2017年06月04日

ターゲット・ハードニングとは?(2)

ターゲット・ハードニングとは?(2)
 では、ターゲット・ハーデニングそのものは有効であったとして、軍と警察の混成部隊での警備やパトロールは有効と言えるのでしょうか?政治的に見れば有効と言えます。国が一丸となってテロに対する強い意志を見せつける意味合いを持ちますので、国内外への強いアピールになります。法律的な観点から言うと、これはそれぞれの国ごとに異なる問題です。我が国の様に治安出動として自衛隊を出せることは出来ても、残念ながら治安出動だけでなく自衛隊の存在そのものに反対する輩が大勢いますので、国際社会から見て当たり前と思える行為でも国内では反対運動の矛先と成り得るでしょう。

 では、戦術的な観点からはどうでしょうか?上の写真はアメリカのとある都市のSWATの訓練の様子です。お判りの様に、隊員の制服が統一されていません。その理由は、この部隊は複数の警察機構に所属する警察官から構成される、合同SWATチームであるからです。日本でも小規模の自治体が自前の消防機関を有することなく、周辺の自治体と合同消防本部を構成することがありますが、その様な感覚に近い部隊と思って頂ければ良いと思います。通常のパトロールや犯罪捜査は各自治体ごとの組織で行えるものの、人数や予算の関係からフルタイムのSWAT部隊を有することが難しいことから、選抜訓練を修了した警察官をそれぞれの組織から出して、構成する全ての自治体での事件に対処する部隊として機能させており、各自治体が警察組織を有するアメリカでは珍しことではありません。

 この様な部隊では、毎月各組織か隊員が集まって、合同で訓練を行います。そうしなければ部隊として機能することは期待出来ません。SWAT戦術を訓練したからといって、SWAT隊員として機能するとは限りません。何故なら、SWAT部隊は個人の寄せ集めではなく、チームで物事の解決に向かう組織だからです。交戦時の対処要領や、負傷者発生時の手順、通信要領や用語など、部隊として機能するために各隊員が同じ手順や戦術を認識・共有すべきことが多々あります。

ターゲット・ハードニングとは?(2)
 ですが、前回のブログで例として挙げた上の写真の様な警察官と軍人との混成チームの場合、それら対処要領や手順などが完璧に認識・共有されていると言えるでしょうか?これは普段から合同訓練を行っていないと、その場しのぎでアピールのために組まれたチームでは到底無理な話です。例えば、合同チームがパトロール中に武器を持った男を発見した場合、合同訓練を通じて対処要領を徹底していないと何が起こり得るでしょうか?考えられる最も典型的な例は、警察官が男に対して武器の放棄を命じたと同時に、軍人が男を射殺することでしょう。また、攻撃を受けた場合は、警察官は応戦しながら遮蔽物を目指し、遮蔽物の陰から戦いながら応援部隊を待つでしょうが、軍人は遮蔽物の陰に入り一旦身の安全を確保した後は、相手の動きを見ながらFire & Maneuverを用いて敵の殲滅に向かうでしょう。

 何れも対処要領として悪いことではありません。それぞれの組織が必要とされる要領を繰り返し訓練してきたことから咄嗟の判断として身体が動いただけの話です。警察官として正解の行動がとられたと同時に、軍人としても正解の行動がとられただけの話です。しかし、混成チームとしてはバラバラの動きをとった訳ですから、部隊としては失格となります。ウイングマンが付いて来ていると思っていたら、後ろの方の遮蔽物の陰に居たままだった。部屋に突入する前に出した手信号の意味が伝わっていなかった。スタックの前に居る隊員が再装填や故障排除を行う際に、自分たちの部隊のやり方とは異なる動きをしたことで、撃ち合いの最中に部隊が廊下の真ん中で身動きが取れなくなった。些細な認識の違いや、要領・手順の共通化を怠ると、時として人命に係わる問題が発生します。

 従って、政治的な物の見方と戦術的な物の見方は必ずしも同じ方向を向いている訳ではないので、普段からの手順・要領の統一化が図れないままアピール目的で何かをやろうとするのは非常に危険です。ただ、それを分かっていながらも、昔は第一戦にいたはずの偉いさんも雲の上の立場に立つと、残念ながら政治的な物の見方した出来なくなってしまうのが現状ですが...
終わり



Posted by Shadow Warriors Training at 19:15 │小ネタ