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Posted by ミリタリーブログ at

2019年02月25日

市街地戦におけるテロリスト戦術のトレンドについて(4)


 4つ目の牽制とは、複数の場所にて攻撃を行うことでイラク軍や有志連合軍の戦力の集中を削ぐ戦術です。ISISはこの手法を用いて自らの損害を最小限に抑えながら、有志連合軍などによる戦力の集中が他の地域と比べて弱い地域にて戦略的優位性を保ちその地域を支配することに成功しています。実際にラマディ(Ramadi)を支配した際には同時にバイジ(Baiji)やバグダッド(Baghdad)への牽制攻撃も行っており、手攻と助攻との違いを混乱させることに成功したことにより、イラク軍による守備力が弱まったラマディを支配することに繋がりました。

 また、イラク軍などによる攻撃を受けた場合は、先述のIEDやブービートラップなどを多量に用いることで離脱時の時間稼ぎを行うと共に、予め他の地域に配置していた別動隊に行動を開始させることでイラク軍などの戦力の分散化を図っています。その結果、離脱の際の被害を抑えると同時に他地域での支配力を強めることに成功しています。


 ここ最近の戦争は国家間の戦いではなく、国軍とテロ組織などとの間の戦いであり、その様相は戦力や武装の差から非対象戦争(Asymmetric Warfare)と呼ばれていますが、ISISなどがその戦力差を埋めるために行っている通常戦術(Conventional Warfare)とテロ戦術(Terrorist Tactics)との組み合わせはハイブリッド戦術(Hybrid Warfare)と称されています。

 ISISは戦闘を重ねる度に戦術の複雑さと洗練さを高めてきました。米軍主導の有志連合軍やペシュメルガ(Peshmerga)などによりISISの戦力は大きく叩かれていると言われていますが、この教訓は中東だけでなく地球上の他の組織(フィリピンのアブ・サヤフ、アフリカのボコ・ハラムなど)に共有されています。NATOや米軍の同盟国が戦術や武器を共有するように、敵も同じことを行っています。

 近年の軍隊の生存率は、新たな戦闘の形態に柔軟に対応出来るか否かに委ねられています。戦争の形態が変わると武器も変わり、武器が変わるとそれを運用する戦術も変わります。ただし、それらが必要な時に必要な形で変わるか否かは、柔軟に対応出来るマインドセットに委ねられます。
終わり
  

Posted by Shadow Warriors Training at 00:04小ネタ

2019年02月09日

市街地戦におけるテロリスト戦術のトレンドについて(3)


 3つ目の戦術である「防御陣地の構築」と聞くと正規軍による野戦や市街地戦と何ら相違ない戦術であるかの様に思われますが、ISISの防御戦術は正規軍のものと様相が異なります。市街地戦において正規軍は支配している地区の守りを強固にし、その周囲に警戒地域を設定したりしますが、ISISの防御戦術は街そのものを「要塞化」することにあります。

 この「要塞化」には、塹壕、トンネル、そしてその街の民間人を利用した人間の盾が用いられます。これまでイラクではイラク軍やクルド人武装組織のペシュメルガに対抗する手段として塹壕が街の周囲に張り巡らされていたことが報告されています。モスル(Mosul)では深さ1.5メートル・幅2メートルの塹壕が掘られていたことも報告されており、それらはイラク軍やペシュメルガに対する障害として活用することに加えて、塹壕内で油脂などを燃やすことで密度の濃い黒煙を発生させて街を取り囲むことで、自らの動きを隠蔽することやイラク軍による空爆に対する目隠しとしても活用されていました。

 ISISはモスルに張り巡らせた塹壕を「カリフの壁」と名付けていましたが、同様の手法はシリアでも報告されており、2015年1月にアブ・カマル(Abu Kamal)にて使用が報告されたことを皮切りに、ラッカ(Raqqa)やマヤディーン(al-Mayadin)などでも使用が報告されており、中には長さ15kmに及ぶ塹壕もあったと報告されています。イラク北部ではシンジャール(Shingal)からキルクーク(Kirkuk)に至る500kmにも及ぶ距離の塹壕がISISにより掘削されていたとの報告がペシュメルガの前線指揮官から報告されており、クルド人自治区では同盟国軍の空爆とペシュメルガの地上戦力により掘削中のISIS部隊へ攻撃がなされ、塹壕の延伸の阻止に成功しています。


 トンネルはイラク軍などによる検問所などを地下から爆破・破壊する目的に加えて、特にイラクとシリアでは米軍主導の空爆から部隊や武器・弾薬を防御するためにも使われています。2015年3月11日に発生したイラク陸軍本部に対する爆破攻撃では陸軍本部庁舎の地下に長さ240メートルに及ぶトンネルが密かに掘られていたことが攻撃後に発見されており、そのトンネル内部に敷き詰められた爆弾が起爆されたことで周囲を警備で囲まれていた建物が地下から攻撃を受けました。この様なトンネルを用いた攻撃は、同盟国軍などによる対策によってIED・VBIED攻撃や地雷・トラップなどによる攻撃が効果的でないとISISが判断した町において報告例が挙げられています。

 人間の盾を用いた要塞化戦術はISISによるコントロールされた街にて採られています。例としては人が居住する民間の建物の屋上に、あたかも占拠して司令部や軍事拠点として用いていると思わせるために、ISISの旗が掲げられていました。これは、偵察衛星や無人偵察機からの情報だけに頼って空爆をする米軍の判断を鈍らせるためであり、地域に浸透し地上から自らの眼で情報を得る事をしなくなったテクノロジーに頼りすぎる戦術への対抗策として用いられています。この様なところに空爆を実行した場合、同盟国軍は1)民間人の犠牲者を出したことによる国際世界からの批判を浴びること、2)犠牲者の遺族を始めとする市民が同盟国軍に対する憎悪を募らせることで、よりISISによるその地域の支配構造が強まること、の2つのリスクを背負うことになります。
(4)へ続く
  

Posted by Shadow Warriors Training at 22:05小ネタ