2016年01月08日

新型CAT(2)

新型CAT(2)
 前回紹介したCATの欠点を鑑みて、米軍では4軍合同の医療部門のプロジェクトでOIF・OEFで止血帯が実際に使用された事例の研究がなされました。2012年の報告では、サンプルとして抽出された100件のうち2穴式は59件で、1穴式は41件であったと報告されています。また、1穴式であった41件のうち、写真左側のやり方が27件で中央のやり方が14件であったと報告されています。因みに抽出された事例の34%は腕の負傷であり、66%は脚の負傷でした。

 止血帯は確実に強く締め付けることが重要ですが、それよりも大事なのはいかに早く締め付けるかです。止血とは出血を止めることが目的ではありません。止血の目的は出血を迅速に止めることです。そこで、片腕で用いても迅速かつ効果的に締め付けが実施出来るように、1穴式だけとした第7世代が発売されました。因みに写真中央のやり方はバックルが壊れた場合に止血帯が外れてしまうので第6世代までのCATでは間違ったやり方です。反面左側のやり方ですと、万が一ベルトがかかっている部分が壊れても、バックルの一番外側の部分にベルトが引っ掛かって完全にベルトが外れることが辛うじて防がれます。第7世代CATではこの問題に対応するためにバックルの太さを従来のものより太くし、強いトルクで締め付けても破損し難いように強度を上げていますが、第6世代までのCATでは写真左側のやり方で締め付けるのが緊縛力と速度のバランスから見て現在のところ最も有効な方法です。

 なお、2010年5月から2012年2月までの間に実際にイラクやアフガニスタンの戦場で使用された止血帯390本が前述のプロジェクトチームによる調査の為に回収されましたが、使用された案件は153件でした。つまり、1件あたり2.55本の止血帯が使用されたことになります。よって、小隊付きの衛生兵だけでなく、各隊員も各自2本以上の止血帯を携帯することが望ましいことがお分かりになるかと思います。

新型CAT(2)
 CATの特徴的なベルクロによる片手での締め付け難さへの対応として、米軍特殊部隊ではSOFTT (Special Operation Forces Tactical Turniquet) が採用されています。写真のものはその中で第3世代とされる、SOFTT-Wです。WはWide (幅広) の意味ですが、第2世代以前のモデルと比べてベルトの幅が広くなっています。実はベルトの幅は重要な要素で、締め付けた際に細胞組織を破壊せずに血管を効果的に締め付けるのに有効とされている幅が約3~5センチと臨床試験で結論付けられています。

 SOFTTはベルクロ式のベルトを用いていません。ベルクロは泥や雪が付着すると接合力が阻害されますが、特殊部隊にとっては熱帯のジャングルから極寒の極地に至るまでの世界中のあらゆる環境下での使用が想定されますので、ベルクロ式でないタイプが好まれて使用されています。

 因みに日本国内では止血帯は「医療機器」に分類されています。輸入や販売には厚生労働省などから製造販売業の許可や承認が必要です。ネット上にはCATやSOFTTを販売しているサイトが数多くありますが、官品以外に個人使用目的で購入をお考えの方は注意して下さい。正規輸入品として然るべき許可を得て輸入されたもの以外を購入されますと薬事法に抵触することになります。トレーニング目的などで個人で購入をお考えの場合はご注意下さい。

 またCATには使用期限としての年月が印字されており、未使用のまま期限が迫った物が沖縄の基地から放出品として出回っています。薬品であれば劣化や変性などで効果が低減することがありますが、ナイロン製の止血帯は腐りません。この様な製品にある使用期限は、メーカーが買い替えにより利益を得るために設定したものです。よって破損などない限り、CATは記載の期限を超えても使用出来ますので惑わされないで下さい。

 メディカル・キットも銃と同じで、片手で、場合によっては明りのない状況下でも使いこなせることが求められます。「どこぞの部隊が装備しているから優秀な装備品である」と安易に考えるのは間違っています。研究と実証を重ねて装備されているのなら参考になりますが、予算や調達の都合から装備しているだけの可能性もありますので、自分が活動する地域や作戦に応じた装備を見つけることが大切です。そして手にしたらそれをあらゆる状況を想定して演練することが望まれます。何故なら、自らの命のかけてそれらを使用する日が遠い日である保障はないからです。
終わり



Posted by Shadow Warriors Training at 23:17 │小ネタ