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Posted by ミリタリーブログ at

2014年06月25日

CQB(5)


 しかし、VBSSやMIOを得意とする海軍系の部隊でも、一般の建造物に突入するまでは陸戦や市街地戦の技術が必要ですので、陸軍系部隊よりも海軍系部隊が優れていると結論付けるのは誤りです。写真のような偵察・潜入フェーズを経なければ、攻撃対象である建物に近づくことさえ出来ません。また、このフェーズで接敵した場合は無条件で野戦に突入します。

 伏撃(アンブッシュ)を受けたら?迫砲撃を受けたら?負傷者が出たら?通信系統に問題が生じたら?攻撃目標である建物内での戦闘だけでなく、作戦立案の段階において接近経路や離脱経路上でのありとあらゆる問題を想定し、対応策を用意し、リハーサルを実施することが求められます。

 なお、参考までに紹介しますが、特殊部隊の世界では対応策を4つ用意します。それらは、Primary(第1案)、Alternate(代替案)、Contingency(有事)、Emergency(緊急事態)の4つであり、それぞれの頭文字を取ってPACE(ペース)と呼ばれます。このコンセプトは現在は一般部隊や民間軍事会社にも反映されており、特に軍隊に比べて援護態勢が劣るPSDではシビアに捉えています。


 つまり、作戦の成否は部隊の戦闘能力だけでなく、立案時のシミュレーションにも掛かっているのです。敵の規模や能力を理解し、敵の対応能力を過小評価せずに、ありとあらゆる可能性を想定出来るかが成功への鍵となります。何が必要なのか?何をすべきか?どうすべきか?を徹底的に検討し、作戦の参加者全員が理解して共有することが生死を分けます。戦闘は装備や火力だけではありません。射撃技術や戦術だけでもありません。最も必要なのはそれら全てのバックボーンであり、ヒエラルキーの頂点にあるマインドセットです。  

Posted by Shadow Warriors Training at 22:14小ネタ

2014年06月20日

CQB(4)


 前回の続きですが、味方同士での誤射(同士討ち)を英語ではFriendly Fireと言います。どこがフレンドリーやねん!と突っ込みたくなりますが、軍や警察の世界ではBlue on Blueと言います。その理由は自衛官ならピンとくるかと思います。作戦図では我を青、敵を赤で示しますが、その味方同士(青と青同士)であることからBlue on Blueと言います。装備品メーカーでBlue Force Gearという名のメーカーがありますが、Blue Forceとは自軍のことを言います。

 因みに私は右腕に2ヶ所と左腕に1ヶ所、海外での訓練中に受けたBlue on Blueによる傷があります。9mmが2ヶ所と5.56mmが1ヶ所です。これらは何れも実弾ではなく、Force-on-Force訓練で使用した訓練弾(Simunition FX)ですが、何れも至近距離でしたので1年以上経った今でも傷痕がハッキリ分かります。なお、付け加えておきますが、私は今日現在に至るまで友軍誤射をしたことはありません。こいつ撃ってやろうか!と思ったことは何回もありますが...

 CQBは非常にダイナミックな環境です。野戦とは距離感が異なります。下手をすればお互いに手を伸ばせば届く距離にて遭遇し撃ち合います。ですが通常のCQBよりも数段階難しいCQBがあります。それは船内でのCQBです。日本国内では海保SSTや海自特警隊などがそれらを専門としていますが、通常のCQBが360°の環境での戦いであることに比して、船内でのCQBは720°の環境にあります。船内では上下の階が強固な床や天井で構成されているケースもあれば、軽量化のために網状のパネルなどで構成された区画があります。そこでは前後左右だけでなく、上下も見通せることから、720°の戦闘環境となります。

 また、船内には触れると火傷をする機器やパイプ、着弾すると爆発炎上する機器やパイプの存在を始め、壁・床・天井は全て跳弾を起こす素材であり、水密扉が閉められているとフラッシュバンや攻撃型手榴弾が役に立たない等など、一般的な建物とは全く異なる環境が存在します。よって、VBSS(Visit Board Search and Seizure)やMIO(Maritime Interdiction Operations)と言った作戦に従事する部隊は通常の建造物でのCQBは難なくこなせますが、通常の建造物だけでCQB訓練をする一般部隊は船内では有効に戦えないのが現実です。

 なお、写真は90年代半ば頃の米海軍特殊部隊の隊員です。  

Posted by Shadow Warriors Training at 23:47小ネタ

2014年06月14日

CQB(3)


 一方、軍事作戦ではヘリコプターにて急襲するパターンもありますので、別部隊が地上から突入している間に屋上に降り立った隊員がラペリングで壁を伝って窓から突入したり、写真のように屋上(天井)に穴を開けて階下に降りる方法もあります。ファストロープと言えばヘリなどから降下するための技術としての認識が一般的ですが、写真のような使い方もします。

 では、この写真で支柱を支えている2名はどうやって降りるのか?ご心配なく、彼らは降りません。彼らの仕事は突入(降下)要員のサポートです。映画などでは突入要員のみがフィーチャーされていますが、実際の作戦はサポート役なしでは成立しません。バスにせよ飛行機にせよ、ハシゴを支えるだけ、扉を開けるだけ等など実に単純な任務ですが、それらサポートなしでは突入要員が速やかに事を済ませることが出来ません。

 勿論、写真のやり方では支柱・ファストロープ・天井に穴を開けるための装備や爆薬などを装備しておく必要がありますので、それなりの訓練も必要です。また、爆薬などで強行的に突破口を開くには大きな音を発することから、ステルス・エントリーは無意味です。突破口の形成後は作戦が完了するまでダイナミック・モード(エマージェンシー・モードとも部隊によって呼び名が変わります)によって動く必要があります。

 一部の部隊がステルス・モードでぎりぎりまで潜入する。突入の直前か同時に別部隊が別の場所で強行的に突破口を開く。それを合図に全部隊がダイナミック・モードで突入する。簡単に言えばこれがこの写真の裏側で行われている状況です。

 この複数の突破口から同時に突入する方法を、Multiple Entryと言います。当然、味方はひと塊でなくバラバラに突入しますので、敵味方入り乱れての交戦となりますので、危険度は高いです。しかし、敵に対する奇襲性は非常に高く、混乱を生じさせるにはもってこいの戦術です。

 では、敵味方入り乱れての交戦で如何に同士討ちを防ぐか?合言葉の使用もありますが、一番重要なのはトリガーフィンガーの取り扱いです。以前も書きましたが安全装置には3段階あって、究極の安全装置は射手が敵味方を識別することにあります。その識別なくトリガーに指が触れることはプロの世界ではあり得ません。通常のレンジでの射撃訓練で銃器安全4則が徹底されるのは訓練を安全に進めるだけでなく、その後の段階であるCQB訓練を行う際の事故防止、果ては実戦での味方への損害をなくすための「癖付け」でもあるのです。
  

Posted by Shadow Warriors Training at 18:12小ネタ

2014年06月06日

CQB(2)


 では戦術的に危険を伴う階段の使用を極力無くすにはどうすれば良いのか?欧米の警察系特殊部隊がよく使う手段が、ハシゴとプラットフォームが装備された専用の装甲車を用いた上層階へ直接突入する方法です。窓から直接建物内に突入する場合もあれば、非常階段のおどり場などを介して突入するやり方が一般的です。

 この手法を用いる代表的な利点は以下の通りです。
 1)犯人が予期せぬ場所から突入することによる奇襲が可能
 2)階段を利用した上層階への移動が不要
 3)直接上層階へ突入することによる時間の短縮が図れる

 しかーし、物事全てがそうであるように、利点だけでなく欠点も存在します。代表的なものは以下の通りです。
 1)突入出来る高さに限界がある
 2)接近の際に察知される可能性がある
 3)突入口が施錠されていたりした場合、破砕する必要が生じるので奇襲性がなくなる(このため、アメリカではSWAT隊員を対象としたピッキングのクラスもあります)
 4)一度に上がれる人数に制限がある

 従って部隊指揮官と所属長はそのような専用の装甲車が本当に必要か吟味する必要があり、使用する上ではこれらの様な欠点をいかにして克服できるかを考えて訓練しておく必要があります。例えば欠点2)であれば、接近と同じタイミングで別の方向からネゴシエーターなどが呼びかけて注意を反らしたり、犯人の注意を引き付けるための小芝居をうったりするのが一般的です。

 では実際に接近中に察知されて攻撃を受けたら?装甲車ですので中の乗員に関しては安全性は高いですが、既にプラットフォーム上に居れば防弾壁がない場合が殆どです。皆さんであればどうしますか?「一時退却」を選択する方が多いのでは?ですが突入するには理由があったはずです。単に犯人が単独で立て籠もっていれば危険を冒して突入する必要はありません。突入するには人質などの人命を救助する必要性があったからです。となれば、多少の犠牲は覚悟してそのまま突っ込むことも視野に入れておかなければなりません。

 部隊長を始め隊員全員が腹をくくる必要があります。軍や警察では個人の戦いではなく、人質救出などの作戦目的が存在し、部隊はその目的達成を第一優先事項として任務に臨みます。この心構え(マインドセット)を誤ると、個人の都合を優先してしまい作戦目的を達成させることが出来なくなってしまいます。  

Posted by Shadow Warriors Training at 20:35小ネタ

2014年06月01日

CQB(1)


 「CQBで何が一番難しいか?」と聞かれたら、私は間違いなく「階段の移動要領」と答えます。階段は極めて特殊な閉鎖空間であり、様々な設計タイプのものが存在します。一直線で次の階へ続くもの、折り返し(おどり場)があるもの、折り返し部分が吹き抜けとなっているもの、螺旋状のもの、踏み板の間に隙間があり見通せるもの、等など実に様々です。

 階段の途中には有効な遮蔽物が存在しませんので攻撃を受けたら進むか戻るかの2つに1つしか対応策がなく、また、先に挙げた異なるタイプの階段ごとに誰がどの位置をカバーするのか非常にややこしいです。

 一番前の隊員の姿勢に注目して下さい。私や常々「教科書的な射撃姿勢にこだわるな」と言っていますが、彼の姿勢はどうでしょうか?彼は上に行きたいのですが、普通に上がると写真手前側に背中を向けることになります。しかし、この写真の状況では、写真手前側に脅威が存在する(可能性)があるために、後ろ向けに階段を登らざるを得ません。

 後ろ向けに歩くだけでも転倒の可能性がありますが、それが階段となれば一層転倒の可能性が高くなります。そこでこの隊員は安全に後ろ向けに登れるように、片腕で銃を構えてもう一方の腕で手すりを掴んで転倒のリスクを下げています。おどり場まで行けば両手で銃を構えることが出来ますが、そこに至るまでに接敵したら勿論片手で射撃します。

 世の中にはウィーバーやアイソセレス等といった様々な射撃スタイルが存在しますが、それらはあくまでも射場や競技場で有効なテクニックです。実戦ではそれよりも、「右構え、左構え、右腕のみ、左腕のみ」の4通りを状況に応じて選択する必要があります。当スクールのクラスを受けた皆様は既にドリルで嫌ほど味わっていますが、非利き手のみでの射撃(弾倉交換を含む)は決して見よう見まねで習得できるものではありません。

 また、写真の隊員のM4カービンにはM203グレネードランチャーが付いています。皆さんは自分の小銃を片腕で構えて移動しながら射撃することが出来ますか?片腕で構えられないのであれば対処方法は次の2つのうちの1つです。①無駄なアクセサリーを外して銃を軽くする。②腕力を含めた筋力アップに励む。

 装備の新旧や良し悪しは重要なファクターではありません。人間同士の戦いにおいては個人の心身が最も重要なファクターとなります。マインドセット(心構え)、ストレングス(筋力・持久力)、そしてテクニックとタクティクス(技術と戦術)。歩兵戦術では古来から武術で言うところの「心・技・体」が重要となるのです。  

Posted by Shadow Warriors Training at 16:28小ネタ