2018年06月10日

AD? ND?

AD? ND?
 既に皆様ご存知の、コロラド州デンバーのナイトクラブにて非番のFBIエージェントがやらかした案件です。動画は以下のリンクを参照して下さい。
 https://www.youtube.com/watch?v=1z3beGbtAG0

 Denver Post電子版では、"When the agent retrieved his handgun, an unintended discharge occurred." (エージェントが銃を回収しようとしたところ、予期せぬ発砲が起こった)との声明が出されていた様ですが、アホか?と思いましたので今回のネタにします。そもそも動画を見れば、これは予期せぬ発砲ではなく、完全に予期できた発砲です。また、「暴発」と翻訳されている国内のニュースなどが多々ありますが、そもそも銃にまつわる事故では「暴発」と「誤射」の2つが存在しますが、両者は全く性質が異なるものです。そして今回のケースは後者の「誤射」に該当します。

 それぞれの違いを説明したいのですが、あまりにも世間に誤解が多いので、先ずはその前に銃の機能から説明しましょう。装填され安全装置が解除された拳銃や小銃が手元から落ちたらどうなるか?十中八九、暴発は置きません。起こる確率としては、シアーの極端な摩耗などといった銃の構造的なトラブルがあった場合であり、その場合は落下の衝撃でシアーが外れるなどして撃鉄が落ちる可能性があります。しかし、構造上何ら問題のない銃は、例え遠投するかの如く放り投げても、落下時に「暴発」することはありません。これは自分自身が実弾を装填して安全装置を解除した銃で何度もわざと検証のために落としたり投げ飛ばしたりした経験から言っている「事実」です。

 その証拠に問題のエージェントの銃がホルスターから抜け出て床に落ちた際には「暴発」起きていません。問題が発生したのは、彼が床に落ちた銃を拾おうとした際です。ここで彼はプロとしてはあり得ないくらい不注意にも引き金に触れた状態で銃を掴みました。その結果、撃鉄が落ちるまで引き金を引き切ってしまい、「誤射」が起きました。なお、銃の落下から「誤射」が発生するまでの間、彼は安全装置を解除するような動きは一切見せていませんので、ホルスターに入っていた状態で既に安全装置は解除されていた、あるいはマニュアルセーフティーのないタイプの銃(グロックなど)であったと言えます。

 日本語では一括りに「暴発」とされがちですが、英語では機械的な問題に起因するものはAD (Accidental Discharge)、今回のような人為的な問題に起因するものはND (Negligent Discharge)と呼び分けられています。今回の事故の場合は、あきらかにオペレーターがどんくさい奴であったことが明白であり、暴発(AD)ではなく誤射(ND)です。加えて、直ぐに銃が抜け出るようなスカスカの糞のようなホルスターを使っていたのも問題です。近年トレンドのカイデックス製のホルスターであれば激しく動いただけで抜け落ちることはありません。直ぐに銃が抜け出てしまうような安価なホルスターを使っていたら、銃撃戦が始まる前段階の動きの中で大事な銃が抜け落ちてしまいます。

 装填された銃を地面から拾い上げる。一見、あまり意味のない訓練課目に思えるかも知れませんが、実は非常に大事です。味方や敵の銃を拾い上げるだけでなく、自らが被弾したことにより落としてしまった銃を活きている腕で拾うことを想定しているのであれば、ぶっつけ本番は避けてその様な訓練は定期的に行っておくべきです。



Posted by Shadow Warriors Training at 19:57 │小ネタ