2016年09月05日

ホステージ・レスキュー(2)

ホステージ・レスキュー(2)
 青写真を入手したり様々な器材を活用して建物の構造や部屋の構成などの情報が得られれば、第2段階であるリハーサルを実施します。同じ構成の建物があればベストですがない場合でも地面にテープなどで壁、ドア、窓などの位置を示し、どこからどの様に突入すると何処に辿り着くのかや、最新の情報に基づく犯人と人質の位置関係を突入部隊の全員が理解するまで繰り返し実施されます。西鉄バスが一人の青年によりバスジャックされた事件の際、広島県警察学校の敷地内で同種のバスを用いて突入のリハーサルが行われていたように、突入要員の進入経路、支援班の射界、人質の退避経路などを入念に何パターンも検討とリハーサルを重ねます。

 この段階で重要なことは、検討は図上で行うことも可能ですが、検証を兼ねたリハーサルは実地でフル装備で行うことです。フル装備で銃器を持って行わない限り、通路の通り抜け具合などといった問題点を発見することは出来ません。また、リハーサルを複数回行う時間的余裕があれば無線通信や手信号など、実際の突入で用いられる全ての戦術を試し、問題点の洗い出しと隊員同士の理解を深めることに務めます。なお、どれだけ入念に完璧と思われる作戦を立案して非の打ちどころのない練度までリハーサルを実施したとしても、実際に現場で一発でも発射(部隊側、犯人側を問わず)されると、それまでの完璧さは残念ながら脆くも崩れ去ります。そうなった際に程度の大小に係わらず部隊がパニックに陥って衝力が衰えないように、考えられる全てのバックアップ・プランもリハーサル中に試しておくことが望まれます(バックアップ・プランに関しては、過去にアップしたPACE / Primary, Alternate, Contingency, Emergencyに関する記事をご参照下さい)。リハーサルには、気付かれることなく犯人が立て籠もる部屋まで辿り着ける場合や、途中で鉢合わせる場合、途中で人質が処刑された場合や、途中で味方に損害が出た場合など、ありとあらゆるパターンをリストアップして、それぞれのケースへの対処要領を部隊全員で共有します。

 リハーサルを通じて突入部隊の練度が高まれば次は部隊を展開させますが、展開には2つの種類があります。1つ目は目標への接近で、現場指揮所の傍や突入目標物の傍に指定された待機エリアまで犯人に悟られないように突入部隊を近づけることです。この待機エリアでは長時間に渡り待機を余儀なくされるだけでなく、待機状態のまま事件が収束することも良くあるケースです。2つ目は犯人との接触を目的として実際に目標物へ突入を計る接敵機動です。通常、開始時にはステルス・エントリーやデリバレート・ムーブメントと呼ばれる静かでゆっくりとした移動要領や戦術が用いられますが、最終局面ではダイナミック・エントリーやエマージェンシー・モードとも呼ばれるテンポの速い移動要領と戦術へと変化します。

 なお現場の状況は刻々と変わることから、ライブで収集された情報に基づき作戦計画は常にアップデートされ続けます。つまり、部隊が目標物に突入後も最新の情報に基づいた新たな作戦計画が部隊へと伝えられますが、当初の計画から大きくずれた内容は修正や適応が効かないために、作戦計画の変更は出来る限り小さい範囲で行われるか、最悪の場合はステルス性を維持したまま一旦撤退し、再度計画の練り直しやリハーサルが行われます。

 また、人質救出作戦において最も作戦が危うくなるタイミングが、この展開の段階です。接近を悟られたり、突入が気付かれたら人質が処刑される場合がありますので、部隊は最大限の注意を払ってステルス性を維持したり、実行し得る全ての手段を講じて犯人の注意をそらす努力がなされます。例としてはヘリを低空で飛ばしてローターの羽音で部隊の移動音をかき消したりする方法です。
続く



Posted by Shadow Warriors Training at 22:44 │小ネタ