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Posted by ミリタリーブログ at

2017年07月31日

ターゲット・インディケーター


 ターゲット・インディケーター(Target Indicator)とは、標的表示とも訳せますが、要は隠れている敵の居場所を見つける目安となるものの事を言います。これは自分が敵に対して自分の存在を暴露してしまう逆の場合にも言えることです。その目安となるものとは、不適切な偽装(カモフラージュ)、遮蔽物からの銃口の突き出し、装具による太陽光や自然光の反射、会話や無線の音量など、例を挙げればキリがありません。

 人間は情報の殆どを視覚から得ますので、目に見える不自然さはターゲット・インディケーターとして発見され易いです。よって、自らの存在を暴露しないためには、銃口の突き出しや陰といったものに注意を払って行動しますが、極度の緊張状態において人間は残念ながら同時に複数のことに注意を払う事が出来ません。行動する前に一呼吸置いて自らが置かれている状況や環境と、これからの自分の行動を落ち着いて確認しないと、陰などによって姿を曝け出さなくとも自らの存在を露呈する過ちを犯すことがあります。

 それが音によるターゲット・インディケーターです。壁に近付き過ぎて装具をぶつけたり、不用意に金属製のドアやフレームなどに銃口を当ててしまうことで、自らの存在を露呈してしまうのが一例です。写真を見て下さい。階段の下側から攻めるにあたって、身体より先に銃口が床面より突き出すことで上層階の敵に対して、視覚によるターゲット・インディケーターを与えることを危惧してあえてライフルではなくピストルでクリアリングを試みています。しかし、ライフルを吊り下げることで金属製の手すりの支柱に銃口が当たっています。こうなれば、折角身を隠していても存在を露呈することになってしまい、またその音の大きさから敵にこちらがどの程度の距離にいるのかも知らせてしまいます。

 この隊員はもう少し注意を払って、ライフルを身体の後ろ側まで回して吊り下げることをすべきであったと言えます。見た目によるターゲット・インディケーターはピンポイントで場所を示してしまいますが、音によるターゲット・インディケーターは近づく寸前から存在を露呈してしまいます。となれば、奇襲の要素を失うことになってしまい、CQBの3原則であるSpeed(速度)、Surprise(奇襲)、Violence of Action(攻撃性)が保てなくなりますので、作戦の途中で戦術の見直しを余儀なくされてしまいます。

 1人の不注意が部隊の生死を分けることに繋がります。よって、想定出来るあらゆる環境下で訓練を繰り返し行い、色々な状況下で起こりうる数々のターゲット・インディケーターを考え、実証し、共有することが隊員1人1人に求められます。  

Posted by Shadow Warriors Training at 00:15小ネタ

2017年07月16日

価値観と固定観念(2)


 そして、文化的・政治的背景が異なる他国の軍人や警察官と訓練することで、時として自分とは全く異なる物の味方や考え方を目の当たりにすることが出来ます。勿論全てがそのまま自分のものになるとは限りませんが、参考としたり、自分自身の考え方の枠を崩すことには役立ちます。

 先日のチェコでの訓練では、軍の訓練に仮想敵を演じる専門のスタッフ(民間のコントラクター)が参加してくれました。非常に優秀な演者たちで、不審者からテロリストまで様々な役を演じ分けて、訓練によりリアルさを加えてくれました。テロリストを演じていた女性のスタッフが廊下の真ん中で確保された際の出来事を紹介します。後ろ手に手錠をかけられ床にうつ伏せに押さえつけられた状態でも彼女は抵抗を続けました。ドイツ人や自分のような西側の価値観で訓練や生活をしてきた者にとっては、部隊の人数を割いてでも彼女をその場に押さえつけ、残りの部隊を廊下の先に向かわせることが選択肢として頭にありました。ところがポーランドやチェコなどの旧東側の軍人や警察官がとった行動は我々の選択肢にないものでした。2人が彼女の横に立ち、一方の手で彼女の上腕を掴み、もう一方の手で彼女のズボンの腰部分に手を入れ(グローブはしてますが、尻を完全に触っています)、そのまま彼女を持ち上げて近くの部屋に放り投げ入れることで部隊の進路を確保しました。

 「いやいや、それはアカンやろ?」とドイツ人からもツッコミが入りましたが、旧東側ではその様な手荒な方法が今でも少なからず継承されており、投げられた彼女も「別にいつもこうだから、大丈夫」とケロッとしてました。

 アメリカ軍はイラク戦争に派兵される部隊を集中訓練するための施設を建設し、亡命したイラク人をロールプレーヤーとして雇い訓練によりリアルさと臨場感を出させました。そこでは昨日まで普通のアメリカの生活をしていた兵士が突然敵か味方か分からない連中を相手にし、言葉の壁などを必死に乗り越えながら考えたりすることで、イラクの戦場で如何にして部隊を守るかを訓練したことにより結果として開戦当初より死傷率を下げることに繋がりました。その様な訓練では優秀なロールプレーヤーは不可欠であり、彼らの優秀な働きによってこちら側の価値観や固定観念が崩されることで、こちらの成長が成果として得られます。

 今回の訓練ではアラブ系のロールプレーヤーがいましたが、彼の放つ「アラー・アクバル」はその響きや言い方が我々が真似をするのとは相当違い、非常に訓練にリアルさを追加してくれました。聞くだけで鳥肌が立つこともありましたので、彼はロールプレーヤーとして非常に高い貢献をしてくれたと思います。
終わり
  

Posted by Shadow Warriors Training at 08:06小ネタ

2017年07月09日

価値観と固定観念(1)


 ある程度の技術と戦術レベルに達したメンバーから成るチームにとっては、作戦の成否を握る鍵はチームワークにあります。そして、部隊としての練度を上げるためには、異なる面子とよりも毎回同じ面子と繰り返し訓練する方が部隊としての錬成度が早いのは言うまでもありません。同じメンバーと訓練を繰り返すと、各人のクセや特徴をより深く理解する機会が得られるだけでなく、言葉を交わさずとも互いの要求にそれとなく気付いたり、次の行動をある程度正確に予想することが出来るようになるといった利点があります。

 チームワークには隊形や戦術なども含まれますが、その最も基礎となるのはコミュニケーションです。コミュニケーションには言葉を発するバーバル・コミュニケーション(Verbal Communication)と、表情やアイコンタクト、手信号やジェスチャー等にて交わす言葉を発しないノンバーバル・コミュニケーション(Non-Varbal Communication)とがあります。この2つの何れかの方法によって確実に部隊内でのコミュニケーションが取れると、例え個人レベルでの戦術的なミスがあったとしても、そのミスを互いにカバーし合えることで、部隊レベルでの致命的なミスを未然に防ぐこと等が可能となります。

 しかし、部隊は編制から解体まで同じメンバーでいれる訳はありません。組織の新陳代謝として古い者は去り、新しい者が入ってきます。よって、部隊レベルでは通常半年や1年といった期間を目安にチームとしての錬成度を上げるための訓練を繰り返し行います(これをトレーニング・サイクルと呼びます)。そこではベテランの隊員からルーキー隊員に対して、厳しくも愛情のある教育がなされるのはどの組織でも同じことですが、訓練や実戦において作戦の成否だけでなく部隊の生死を握るチームワークを如何に早く育成し高めるかは、リーダーシップが鍵を握ることになります。

 少々ややこしい書き方をしたかも知れませんが、部隊にとって必要なものは個人レベルでのマニアックな技術や装備や知識ではなくチームワークであり、そのチームワークの基礎となるものがコミュニケーションであり、コミュニケーションを含めたチームワークの育成や上達に必須なものがリーダーシップとなります。

 これまで自分は国外のスクールでの訓練や、そこで知り合った各国の軍人や警察官たちとのプライベートでの錬成訓練を10数年に渡り続けてきていますが、前半の5~6年は、
 ・自分自身の技術的・戦術的レベルの再確認と再教育
 ・各国が対テロ戦争にて犠牲を払って見出した新たな戦術やドクトリンの学習
を目的としていました。ですが、ある一定のレベルに達した後半からは、
 ・言語・文化の異なる軍人や警察官との訓練を通じた、自分自身のコミュニケーション能力とリーダーシップの向上
が目的となっています。

 コミュニケーションを円滑化させて互いの技術面・知識面・戦術面でのギャップを埋めるために、その訓練で初めて会った者達を如何にまとめるかに頭を悩ますのは日本人同士の部隊でも同じことですが、多国籍部隊を束ねる場合の苦労のレベルと種類はそれとは異なります。ですが、そうして価値観や固定観念といった自分自身の殻を破って成長する努力を重ねることで、結果として日本人同士だけで訓練する場合とは比べ物にならない程のコミュニケーション能力やリーダーシップの向上に繋がっている自信と実感はあります。
(2)に続く
  

Posted by Shadow Warriors Training at 22:47小ネタ