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Posted by ミリタリーブログ at

2018年04月29日

戦闘衛生に関する補足(2)


 そして2つ目は、「清掃」です。

 後送手段が確立し患者を患者集合点から動かす、あるいは一時的なケアを施した地点から患者を患者集合点へと移す際に、バンデージやガーゼの包み、包帯の切れ端、血痕などなど、敵にとってこちらに損害が生じたことが容易に分かる「証拠品」を残さないように努める必要があります。プラスチック製の包みなどは患者の服の中にでも突っ込んでおけますし、血痕の上には砂や土をかけて一見して直ぐに分からないように時間を稼ぐ必要があります。

 敵がこちらの足跡や装備を地面に下ろした跡を手掛かりに追撃してくるのと同じで、ゴミを散乱させたままにすると部隊がそこに居た証拠を与えることになります。ましてや医療品に係わるゴミを残すと部隊に人的損害が出ていることを容易に教えてしまうだけでなく、血痕の色や匂い、捨てられた医療ゴミの種類によって、どの様な損害が出ているのかも教えてしまうことになります。

 逆の考え方をすれば、最低限の戦闘衛生の知識があれば、敵が残した痕跡から敵部隊の損害状況を予測することが可能となります。何人か分の足跡が常に一塊となって移動しているのであれば、負傷者を担架に乗せて搬送している可能性があります。ガーゼや圧迫包帯だけを使用した痕跡であれば負傷の程度は静脈出血と予測できますが、その場に残された血痕の量が多い場合はその負傷者は止血までに時間を要する何らかの理由があったと考えることが出来ます。そしてその理由として思いつくのは、圧迫止血さえ速やかに行えないレベルの部隊である、または片腕を負傷したことにより不慣れな片手だけでの処置を余儀なくされた、と想像することが出来ます。

 こちらが敵にとって不利と成り得る情報を血眼になって探すと同様に、敵もこちらにとって不利と成り得る情報をありとあらゆる方向から入手しようと努めます。成功を収めた側が必ずしも勝利するのではなく、失敗を犯した側が敗北します。野営地を撤収する際と同様に負傷者の周囲も「清掃」することを忘れないで下さい。
終わり
  

Posted by Shadow Warriors Training at 20:44小ネタ

2018年04月22日

戦闘衛生に関する補足(1)


 SWTのトレーニングでは残念ながら戦術的・技術的内容を履修する時間には限りがあるといった都合上、戦術的に深い内容の議論をする時間を設けることが出来ませんので、SWTにてCLS訓練を受けた方、これから受ける予定の方、他で同種の訓練を受けた方の区別なく、戦闘衛生に係わる検討すべき事柄をいくつか紹介したいと思います。

 先ずは患者集合点(Casualty Collection Point / CCP)についてです。

 戦闘の正面に火力を集中する必要性があることは明らかですが、正面に火力を集中し過ぎると万が一突破された際に内部が被害を被ります。ですが正面の部隊は周辺の警戒として自らの後方も見ており、また十分な火力を有していることから、正面の部隊を後方から攻撃するには攻撃側もリスクを伴います。しかしながら患者集合点は十分な戦闘行動をとることが出来ない負傷者と彼らのケアで精一杯な衛生隊員しかおらず、敵の不意の攻撃に非常に脆弱です。

 従って、正面に火力を集中するのは勿論ですが、同時に患者集合点の強靭化も考慮すべき課題になります。患者集合点が攻撃されると部隊としては内線への対応を迫られるだけでなく、心理面での被害も被ります。自分が負傷しても味方に十分護られないのではないか?自分が敵の突破を許したがために負傷した味方を犠牲にしたのではないか?これらの様な心の迷いが生じると正面の戦闘に集中することが難しくなりますので、敵としてはそこが狙い目となります。主力と戦わずして敵戦力の減退化を図れれば、戦略的な成功を得ることが出来ます。

 負傷者を狙うと聞くと非常に卑怯な行為のように思えますが、それは警察比例の原則や専守防衛といった縛りの中で戦いを強いられるがための思考回路です。敵はそんなこと知ったこっちゃないです。むしろ、敵はこちら側の法的・モラル的な縛りの隙をついてきますので、患者集合点が狙われることは敵が正規軍であろうが非正規軍であろうが最初から覚悟すべき課題です。

 従って、戦闘の激化に伴い不自由なく戦闘行動をとれる隊員を数名患者集合点に配置することをSOPに取り入れると共に訓練しておく必要があります。
(2)へ続く
  

Posted by Shadow Warriors Training at 23:56小ネタ

2018年04月15日

視野と受け持ち範囲について(2)

 ここ最近クソ忙しかったので、2週間開けてのパート2です。


 どうしても各人の受け持ち範囲をXX度と明確に決めたい流派は、警戒範囲と射撃時の視野との区別がついていないのでしょう。この写真の場合、少なく見積もっても各人の受け持ち範囲は180度あります。明確に受け持ち範囲を決めたい流派はオーバーラップを含めて200度程度を各人の受け持ち範囲と定めるでしょう。しかしながら敵と銃火を交えたらそれがどう変化するかは考慮に入れていないようです。

 例えば写真右側の隊員が接敵し射撃を開始したとします。そうなると彼の視野はサイトやスコープを覗き込んだ範囲まで絞られます。そうなるともう一方の隊員の受け持ち範囲は200度どころでは済まなくなります。射撃中の隊員の仕事は射撃です。よって、新しい射撃方向の指示や周囲の警戒は全てもう一方の隊員が受け持つことになります。そうなれば、もう一方の隊員の受け持ち範囲は360度まで広がります。

 これが3人であった場合、射撃中の隊員のバックアップ要員と警戒要員とで責任範囲を分担するか、それとも射手を2名とし3人目がやはり360度を担当するかは状況次第ですが、どちらにせよ始めからXX度と決めつけることが無意味であることは分かるかと思います。

 必要なのは受け持ち範囲を明確に決めつけることではなく、状況に応じて視野が変化することを予め理解して自分が担当すべき範囲の変化に臨機応変に対処することです。チーム戦術に必要なことは、「自分や各人がこうするべき」といった手法や手順に固執するのではなく、「他が担当していない部分(隙間)を埋める」柔軟さです。
終わり
  

Posted by Shadow Warriors Training at 23:08小ネタ

2018年04月01日

視野と受け持ち範囲について(1)


 銃を構えた状態と構えていない状態では、クリアに見える範囲(視野)が異なります。また、ストレスの高い状態と低い状態では、意識せずとも集中して見える視野が異なります。では、部隊で行動する際に、各人が自らの受け持ち範囲として担当する受け持ち範囲(あるいは射界)は、どの程度の広さであるべきでしょうか?

 大よそXX度や指を開いた手XX個分など、巷には色々な説がありますが、実はどれも現実的ではありません。と言うのも、ズバリ言えば、見える範囲は全て射界であり、その射界が受け持ち範囲であるべきだからです。確かに他者の射界と重なる部分が多いと無駄がある様に思われがちですが、例え同じ場所を見ていたとしても見え方や考え方は一人一人違います。例えば2人いるならば、4つの眼と2つの脳がある訳ですから、同じ場所を見ていた場合でも見え方・考え方の違いがあって然るべきで、それにより異常に気付き易くなります。もし複数の人間が同じ場所を全員が同じように見て同じように考えているのであれば、それは一人がやっているのと同じ事で、それこそマンパワーの無駄です。

 こちらも移動し、敵も移動する。その様な状況では刻一刻と視界の中の状況は変化します。それら変化を全て認識して対応出来るのならば、各人に決まった角度やエリアを受け持ち範囲として指定することも可能でしょうが、実際は全てを認識・識別することは出来ません。よって、複数人の視野が重なっていたとしても、それを無理に細分化することなくそれぞれが見える範囲全てを各人の受け持ち範囲として全員で対応する方が「抜け」が生じ難くなります。

 勿論、全員で同じ範囲を担当するのではなく、360°を全員で警戒します。ですが、ここで言うコンセプトは、他と重なる部分を減らして個人の受け持ち範囲を限定するのではなく、各自の受け持ち範囲が重複するエリアは多くてもそのまま残したまま全周警戒を実現することにあります。
(2)へ続く
  

Posted by Shadow Warriors Training at 23:38小ネタ