に駆け付けた警察官のボディーカメラが撮影した映像です。
https://www.youtube.com/watch?v=ynWBfhzMEV4

 事案の概要としては、刃物を持った未成年の少女が路上に居る、との通報を受けて駆け付けた警察官が職質中に危険を感じ、この少女に向けて発砲したというものです。再三に渡る刃物の投棄と停止指示の後に1分56秒あたりで警察官による発砲が確認出来ますが、その場面をもう一度見直して下さい。発砲した状況ですが、確かに少女は刃物を持って警察官に向かって突進するかの様な素振りを見せていますが、その際の警察官と少女の距離は近いと思いますか?それとも遠いと思いますか?

 次回は刃物を所持した相手との交戦距離について、技術ベースではなく戦術ベースな検証・解説をしたいと思います。
(2)へ続く
  

Posted by Shadow Warriors Training at 00:43小ネタ

2019年06月02日

移動間射撃??(2)


 そして映像をご覧になれば気付くかと思いますが、フロントガラス越しに射撃した後はボディーカメラの映像が左右へ小刻みに動くのが分かるかと思います。何故か?理由は簡単です。射撃する目線が運転する目線と同じであることから、射撃により生じたフロントガラスの弾痕とその周りのガラスの亀裂が、視界を邪魔して運転の妨げとなっているからです。

 車両戦術の訓練を受ければ分かることですが、相手から撃たれている最中でも運転手が行う仕事は一つです。それは運転です。射撃は他の乗員に任せます。運転手が射撃をすべき状況とは、車両が停止した時に限られます。なお、拳銃と小銃とで車内での撃ち方(構え方)が異なりますが、これは車両戦術の訓練を受けて正しい知識と実技を身に付けて下さい。

 さて、この究極の移動間射撃を検証すると、東京オリンピックに向けて新たに編成されたWaterfront Response Teamの運用が気になります(と言うよりも懐疑的になります)。


 ゾディアックや水上バイクに乗った経験があれば分かることですが、車の様な左右の揺れだけでなく、上下の揺れもあります。その様な状況で長物を装備していたところで、追尾しながらの照準・射撃は至難の業です。よって、現実的には、先ずは競技エリア内に不審な船舶を入れないことが第1であり、万が一規制線を突破されたりした場合は追尾しながら牽制射撃を行い逃走する船舶を出来るだけ直線的に進ませることに務めることが第2の戦術かと思います。何故、敵を直線的に進ませるのか?それは地上の狙撃手にとって狙い易くするためです。

 ついでを言うなら、G20サミットに向けた対テロ訓練も、もうちょっと程度の良いものを公開した方が世界から笑われないと思うのですが...


 いつも気になるのですが、この手の銃器の使用を想定した訓練で、何故イヤーマフなどを着用しないんでしょうか?想定が屋外で小口径の拳銃だから?いやいや、この様な装備の戦術部隊がイヤプロやアイプロ無しでいる事が笑われているんですけど。頼みますから、もうちょっと現実的な装備で臨んで下さい。そうでないと、外国の警察や軍隊にいる友人から、「何故イヤプロやアイプロを装備していないのか」といった答えようのない質問を受けますので。


 この場面も同様です。クロスファイヤーの危険性が考慮されていません。CQB戦術の基礎中の基礎の1つであるトライアンギュレーションが実践されていません。公開訓練は諸刃の剣です。部隊の能力を誇示するだけでなく、限界(失敗)も開示してしまいます。対テロは銃火を交えるだけではなく、その前段階の情報戦から始まっていることに留意する必要があります。

終わり

  

Posted by Shadow Warriors Training at 23:59小ネタ