2017年08月20日

サプレッサーについて

サプレッサーについて
 今回の小ネタはサプレッサーについて。個別にちょこちょこ質問を受けたり、巷に溢れる情報に間違いが多いので、公開出来る範囲で書きたいと思います。

 まず、基本的な話しとしてサイレンサーという呼び名は間違いです。音を完全に消す(Silence)事は出来ず、抑制(Suppress)させることが限界です。よって、技術的にはサプレッサーという呼び名が正しいです。ではどの程度音量を抑制出来るのか?低減効果はサプレッサーの長さや直径にもよりますが、大抵は25~35db(デシベル)程度の音量の低下が期待出来ます。一般的な射撃用の耳栓が25~30db程度の低減効果を有し、ヘッドホンタイプのイヤーマフが20~25db程度の低減効果を有しています。

 安全基準として140db以上が聴覚障害を起こさせる音量とされていますが、14インチ以上の銃身を有する5.56mm小銃の場合は銃口付近での音量は165db程度です。よって、25db以上低減させることが出来れば、辛うじてイヤプロなしでも聴覚障害を起こさないギリギリのレベルまで下げることが期待出来ます。ただし、長期的な聴覚障害への危険性はゼロには出来ないので、サプレッサーを使用してもイヤプロを併用する事が望ましいです。

 次に初速への変化ですが、これは殆ど変わりません。そして命中精度も同じく、殆ど影響はありません。では何が大きく変わるのか?それはマズルフラッシュの抑制と、機関部側へ吹き戻されるガス量の増加です。

サプレッサーについて
 こちらの写真は一般的なサプレッサーの断面ですが、多数の気室を設けることで銃口から抜け出るガスを閉じ込める構造となっています。銃口から出るガスが多ければ多いほど銃口から出る音が大きくなるので、弾道への影響を最小限にしながら余分なガスを閉じ込めるために計算された構造となっています。銃口から吹き出る余分なガスを閉じ込めることでマズルフラッシュが抑制されます。これは特に夜戦などの低照度環境下においては重要なことです。せっかく発射音を低減しておきながら、大きな光を発射するごとに相手に見せていてはこちらの居場所を暴露してしまいます。音と光の双方を抑制することが更なる隠密性の向上に必要であり、サプレッサーはその双方を低減させる効果を有します。

 そして銃口から吹き出るガス量を抑制するという事は、通常の状態で銃口から外に吹き出るはずのガスがサプレッサーを含めた銃身部内に残ることになります。内部に溜まったガスがサプレッサーから自然に抜け出るまで間隔をおいて単発で撃つなら別ですが、続けざまに射撃する場合は抜けきれないガスがたまり続ける事になります。よって、ピストン式の場合は規正子を調整するなどして、ガスブロックに吹き戻されるガス量を調整しないとピストンが正常に作動しない事もあります。また、M4の様なガス吹付け式の場合は、ボルトを押し下げるガス量が通常よりも増大することから、射撃する度に排莢口から普段以上の量のガスが吹き出できます。よって、射手の顔に着く煤の量が増えます。

 この拭き戻されるガス量を調整する部品も売られていますが、取り付けの有無に関わらずサプレッサーを使用して射撃する場合は通常よりも高い頻度で清掃・整備をすることが必要となります。

 更に、サプレッサー内に高温の射撃ガスが溜まり続ける事によって、射撃を続ける限りサプレッサー自体の温度が上昇します。温度が上昇し過ぎると金属で出来たサプレッサーが変形し破損します。では銃身は?銃身はサプレッサーよりも肉厚ですのでサプレッサーよりも耐熱性があります。よって、サプレッサーが破損する時点までは銃身はまだ使える状態ですが、機関銃でも数100発ごとに銃身交換が必要ですので、そこまで撃ち続けると銃身も交換するタイミングとなります。まあ、サプレッサーの素材と、口径と発射速度(何れもガス量を左右します)にもよりますが、500発程度がフルオートで耐えれる限界でしょう。この事からSurefireを始め主要なメーカーは、フルオートでの射撃を控えるようにユーザーに対し訴えています。

サプレッサーについて
 ではより音量低減効果を高めるためにはどういった裏技があるのか?2007年公開のアメリカ映画「ザ・シューター/極大射程」(原題:Shooter、邦題:極大射程)にてマーク・ウォルバーグが演じるボブ・リー・スワガー海兵隊一等軍曹が水の入ったペットボトルに銃身を差し込んで簡易的なサプレッサーとしていましたが、これは理論上可能です。と言うのも空気中にガスを発射するよりも、液体の中にガスを発射する方がガスの放出量は抑制されますので、結果的に音量の抑制にも繋がります。ただし、22口径などの小口径弾での話であって、そもそもガス量の多い5.56mm弾でやれば撃発と同時にペットボトルは吹き飛びます。

 では、サプレッサーを水に浸して気室を水で満たしたら?残念ですが引力により、サプレッサーの下半分にしか水を溜めることが出来ません。実際にサプレッサーにはドライタイプとウェットタイプの2種類がありますが、下半分にしか液体を溜めておけないことと、連続発射による高温化による液体の蒸発によって、ウェットタイプでもそのポテンシャルを完全に出し切れません。また銃撃戦の最中にサプレッサーに液体を溜める余裕はありませんので、現時点での技術では狩猟用などの限定的な用途に留まっています。

 まあ、裏技の裏技としてサプレッサー内の全体に液体を溜める方法も実はありますが、それは一般には公開出来ませんのでブログでは書けません。プロ用コースで質問されたら答えるということにしておきます。



Posted by Shadow Warriors Training at 18:07 │小ネタ