スポンサーサイト


上記の広告は1ヶ月以上記事の更新がないブログに表示されます。
新しい記事を書くことで、こちらの広告の表示を消すことができます。  
Posted by ミリタリーブログ at

2016年09月18日

ホステージ・レスキュー(4)


 突入した後は、速やかに犯人と人質を分離することに全力を尽くします。分離さえ出来れば人質の安全はある程度確保され、また犯人との間に銃火を交わすことも避ける余地も残されます。これが出来ないと、人質と人質との間を抜ける様に射撃をし、犯人だけに命中させるといった高度な技術が要求されます。逆に言えば、そのレベルの射撃技術がない場合は犯人と人質とが入り組んだ状況では救出作戦そのものを実行することが出来ません。

 また、よくある間違いはCQBの3原則の1つであるSpeed(速度)と聞くと、建物内を走って移動することです。走って移動すると確かに相手の弾には当たり難くなりますが、相手に当て難くもなります。味方と敵だけで撃ち合いを行う場合では自分自身を当てられ難くすることに創意工夫を凝らしますが、自分が撃たれなくても人質が撃たれてしまっては救出作戦は失敗に終わりますので、第3者を助けるためには自分を撃たれ難くしながらも相手に命中させる必要があります。よって、3原則にあるSpeedとは、A地点からB地点までに到達するまでの時間の短さではなく、スムーズさのことを言います。そして、このSpeedとViolence of Action(攻撃性)が合わさったものが、陸戦で言うMomentum(衝力)にあたります。

 人質の安全が確保され犯人を無力化に成功したならば、第5段階の撤収(離脱)に移ります。突入部隊は最低でも人質のエスコートを担当する部隊と犯人の身柄を移送する部隊とに2分割されます。どちらを先に連れ出すかは部屋の状況や建物の構造にもよりますが、何れにせよ犯人側には徹底した身体/所持品の検査を実施し、人質には簡易的であってもある程度の身体検査を行います。これは、犯人グループがわざと人質に成りすまして逃げる隙に他の人質や救出部隊に危害を加えることを防止するためであり、勿論人質の安全を徹底するためには一時的な避難場所までエスコートした後に、人質全員の身元照会を実施します。

 突入部隊を最低でも2分割すると説明しましたが、これは必要に応じて3分割する必要があるからです。この3つ目の部隊の役割はExploitation(戦果拡張)です。戦果拡張と聞くと警察部隊には関係がなさそうですが、そうではありません。警察部隊においては採証活動がこれに該当します。3つ目の部隊の目的は、犯人(敵)の武器類の回収を始め、仕掛け爆弾の無力化や情報収集活動になります。よって、突入部隊内に専門家がいれば別ですが、いない場合は近くで待機していた爆処理(EOD)や鑑識、情報部門の専門家によって構成された専門家チームによって担当されます。

 短絡的な行動の末に人質を取って立て籠もった一匹狼的な犯行であれば別の話ですが、武器類の入手や爆発物の製造には特別な知識やルートが必要です。手製爆弾の場合は使用する火薬の成分や配線の接続方法などに製造者の特徴が表れます。つまり、誰かに教えてもらうなどといった影響が顕著に表れますので、特徴を突き止めることは背後組織やネットワークの特定に役に立つ可能性があります。1つの案件を個別に扱うのではなく、他の案件や知られているネットワークとの結びつきを探る為の情報活動全般が戦果拡張に当たります。
終わり
  

Posted by Shadow Warriors Training at 22:00小ネタ

2016年09月11日

ホステージ・レスキュー(3)


 作戦計画と予行は比較的慌ただしいペースで実行されますが、一旦現場近くまで展開した後は状況によっては暫くの間待機状態となることも珍しくありません。この間、粘り強く交渉が行われ人質が一人ずつ解放されたり、解放された人質から最新の内部の状況を得ることで作戦の細部に手が加えられたりします。ですが、逆に無駄に長い時間を費やしても犯人の精神状態を暴発寸前まで追い込んで人質を危険に晒すこと繋がるだけでなく、人質の精神状態を限界まで追い詰めると救出時に抵抗したり、自力歩行が出来ないまで体力も奪われて救出に余計な人手が必要となります。

 そこで頃合いを見計らい第4段階の突入を行いますが、人質が処刑されたりしない限り、犯人が立て籠もっている部屋まではステルス・エントリーで音無く近付きます。その場に長い時間立て籠もっている犯人の方が立て籠もっている部屋やその周りの状況を突入部隊よりも熟知しています。建物内で鬼ごっこをしている訳ではなく、犯人は一ヶ所に留まることで突入部隊の進路を予測することが出来ます。よって、犯人が立て籠もっている部屋の前までは音も声も出さずに静かに接近し、映画で見る様なダイナミック・エントリーは犯人が立て籠もっている部屋への突入時に用います。

 ただし、途中で人質の処刑が始まった場合はこの限りではありません。それ以上時間を費やす間に次の人質が処刑されかねませんので、その時点からエマージェンシー・モードに切り替えて犯人が立て籠もっている部屋へ1秒でも早く辿り着いて次の人質が処刑される前に犯人を制圧することを目指します。また、途中で突入が感付かれたり、途中で別の犯人と銃火を交わしたりと、それ以降ステルス・モードでいる必要性がなくなった時点でエマージェンシー・モードに切り替えます。

 一昔前に流行ったクイックピークは相手を確認すると同時に相手から発見される危険性があり、同じくモディファイド・プローンは機動力を低下させる危険性があることから、ホステージ・レスキューでは有効なテクニックではありません。むしろ、建物内に潜んだ敵をサーチ(索敵)・無力化するだけの作戦でも同じ危険性があることから有効とは言えません。個人的な見解ですが、過去の訓練を通じてクイック・ピークもモディファイド・プローンも使った事もなければ、使う局面に遭遇したこともなければ、使った者を見たこともありません。CQBではSpeed(速度)・Surprise(奇襲)・Violence of Action(攻撃性)が3原則として挙げられています。これらを達成して初めて敵に対して優位性を得ることが出来ますので、様々な戦術やテクニックがこの3原則を達成するために有効か否かを訓練(特にForce-on-Force訓練)を通じて試して下さい。

 ついでに挙げるなら、欧米で用いられるリミテッド・エントリー(Limited Entry)も危険性を有しています。このテクニックはコンクリートやレンガ製の壁を備えた構造の建造物内でこそ本来の目的を達成しますが、石膏ボードや土壁を構造物として備えた日本の一般家屋では全く役に立ちません。国内でリミテッド・エントリーが使える場所を挙げるならば、ターミナル駅・空港・地下街・大型商業施設などに絞られます。
続く
  

Posted by Shadow Warriors Training at 23:06小ネタ

2016年09月06日

トレーニング受付け再開します


 お待たせ致しました。一応、主治医から激しい動きをしてもOKとの意見を得ましたので、本日よりトレーニングの受付けを再開致します。

 ただし、本調子ではなく、まだまだ派手な動きは出来ません。よって、完全に元通りに動けるようになるまでは、展示説明はこれまでより緩やかな動きで行わせて頂きます。

 よろしくお願い致します。  

Posted by Shadow Warriors Training at 22:48お知らせ

2016年09月05日

ホステージ・レスキュー(2)


 青写真を入手したり様々な器材を活用して建物の構造や部屋の構成などの情報が得られれば、第2段階であるリハーサルを実施します。同じ構成の建物があればベストですがない場合でも地面にテープなどで壁、ドア、窓などの位置を示し、どこからどの様に突入すると何処に辿り着くのかや、最新の情報に基づく犯人と人質の位置関係を突入部隊の全員が理解するまで繰り返し実施されます。西鉄バスが一人の青年によりバスジャックされた事件の際、広島県警察学校の敷地内で同種のバスを用いて突入のリハーサルが行われていたように、突入要員の進入経路、支援班の射界、人質の退避経路などを入念に何パターンも検討とリハーサルを重ねます。

 この段階で重要なことは、検討は図上で行うことも可能ですが、検証を兼ねたリハーサルは実地でフル装備で行うことです。フル装備で銃器を持って行わない限り、通路の通り抜け具合などといった問題点を発見することは出来ません。また、リハーサルを複数回行う時間的余裕があれば無線通信や手信号など、実際の突入で用いられる全ての戦術を試し、問題点の洗い出しと隊員同士の理解を深めることに務めます。なお、どれだけ入念に完璧と思われる作戦を立案して非の打ちどころのない練度までリハーサルを実施したとしても、実際に現場で一発でも発射(部隊側、犯人側を問わず)されると、それまでの完璧さは残念ながら脆くも崩れ去ります。そうなった際に程度の大小に係わらず部隊がパニックに陥って衝力が衰えないように、考えられる全てのバックアップ・プランもリハーサル中に試しておくことが望まれます(バックアップ・プランに関しては、過去にアップしたPACE / Primary, Alternate, Contingency, Emergencyに関する記事をご参照下さい)。リハーサルには、気付かれることなく犯人が立て籠もる部屋まで辿り着ける場合や、途中で鉢合わせる場合、途中で人質が処刑された場合や、途中で味方に損害が出た場合など、ありとあらゆるパターンをリストアップして、それぞれのケースへの対処要領を部隊全員で共有します。

 リハーサルを通じて突入部隊の練度が高まれば次は部隊を展開させますが、展開には2つの種類があります。1つ目は目標への接近で、現場指揮所の傍や突入目標物の傍に指定された待機エリアまで犯人に悟られないように突入部隊を近づけることです。この待機エリアでは長時間に渡り待機を余儀なくされるだけでなく、待機状態のまま事件が収束することも良くあるケースです。2つ目は犯人との接触を目的として実際に目標物へ突入を計る接敵機動です。通常、開始時にはステルス・エントリーやデリバレート・ムーブメントと呼ばれる静かでゆっくりとした移動要領や戦術が用いられますが、最終局面ではダイナミック・エントリーやエマージェンシー・モードとも呼ばれるテンポの速い移動要領と戦術へと変化します。

 なお現場の状況は刻々と変わることから、ライブで収集された情報に基づき作戦計画は常にアップデートされ続けます。つまり、部隊が目標物に突入後も最新の情報に基づいた新たな作戦計画が部隊へと伝えられますが、当初の計画から大きくずれた内容は修正や適応が効かないために、作戦計画の変更は出来る限り小さい範囲で行われるか、最悪の場合はステルス性を維持したまま一旦撤退し、再度計画の練り直しやリハーサルが行われます。

 また、人質救出作戦において最も作戦が危うくなるタイミングが、この展開の段階です。接近を悟られたり、突入が気付かれたら人質が処刑される場合がありますので、部隊は最大限の注意を払ってステルス性を維持したり、実行し得る全ての手段を講じて犯人の注意をそらす努力がなされます。例としてはヘリを低空で飛ばしてローターの羽音で部隊の移動音をかき消したりする方法です。
続く
  

Posted by Shadow Warriors Training at 22:44小ネタ